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今さら聞けない新規事業開発のキホン「優れたビジネスモデルの組み立て方」

0.導入

 これまで約80社、7,800件以上の新規事業を支援してきた株式会社アルファドライブ(AlphaDrive)では、毎月オンラインセミナーで新規事業開発に関するノウハウや知識を紹介しています。

2022年夏には新シリーズ「今さら聞けない新規事業開発のキホン」セミナーがスタート。シリーズ3回目の今回は、AlphaDrive執行役員兼イノベーション事業部 事業部長の古川央士が、新規事業開発における「ビジネスモデルの組み立て方」を基礎から解説します。

1.「新規事業のビジネスモデル」の重要なポイントは?

 みなさまは「新規事業のビジネスモデル」について、どのようなイメージをお持ちでしょうか。
例えば「あなたの考えている新規事業のビジネスモデルをプレゼンしてください」と言われたとき、どのように説明するでしょうか。

一般的には、お金やモノの動きを図解した「ビジネスモデル図」、あるいはビジネスの構造を考える際に用いる「ビジネスモデルキャンバス」などのフレームワークを使い、説明される方が多いのではないかと想像します。

ですが、こと新規事業開発においては、そうした一般的なビジネスモデルの捉え方が最適であるとは言い切れません。間違っているわけではないのですが、重要なポイントが違うのです。

結論から言うと、新規事業開発におけるビジネスモデルとは、「儲かるか否か」を重点的に考えることが適切だと、AlphaDriveでは考えています。

新規事業のビジネスモデルのポイントを「収益性」に置くことは、事業投資を円滑にするだけでなく、事業の継続性という観点からも非常に重要です。

前者の理由としては、悲しいことかもしれませんが、どれほどわかりやすいビジネスモデル図を作成して事業プレゼンに臨んでも、役員会、投資審査の場では、儲かるか否か以外の点はほとんど重視されない、という現実があります。

加えて、新規事業はボランティアではない、という点も大切です。一時的に顧客の課題を解決するだけならボランティア活動でも可能です。しかし、継続的に顧客の課題を解決し続けるためには、当然ですが収益がなければいけません。

さらに付け加えると、新規事業のビジネスモデルにおいては、他社よりも自社がやったほうが儲かるかどうかという視点も大切です。

単に「利益が出る」ビジネスモデルよりも、「自社のアセット活用などの理由から、他社以上の利益が出る」ビジネスモデルのほうが、より自社がそのビジネスに取り組む必然性が見出せますよね。

このように、新規事業におけるビジネスモデルでは「儲かる(利益が出る)仕組み」にフォーカスすることが重要なポイントになるのです。

2.「儲かる仕組み」が新規事業の成否を分ける

 では、「儲かる(利益が出る)仕組み」を考えるには、どうすればよいのでしょうか。

なるべく「安く作って(費用・コスト)」「高く売る(売上)」ことができれば、その差額により利益を出すことができます。

さらに「たくさん売る」ことも大事ですが、それは市場や顧客が決めることであって、企業や担当者の意思では決められません。

しかし、新規事業で開発したサービスの価格は企業が自由に決めることが可能です。つまりどれくらい「高く売るか」という値付け(プライシング)の作業が、新規事業のビジネスモデル、収益性を考えるうえで、非常に重要な役割を担っているのです。

3.顧客の意見を聞いたプライシングは絶対NG

 プライシングには、原価から価格を割り出す「原価積上方式」、需要から予測して価格をつける「需要予測方式」、競合と比較して価格をつける「競合比較方式」などの手法が存在します。

しかし、こうした既存の手法は、じつは新規事業のプライシングとして適切ではありません。
また新規事業開発といえば、顧客へのヒアリングが重要ですが、「顧客に値段を聞き、プライシングする」は絶対NGだと肝に銘じてください。

当然ですが、顧客は安ければ安いほど良いと考えます。極論を言えば、無償で提供されることを望むわけです。ですが、それでは事業として利益を出すことが非常に難しくなりますし、サステナブルなビジネスモデルにはなりません。

4.最初の価格設定は「高ければ高いほどいい」

 では、既存のプライシング手法を使わず、かつ顧客ニーズも聞かずに値付けをするにはどうすれば良いのでしょうか。

ここでは新規事業開発におけるプライシングとして、「理論上設定可能な最高金額をつける」という方法をご紹介します。
つまり、新しく開発したサービスの価格設定は、高ければ高いほど良い、ということです。

「理論上設定可能」とは、顧客のお財布事情のことを指します。つまり、サービスの対象となる顧客が支払ってもいいと思える最高金額がプライシングの出発点である、ということです。

「ファミリー層向けの旅中の体験型サービス」という新規事業案を例にしてみましょう。

旅行に使う予算には、交通費、宿泊費、食費などの最低限必要な費用と、お土産などに使う余剰の費用の2つに分かれます。
この「余剰の費用」の最高限度額が、「ファミリー層向けの旅中の体験型サービス」における「理論上設定可能な最高金額」になるわけです。

「そんな値付けをしたら顧客の反感を買いかねないし、競合に負けてしまうのでないか」と思う方もいらっしゃるでしょう。
新規事業のアイデアを提案したら、経営陣から「競合他社よりも安い価格にしてほしい」と指示された、という話もよく聞きます。

しかし最初から「高いからいらない!」となることを恐れ、安価なプライシングをすることこそ、新規事業開発では良くないのです。
「安い値段をつける」ことは、ビジネスモデルにおいて利益を下げるだけでなく、自らのサービスの価値を下げている、とも言えます。
顧客の課題解決ができている、真に価値のあるサービスであれば、「理論上可能な最高金額」のプライシングをする正当な理由があるはずです。

また、それでも経営陣から「競合他社よりも安い価格に」という指示が出るのであれば、新規事業の独自の提供価値をきちんと伝えきれていない可能性もあります。
その原因が伝え方にあるのか、そもそもの事業アイデアの甘さにあるのか、冷静に振り返って考えてみることが大事かもしれません。

5.ローンチ後に値上げすることのデメリット

さらに注意しなくてはならないのが、「サービスローンチ後に値下げをするのは簡単だが、値上げをするのは非常に難しい」という問題です。

サービスをローンチしてから値上げをする際、顧客からの心象が悪くなる、と心配される方も多いでしょう。
じつはそれよりも大きな問題が、ローンチ後に値上げをしても売上は変わらないどころか下がる恐れすらもある、というケースです。
値上げをすれば離脱する顧客も出てきますし、ステークホルダーへの説明やシステム変更のコストも必要です。諸々の影響の結果、値上げをしたのにトータルの売上は変わらず、ただ労力を使っただけというケースが大変多いのです。

6.価値を顧客に伝えるための「マネタイズモデル」とは?

 では、「理論上可能な最高金額」のプライシングが実現したとして、その価値をどのように顧客に伝えて、購入してもらえば良いのでしょうか?

サービスの価格というのは不思議なもので、顧客への見せ方、伝え方によって、その印象が大きく変わります。
つまり、設定した価格に対して「支払っても良いかも?」と顧客に感じてもらうための「売り方=マネタイズモデル」の開発が重要なのです。

「マネタイズモデル」の例をいくつかご紹介します。

例えば、基本プレイ無料のソーシャルゲームで、20,000円のレアアイテムを販売するとします。
急に「20,000円です。欲しい人は買ってください」と伝えると、
顧客は購入してくれるどころか、「いままで無料だったのに、急に高額な商品を買わせるのか!」なんて怒ってしまうかもしれません。

ですが、これが「1回200円で、1%の確率で当たるガチャ」として販売されたらどうでしょうか。
これなら「200円なら払っても良いかな」「何回かやって、当たらなければやめよう」と、購入してくれる顧客もいるかもしれません。

上記はあくまでも例ですが、こうしたその都度ごとに支払ってもらうマネタイズモデルを「都度課金型」と呼びます。
20,000円の商品を、そのままの値段で販売するのではなく、「1回200円のクジを買ってください。1%の確率で手に入ります」という販売方法にシフトすることで、購入のハードルを下げているわけです。

次の例にいってみたいと思います。「月平均2本の映画を観ることができる、年間20,000円の動画サービス」を想像してみて下さい。
その場合、顧客は「年間24本で20,000円は高すぎる! 1本300円でレンタルするほうが安い」と感じるかもしれません。

しかし、「月1,500円で、数万本の映画が選び放題です!」と言い方を変えるとどうなるでしょう。
これなら「お得」だと感じてくれる顧客もいるかもしれません。このようなマネタイズモデルを月額課金型、あるいはサブスクリプションモデルと呼びます。

最終的に支払ってほしい金額は同じなのに、このように売り方を変えるだけで、イメージはガラッと変わることがわかると思います。

最後に、もう一つのマネタイズモデルを見てみましょう。
「中途採用をお手伝いするので、300万円ください」というリクルーティングサービスがあったとします。ぱっと見「300万円!? 高い!」と思われるかもしれません。

ですが、「採用できなかったらお代はいただかないので、採用できたら年収の3割ください」というサービスならどうでしょうか。
採用できなければ無料だし、「本当に良い人を採用できるなら、そのときは支払ってもいいかも」と感じませんか?

このような成果に応じて支払ってもらう方法を、成果報酬型のマネタイズモデルと呼びます。

いかがでしょうか。都度課金型、月額課金型、成果報酬型という3つのマネタイズモデルをご紹介しました。

これらに共通して言えることは、サービスの価値を顧客に伝えつつ、「それなら支払っても良いかな?」と感じてもらう作用があるということです。
ちなみに3つのマネタイズモデルはあくまでも例なので、アレンジしたり、組み合わせたりすることも可能です。

例えば「採用時の成果報酬は10%で良いので、月額課金で〇〇円ください」といった組み合わせや、都度課金型でもYouTubeのスーパーチャットのような投げ銭スタイルも存在します。
あくまでも新規事業のビジネスモデル(利益が出る仕組み)を考えるための一つの手法として参考にしていただければと思います。

7.まとめ

 今回は「今さら聞けない新規事業開発のキホンvol.3 優れたビジネスモデルの組み立て方」として、「利益が出る仕組み」をつくるうえでの大事な点についてご説明させていただきました。

新規事業開発は、顧客課題を解決するための取り組みでもありますが、ボランティアでは継続的な活動ができません。
せっかくの価値のあるサービスを、継続的に社会に提供し続けるためにも、常に「どうすればより収益性が高まるか」を念頭に置いて事業開発する必要があります。

今回ご紹介したビジネスモデルの組み立て方を参考に、みなさんも正しい新規事業開発を進めてみてください。

登壇者について

古川 央士

株式会社アルファドライブ 取締役 兼 COO

青山学院大学卒。学生時代にベンチャーを創業経営。その後、株式会社リクルートに新卒入社。SUUMOでUI/UX組織の立ち上げや、開発プロジェクトを指揮。その後ヘッドクオーターで新規事業開発室のGMとして、複数の新規事業プロジェクトを統括。パラレルキャリアとして、2013年に株式会社ノックダイスを創業。飲食店やコミュニティースペースを複数店舗運営。一般社団法人の理事などを兼任。社内新規事業や社外での起業・経営経験を元に、2018年11月、株式会社アルファドライブ執行役員に就任。リクルート時代に1000件以上の新規事業プランに関わり、10件以上の新規事業プロジェクトの統括・育成を実施。株式会社アルファドライブ入社後も数十社の大企業の新規事業創出シーン、数千件の新規事業プランに関わる。2023年より株式会社アルファドライブ取締役兼COO。

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