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今さら聞けない新規事業開発のキホン「正しい仮説検証の進め方」

0.導入

これまで約80社、7,800件以上の新規事業を支援してきた株式会社アルファドライブ(AlphaDrive)では、毎月オンラインセミナーで新規事業開発に関するノウハウや知識を紹介しています。

2022年夏には新シリーズ「今さら聞けない新規事業開発のキホン」セミナーがスタート。シリーズ2回目の今回は、AlphaDrive執行役員兼イノベーション事業部 事業部長の古川央士が、新規事業開発の精度を上げる「正しい仮説検証の進め方」について基礎から解説します。

1.仮説検証は「いつ」行うべきか?

新規事業開発における仮説検証は「いつ」行うべきでしょうか。

仮説検証とは、想定している課題を顧客が抱えているかを確かめたり、検討中のソリューションが顧客の課題を解決し、事業として求められるかを検証するためのアクションのことです。

顧客に事業の仮説を持っていき、フィードバックを持ち帰り、仮説を修正する。その流れを何度も繰り返して行います。

一般的に新規事業開発は、事業案、事業計画を作成し、プレゼンを行い、経営会議や投資審査などで決裁者の承認が降りれば、ソリューションを実際に開発し、リリースして顧客に届けるという流れで行います。

しかし、こうしてリリースされた新しいソリューションが世の中に受け入れられるかというと、残念ながら「難しい」ことがほとんどです。なぜなら、この流れでは、ソリューションのリリース後にはじめて「顧客から反応を得る=仮説が検証される」という問題点があるからです。
リリースした段階で、顧客のニーズを満たしていないことがわかっても手遅れですし、せっかくの情熱と時間をかけてつくりあげた新規事業が無駄になってしまいます。

こういったことを避けるために、AlphaDriveでは、事業案の検討段階から顧客にヒアリングを重ねて仮説を検証し、さらにソリューションの開発中も何度も顧客に試してもらうなど、常に顧客のフィードバックと向き合い、サービスを磨き上げていくことをおすすめしています。

つまり仮説検証とは、リリース後に実施するものではなく、アイデアの検討や、ソリューションの開発と並行しながら常に行っていくものなのです。
重要なのは、リリースしてみて売れるかどうかを確かめる、一か八かの賭けのような事業開発をせず、常に顧客のフィードバックを確かめながらソリューションを設計し、事業開発の精度を高めていくことなのです。

2.正しい仮説検証は「決裁」をスムーズにする

「リリースしてみて売れるかどうかを確かめる」従来型の新規事業開発は、事業案を決裁者が検討する段階でも問題を生じさせます。
仮説検証が行われていない事業案をプレゼンされた決裁者は、起案者のアイデアを信じるかどうかの「二択の賭け」を迫られることになります。

そうなると、当然「本当に投資価値があるのだろうか?」「失敗したら自分の責任にならないだろうか?」と迷ってしまい、結果的に意思決定のハードルが高くなってしまうのです。
そういった事態の回避にも仮説検証は役立ちます。構想段階から仮説検証を繰り返していれば、おのずと具体的な事業案になるからです。

「ここまでは検証して確認できているけれど、ここからは確認できていない」「だから、これくらいの予算と時間がほしい」など、実証されたファクトと実証されていない課題、それらの分析も含めて事業案として提示できれば、決裁者もリスクを判断しやすく、次のマイルストーンも明確になります。
起案サイドと決裁サイドにファクトベースのコミュニケーションを可能にさせる点も、正しい仮説検証の大きなメリットの一つです。

3.仮説検証の具体的な手法とは?

ここからは、仮説検証のための2つの手法「ヒアリング」「プロトタイピング」についてご説明します。
ヒアリングとはその名のとおり、顧客の課題を聞き出す手法のことを指します。

ただしヒアリングに可能なのはあくまでも「課題の引き出し、深掘り」であり、「ソリューションを引き出すことはできない」という点に注意が必要です。
解決するためのソリューションを顧客がわかっていれば、それはもう課題ではありません。

いっぽうでプロトタイピングは、顧客からヒアリングした課題を解決するためのソリューションを仮で作り、顧客に試用してもらってリアクションを引き出していく手法です。
課題は顧客の側にありますが、ソリューションはあくまでも新規事業開発者の側にある、ということを意識しましょう。

4.「ヒアリング」と「プロトタイピング」の大きな違い

「ヒアリング」と「プロトタイピング」には、さらに大きな違いがあります。
それは、ヒアリングが顧客の「過去や現在の行動」を探るのに対して、プロトタイピングは顧客の「未来の行動」を探るためのアクションだということです。
例えば、新規事業でSaaSソリューションを開発する際に、「こんなツールがあったら欲しいですか?」とヒアリングするケースがよくあります。そして「欲しい」という声が多数を占めたので意気揚々とリリースしたら、まったく売れなかったというケースをよく聞きます。

残念ながら、これはヒアリングの失敗が原因です。なぜならば、ヒアリングで聞き出した「未来に対する意見」は、顧客自身も具体的にイメージできていない、曖昧な意見にどうしてもなってしまうからです。
ヒアリングの強みは、「過去や現在の行動」という事実を客観的に知れる点にあります。顧客が実際に何をしたか、なぜしたか、という事実は決して揺らぎません。だからこそ、その行動の裏にある課題を深掘りしていくことができるのです。口では「困っている」と言っても、その困りごとを解消するために何も行動を起こしていなければ、それが本当にお金をかけてでも解決したい課題であるかは疑問が残ります。
逆に、困っているからこそ、それをなんとか解決しようと行動している事実があれば、その困りごとを解決してくれるソリューションにはお金を払ってくれるかもしれません。

一方でプロトタイピングは、顧客の「未来の行動」を探るために有効なアクションです。
実際のソリューションを想起させるプロトタイプをつくり、顧客に使ってもらうことで、そのソリューションがリリースされたときの顧客の「リアクション=未来の行動」を探ることができます。

また顧客にとって、プロトタイピングに協力することはヒアリングよりも面倒なので、本当に課題を解決したい顧客だけがプロトタイピングに協力してくれる傾向があります。
つまり、プロトタイピングにどういう人がどれくらい協力してくれたのか? という「顧客の行動」からも、そのソリューションの未来のニーズを探ることが可能なのです。

このように「仮説検証」のフェーズ、目的に合わせて、ヒアリングとプロトタイピングという2つの方法を使い分けていただくことをAlphaDriveではお薦めしています。

5.仮説検証フェーズごとのお悩み

最後に仮説検証の細かいプロセスについて、それぞれのフェーズのよくある悩みをご紹介できればと思います。

仮説検証のプロセス

1.検証相手の顧客を明確にする
         ↓
2.顧客とつながる方法を考える
      ↓
3.顧客にもっていく仮説の準備をする
         ↓
4.仮説検証を実践する
         ↓
5.持ち帰った検証結果を元にピボットする

ちなみに新規事業開発のスケジュールとしては通常、発案から本格的な投資を受けるまでに約1年ほどかかるものです。内訳としては、事業アイデアの叩きづくりに約1か月、顧客課題を見つけるために約3か月、プロトタイプ検証に約3〜4か月、そこから収益性を伴った事業計画に検証を通して落とし込むために3〜4約5か月のイメージです。
つまり、ほとんどの期間を仮説検証に費やすつもりで、何度も繰り返し顧客の声と向き合うようにしてください。

1.検証相手の顧客を明確にする

検証相手の顧客をどのセグメントに定めるのか? 大きなマーケットを狙うために広げたほうがいいのか? 課題に精緻に向き合うために狭めたほうがいいのか? 悩まれている新規事業担当者も多いと聞きます。
たとえば、子育てをする親を顧客に想定した場合でも、都心部の自転車で子どもを送り迎えしている親と、地方の車で子どもを送り迎えしている親では、課題が違っていて当然です。
こういった場合、ヒアリングをして別々の課題が出てくるうちは顧客を狭めていき、最終的に一つの顧客セグメントに向き合って仮説検証することをお勧めしています。

事業をスタートしたときは狭いセグメントに向けたビジネスであっても、事業成長とともに新しい顧客セグメントを巻き込み、大きく成長した例はたくさんあります。まずは課題に精緻に向き合い、確実に解決するソリューションの開発を心掛けることが大切です。

2.顧客とつながる方法を考える

既存事業とは被らない、自社にとって新しい顧客セグメントに向けた新規事業の場合、そもそも検証するための顧客が近くにいないというケースもあります。
その場合も、SNSなど駆使して知人の紹介の紹介を辿ったり、顧客になりそうな人を調べて正面からオファーしたりすれば、案外顧客は見つかります。
また、数十年先の世界を見越した社会課題的なテーマの新規事業の場合、現時点で課題を持った顧客はいないように思えます。しかし将来を見越して、すでに動いている人は少なからずいるでしょう。その人たちを顧客として検証できることはあるかもしれません。

3.顧客にもっていく仮説の準備をする

プロトタイプは完成品に近いものであればいい、というわけでもありません。たとえば、大規模な設備投資が必要なtoB向けソリューションの新規事業の場合、どれくらいのクオリティーのプロトタイプをつくれば有効な仮説検証ができるのか、悩むこともあるでしょう。
その場合はソリューションの主要機能を分解し、「どの機能・要素を確かめれば、ソリューションの本質を検証できるのか」という視点から、ポイントを絞って検証できるプロトタイプを制作することをおすすめします。
検証のポイントさえ絞れれば、既存サービスを代用するなど、簡単なプロトタイプでも十分に仮説検証することが可能です。

4.仮説検証を実践する

ヒアリングの場合、事業案によって変わりますが、最低でも10人以上、できれば20、30人の顧客にヒアリングをすることをおすすめしています。数人だけのヒアリングで終わらせてしまうと、偏った個別の課題を解決するためのソリューション開発になってしまう恐れがあり、非常に危険です。
何十人にもヒアリングをすると、だんだん同じ課題の話に収束していくことがあります。そこまで聞くことができれば、十分だといえるでしょう。

toBの新規事業の場合、そのソリューションを導入する決裁権のある顧客だと、よりビジネス視点からの精緻なヒアリングが可能なのでおすすめです。

5.持ち帰った検証結果を元にピボットする

顧客の声や課題をたくさん聞くことができた結果、逆にどれに絞り込めばいいのかわからなくなることもあります。「この課題も、あの課題も解決する」と欲張ってしまい、事業開発が難航する事態に陥ってしまいます。
その場合、見つかった課題を「must have(絶対に必要なもの)」と「nice to have(あったらいいもの)」に整理・分類し、「must have」の課題にフォーカスして、事業アイデアをブラッシュアップすることが重要です。

また、ヒアリングしなくても誰もが知っているような「浅い課題」も省いていくといいでしょう。ヒアリングを何度も深掘りしてたどり着いた、顧客すらも言語化できていなかった「深い課題」を解決するソリューションを開発することができたら、そこにビジネスチャンスが生まれるかもしれません。

6.まとめ

今回は「今さら聞けない新規事業開発のキホンvol.2 正しい仮説検証の進め方」と題し、仮説検証の手法、失敗しないためのポイントをお話ししました。
重要なのは「事業開発とは、常に顧客と共に行なっていくものである」ということです。仮説検証は、ソリューションと顧客課題とのズレを無くすための方法と言えるかもしれません。

今回ご紹介した仮説検証の手法と注意点を意識し、正しい新規事業開発のための参考としていただければ幸いです。

筆者について

古川 央士

株式会社アルファドライブ 取締役 兼 COO

青山学院大学卒。学生時代にベンチャーを創業経営。その後、株式会社リクルートに新卒入社。SUUMOでUI/UX組織の立ち上げや、開発プロジェクトを指揮。その後ヘッドクオーターで新規事業開発室のGMとして、複数の新規事業プロジェクトを統括。パラレルキャリアとして、2013年に株式会社ノックダイスを創業。飲食店やコミュニティースペースを複数店舗運営。一般社団法人の理事などを兼任。社内新規事業や社外での起業・経営経験を元に、2018年11月、株式会社アルファドライブ執行役員に就任。リクルート時代に1000件以上の新規事業プランに関わり、10件以上の新規事業プロジェクトの統括・育成を実施。株式会社アルファドライブ入社後も数十社の大企業の新規事業創出シーン、数千件の新規事業プランに関わる。2023年より株式会社アルファドライブ取締役兼COO。

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