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デザイン思考とは?新規事業を育成する思考プロセスを解説

2000年代、ヒット商品となったiPodやWii。これらの商品は、顧客起点のプロダクト開発手法「デザイン思考」を取り入れたことにより大ヒットしたといわれています。
しかし「新規事業開発にデザイン思考は良さそうだけど、よくわからない」という方も多いのではないでしょうか。

そんな方に向けて、デザイン思考の特徴や着目されている理由、メリットや成功事例について詳しく解説していきます。

デザイン思考とは?

デザイン思考とは顧客ニーズを軸としたプロダクト開発手法の一つです。

具体的には、顧客の不満・欲求を観察、解決すべき課題を設定し、解決策をいくつも出して「本当に顧客の求めるものか」を何度も検証していきます。試行錯誤を繰り返すことで、ユーザーが本当に求めている商品やサービスを作り出すことができるのです。

また、すでにある商品を軸に、「顧客ニーズに合致する、新しい付加価値を付ける」ための商品開発ができる思考法ともいえます。

デザインとは、本来デザイナーの仕事です。デザイナーは、洋服・かばん・くつなどのアイテムを「どんな人が使うのか」「使う目的は何か」をテーマにデザインします。繰り返し試作品を作り、最適なデザインを考案しているのです。ユーザー視点でニーズや欲求を考えて、試作を繰り返し、最適なデザイン、体験から商品を作り出す工程を事業やプロダクト開発に取り入れたものがデザイン思考といえます。

なぜデザイン思考は必要? 着目されている理由

デザイン思考は、なぜ近年ビジネス界隈で着目されているのでしょうか。時代背景やユーザーに焦点をあてて、理由を詳しく見ていきましょう。

モノを持つ時代からコトの満足度が求められるようになった

モノを持つことが豊かさである時代は過ぎ、基本的な機能しかない商品は選ばれにくくなっています。例えば、高度経済成長期に普及した三種の神器である冷蔵庫、洗濯機、白黒テレビ。これらは、「生活の効率・質を上げる」と多くの需要がありました。

しかし、経済が発展した現代では、生活必需品はほとんどの人が持っています。冷やす、洗う、見る、というような基本的な機能しかない商品の消費が今後さらに加速することは考えにくいでしょう。時代はすでに、商品やサービスを利用して得られる「体験・経験」に価値を感じる「コトの時代」になりつつあります。物理的なモノではなく、体験や経験に重きをおく消費スタイルを「コト消費」といいます。

コト消費の成功事例を一つあげると、飲食チェーンの串カツ田中が販売したフライヤーと冷凍串カツのセットがあります。ただ串カツをテイクアウト販売するのではなく、卓上サイズのフライヤーとセット販売し、家族みんなで揚げる「楽しい体験」を価値として提供しました。販売開始5分足らずで100台が完売したといいます。

これまで通りではユーザーの「本当に求めているもの」には届かない

モノが行き渡り、消費が成熟し、ニーズが多様化している現代において、顕在化した顧客課題解決による商品開発では、顧客ニーズを掘り起こすことが難しくなっています。従来の機能追求型を中心とした商品開発、仮説検証では、ユーザーの「本当に求めているもの」である課題の本質は、今後も捉えづらくなっていくでしょう。

しかし、デザイン思考は仮説検証型であるにもかかわらず、人気商品・サービスを生み出した多くの企業に取り入れられています。企業側の視点ではなくユーザー視点で、共感・ニーズを発見していくことを重要視し、ユーザーの意見を取り入れながら仮説検証を繰り返すからです。

例えば顧客のところに何百回と足を運んで話を聞いてみる、試作品を手に取り使ってもらうなどの取り組みです。消費の成熟にともない、ユーザー側の欲求・要求・不満が多様化している現代では、顧客本人すら気付いていない潜在化した課題に気付くことが重要なのです。

デザイン思考を取り入れる3つのメリット

デザイン思考を新規事業やプロダクト開発に取り入れることで、顧客の多様な意見と向き合うことが増え、チーム内で知見が広がっていきます。チームのアイデア力も強くなり、イノベーションも生まれやすくなるでしょう。デザイン思考の3つのメリットをご紹介します。

多様な意見に向き合える

デザイン思考のスタートは、ユーザー視点に立ち、数多くの顧客の声を聞く・会話をすることです。次に、「取り組むべき課題は何か」「隠れた顧客のニーズは何か」をチーム全員で念入りに推測し、課題を定義していきます。課題の定義ができたら、意見を否定せずさまざまなアイデアを出していきます。

たくさんの顧客の声、チーム内のアイデアなど多様な意見と向き合い、固定観念を取り払うことで新たな発想につなげられるのです。

強力なチームになっていく

デザイン思考では、チーム内でとにかくアイデアを出し合うことが重要とされています。役職の上下に関係なく、どのような意見も平等に扱われるため、「否定されたらどうしよう」という心配はありません。

提案がしやすい環境が生まれ、メンバー一人ひとりが主体的に発言でき、アイデア創出に強いチームとなっていくのです。

イノベーションの創出

デザイン思考は「ただ良いモノ」を作り出すだけではありません。「顧客が本当に求めているモノ」を創出し、課題解決となる商品・サービスを提供していくための手法です。

顕在化した課題を解決するのではなく、顧客すら気付いていない課題に気付き、本質的な問いを立て、アイデア同士を結び付けるなどのフレームワークを活用することで、イノベーションにつながりやすくなります。

デザイン思考の3つの特徴

デザイン思考の特徴は、ユーザーすら自覚していないニーズや課題に焦点を当てる「ユーザー視点」で考えることにあります。
また、デザイン思考には特徴的な「5つのプロセス」があり、これを繰り返していくことで本質的な課題解決へと近づいていきます。

5つのプロセスを繰り返し、本質的課題の解決策に近づけていく

デザイン思考は「仮説検証型のアプローチ法」だといわれています。しかし従来のように、マーケティングリサーチから仮説を設定し、商品を開発、発売、効果検証する仮説検証型のアプローチとは全く異なります。

デザイン思考には「共感」「問題定義」「概念化」「試作」「テスト」の5つのプロセスがあります。そのプロセスをとおして顧客の本質的なニーズを発見し、仮説・検証・試行錯誤を繰り返していくのです。

この5つのプロセスを繰り返すことで、課題の本質に近づき、顧客が「本当に欲しい」と感じる新しい価値を生み出すのがデザイン思考の最大の特徴です。

会社の強みではなく「ユーザー視点」から課題を見つけ向き合っていく

デザイン思考には「ユーザーに共感しながら解決策を見い出していく」という特徴があります。
特に、高い実績のある会社での新規事業開発では、会社が持つ強みから新しいプロダクトを展開していこうと発想してしまうでしょう。しかし、高性能なモノを作れば売れる時代は終焉を迎え、「自社技術を活かした商品を作れば売れる」というわけでもありません。

顧客の声をとおして本質的な課題と向き合い、表面化されていないニーズを満たすプロダクトづくりが重要になります。

0→1の発想ではなく、1から潜在的なニーズ・プロダクトのアイデアを飛躍させていく

デザイン思考では、ユーザーのニーズをもとに課題を設定することが前提です。顧客ニーズとすでにあるプロダクトをかけ合わせて新しい価値を生み出す、いわば「ゼロからイチ」ではなく、「イチからプロダクトを飛躍させる」ことに強い思考法だといえます。

すでにある商品でも、顧客ニーズとのギャップを埋めることで、大ヒット商品へと進化させられるかもしれません。

デザイン思考の注意すべきこととは

デザイン思考はユーザーの体験や感情をもとに課題を設定して解決する手法です。そのため、宇宙旅行や仮想通貨が活用されている未来の世界など、ユーザーがあまり体験していないようなニーズの深掘りには向いていません。

つまり、デザイン思考とはすでにある商品やサービスと、顧客が本当に求めている課題解決のギャップを埋めて、新しい商品価値を創出するための思考法であり、事業によっては向かないこともあります。デザイン思考が事業に適しているのか、ほかのフレームワークや思考法が適しているのか、見極めてから取り入れましょう。

デザイン思考の5つのプロセス

デザイン思考では以下の5つのプロセスを繰り返すことで、新しい価値を持つプロダクトを生み出します。

①共感(Empathize)
②問題定義(Define)
③概念化(Ideate)
④試作(Prototype)
⑤テスト(Test)

各プロセスを必要に応じて何度も繰り返すことで、新しい視点でのニーズに気付いたり、新しい解決策を導き出したりできるのです。
デザイン思考に欠かせない5つのプロセスをあらためて確認していきましょう。

①共感(Empathize)

共感段階は、顧客に共感しニーズを発見するプロセスです。デザイン思考はここから始まります。
顧客の立場になって「どのように感じ考えるのか」「どのように行動するのか」という視点を持ち、共感を深めることが重要です。顧客の声を集め、ときに会話しながら、顧客の身体的・感情的な欲求は何か、有意義なものとは何かを理解していきましょう。

顧客への徹底的な共感と理解により、顧客にとって「必要なもの」「重要なもの」が見えてきます。

②問題定義(Define)

問題定義では、共感段階で見つけた顧客ニーズから、解決すべき課題を決定します。
顧客は「自身の本当のニーズ」に気付いていないことも多くあります。集まった情報をチーム内で共有し、本質的なニーズを推理し、「どのような問題に取り組むべきか」というプロダクトの要件を具体化していきます。

顧客ニーズを絞り込み、課題を明確にすることで、解決のヒントが少しずつ見えてくるかもしれません。

③概念化(Ideate)

概念化は、課題を解決するためのアイデアをいくつも出す段階です。顧客ニーズを観察し、課題の本質を整理してから、アイデアを出していきます。
概念化ではブレインストーミングやブレインライティングなどのブレスト手法が有効です。みんなのアイデアや意見を否定せず、質より量を重視して自由な発想で広げていきます。アイデアを広げるだけでなく、ときには気になったアイデアを深く掘り下げてみるのもおすすめです。

④試作(Prototype)

アイデアが決まったら、身近にある素材やサービス、リソースを使って素早く試作品(プロトタイプ)を作り、検証・改善を繰り返していきます。
この段階では、アイデアを具現化し、実際に触ることが目的です。そのため、完璧に作る必要はありません。デジタルプロダクトの場合は、既存のサービスを活用するなど、なるべく低コストで素早くつくれる手法を考えましょう。

試作品を検証し、改善点が見つかったら、改良版を作ります。そして改良版を検証し、改善点を発見したら、さらに改良版を、と繰り返していきます。
完成版のプロトタイプができたら、次の段階で顧客向けにテストを行います。

⑤テスト(Test)

テストはプロトタイプに対して、顧客からフィードバックをもらう段階です。課題を解決できるプロダクトであるか検証すると同時に、顧客ニーズをさらに深く理解できるプロセスでもあります。
実際に手に取って体験してもらい、「製品が顧客ニーズに沿ったものであるか?」「顧客ニーズは正しかったか?」などを検証していきます。顧客からのフィードバックや改善内容によって、5つのプロセスの適切な段階まで立ち返り、ふたたび順を追っていくのです。

5つのプロセスに沿って検証と改善を繰り返していくことで、顧客ニーズにマッチする新しい価値を持つプロダクトへと近づいていけるでしょう。

身近なデザイン思考の成功事例3つ

デザイン思考に対して、「なんとなく良さそうだ」と感じている人は多いでしょう。しかし概念的な説明だけでは、デザイン思考をどのように取り入れればいいのか、どんな風にプロダクトの成功につながるのか、イメージがつきにくいかもしれません。

デザイン思考の成功事例を3つ紹介するので、自社のプロダクトにどう活かすか、イメージしながら読み進めてみてください。

Appleの「iPod」

AppleのiPodは、開発着手からわずか5か月で発表に至ったといわれています。
短期間で発表までこぎつけるために、社内外のメンバーが総動員されました。iPodの試作品第1号が完成すると、毎日会議を繰り返していたといいます。改善点を見つけ、何度も修正を加え続けたのです。「プロトタイプは、発泡スチロールと重さを加えるための釣具など身近な物を利用した」と開発秘話で語られています。

初代モデルは12万台と売上が伸びなかったものの、第3世代からiPod人気に火が付き、3,520万台に増加しました。デザイン思考の「最初から完璧なものを作らない」という点において、初代モデルも一種のプロトタイプだったのかもしれません。

P&Gの「ブラウン」電動歯ブラシ

P&Gは「顧客はボスである」という考え方を軸に、ユーザー中心で新しい電動歯ブラシの開発を行いました。その結果、ユーザーの不満を解消するプロダクトとなり成功を収めたのです。

開発当初は、デジタル化が進む時代に合わせてIoT技術を取り入れ、ユーザーの歯磨きをさまざまな先端技術でサポートする「企業視点の商品」を構想していました。
しかし、外部アドバイザーから「ユーザーの不満や心配事をなくすことが重要である」とデザイン思考をもとにした助言があり、リサーチを進めるなかで、「専用充電器がわずらわしいこと」「交換ブラシの注文を忘れてしまうこと」がユーザーの不満だと判明したのです。

P&Gの開発チームはユーザーの声を取り入れ、「USBで充電ができる」「ブラシの交換時期を連携しているスマホアプリでリマインドする」といった機能を追加し、ユーザーの不満を解消できるプロダクトが誕生しました。

任天堂の「Wii」

任天堂のWiiはデザイン思考の実践により、1億163万台(2022年6月末時点)を売り上げた世界的な大ヒット商品となりました。ゲームを一人で遊ぶものから、家族の時間を楽しむためのものへと変革させ、「ゲームの新しい価値・新しい市場」を生み出したのです。

開発時、まずは社員の家庭観察を行い、「ゲーム機が原因で親子の関係が悪化している」という声に着目(共感)したといいます。そこで「家族が楽しめて関係を良くするゲーム機」という課題設定(問題提議)をしました。実現するためのアイデアをいくつも出し(概念化)、1,000回以上のプロトタイピングを実施したといいます。
その結果、生み出されたWiiは、リビングに置いても邪魔にならないデザイン、家族みんなで簡単に楽しめるリモコンなどの機能を実装し、新しい市場を開拓、大ヒットを記録しました。

デザイン思考のプロセスを繰り返し、ゲーム機とユーザーニーズとのギャップを埋めることで、「顧客が本当に求めていたもの」を創り出した結果だといえるでしょう。

新規事業を育成するのに有効なデザイン思考! チーム全員で取り組もう

新規事業の開発・育成にも、デザイン思考は有効です。
ただ、デザイン思考は日本の企業にはまだあまり浸透していない手法でもあります。いきなりデザイン思考を取り入れて、上司・部下、先輩・後輩で構成されたチームに「自由にアイデアを出してください」と伝えても、遠慮してしまうメンバーもいるでしょう。また、「デザイン思考なんてよくわからない」と戸惑ってしまうメンバーも出てくるかもしれません。

その場合、「デザイン思考ワークショップ」のような、小さな取り組みから始めていくことが大切です。まずはチーム全員が「デザイン思考」のメリットを理解し、スモールスタートで動き出すことから始めてみましょう。

筆者について

白杉 大

Incubation Suite プロダクトオーナー イノベーション事業部 企業変革推進本部

株式会社リクルート入社後、中古車領域の販促支援コンサルティング、研修制度開発、働き方改革などを推進。同時期に、複数の事業内新規事業で事業開発を経験。また、社内新規事業起案制度を利用し自身のアイデアも起案。200件以上の提案からグランプリに選出され、事業開発に専任従事。新規事業開発に関わる中で得た経験の濃さから、会社員がキャリアの中で新規事業に関わる意義を強く感じ、2019年7月に株式会社アルファドライブ入社。500案件以上の起案者支援メンタリング、複数の大手企業に対する制度設計支援、事業支援、研修実施に携わる。2022年より自社SaaS「Incubation Suite」のプロダクトオーナーとして事業開発を推進中。

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