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今さら聞けない 新規事業開発のキホン 「“顧客不在”を回避するプロトタイプの組み立て方を具体事例で解説」

0.導入

新規事業開発は、「時間」や「資金」という制約との戦い。「本業を回しながら、20%のリソースを使って進める」ということも珍しくありません。こうした制約の中で“売れる”新規開発事業をつくるには、仮説検証のフェーズで「プロトタイピング」を適切に回せるかどうかが鍵になります。今回は、プロトタイピングの正しい組み立て方や、顧客の声を適切に反映するためのポイントを、東芝デジタルソリューションズ株式会社でさまざまな新規事業を立ち上げた経験を持つ、AlphaDriveインサイドインキュベーション・リードの安部和晃が解説します。

1.「プロトタイピング」の本当の目的は? 

「プロトタイピング」というと、「試作品をつくる」というイメージを持つ人が多いのではないでしょうか。しかし、単に試作品をつくるだけでは、プロトタイピングとはいえません。なぜなら「目的」が抜けているからです。では、何のためにプロトタイピングをするのでしょうか。

新規事業開発ではアイデアを持って顧客へのヒアリングを行い、「顧客は誰か」「課題は何か」「課題をどのように解決するか」ということを考察し、仮説を立てます。その中の「課題をどのように解決するか」という仮説を具体的に検証するのが、プロトタイピングのフェーズです。従って、プロトタイピングは「ソリューションの仮説検証をするために試作品をつくること」であると定義できます。

プロトタイピングでは、前のフェーズで特定した顧客や課題に対して、ソリューションが有効であるかどうかを実証していきます。この後に続くSEED期には、実際に投資を受けて事業を立ち上げサービスをリリースしたり、エンジニアを入れてプロダクトを開発したりして事業を立ち上げていきます。

立ち上げた事業が売れるかどうかは、プロトタイピングで「顧客がお金を払ってでも解決したい」「深い課題を解決できる」ということを実証できるかどうかにかかってきます。つまり、実証さえできていれば、売れる事業になる可能性が高くなります。

2.仮説検証を高速で回しながら、プロトタイピングのレベルを上げる

プロトタイピングでは、「ソリューション仮説実証のための試作品づくり→試作品を持って顧客のところに行く→仮説再設定→試作品に反映→再度、顧客のところに行く」というサイクルを回します。

実際にサイクルを回す際に難関となるのが「リソース」です。企業が新規事業開発に割けるリソースは限られていることが多く、いかに時間とお金をかけずに実行できるかが鍵になります。AlphaDriveでは、このサイクルの目安として、「検証期間6カ月から12カ月で300回程度顧客のもとに行くことが望ましい」とアドバイスしています。

では、どのようにしてサイクルを高速で回していくのか。ポイントは、「レベル(段階)に応じて必要最低限の試作品をつくる」ことにあります。

レベル1:紙(制作の所要時間の目安:30秒)
30文字程度のコンセプトを表わした言葉を含む簡単な企画書。これを顧客に見せることでニーズを検証する。

レベル2:手作業(制作の所要時間の目安:3時間)
サービス全体を人力で回す。顧客を集めて、その課題に対して起案者のチームが電話やメールを手段にサービスを実施し、「成立するか否か」を検証する。

レベル3 :組み合わせ(制作の所要時間の目安:12時間)
レベル2のサービスにFacebook、LINE、X(旧Twitter)などの既存SNSサービスを組み合わせてブラッシュアップ。「成立するか否か」を、より深く検証する。

レベル4:デザインだけ(制作の所要時間の目安:1日)
きちんとしたデザインを部分的につくる。ホームページなら1枚だけ、ハードウエアなら外側の見た目だけをつくり、顧客に見せて実際のサービスをイメージしてもらうことで、使いやすさなどを検証する。

レベル5:動くもの(制作の所要時間の目安:3日)
レベル4を検証した後、実際に動作するものをつくる。ノーコードツールなど市販品を使って、少ない工数で最低限のものをつくる。実際にサービスを触ってもらい、機能などをブラッシュアップする。

レベル6:最小限の機能セット(制作の所要時間の目安:数週間)
レベル5を検証した後、必要となる機能セットをそろえるための開発を始める。ただし、可能な限りつくらなくて済む方法を考える。

レベルタイトルの横に示したカッコ内の所要時間通り、レベルが低いほど、短時間で簡単につくることを意識するのが望ましいでしょう。

次のレベルに進むか否かは、顧客のリアクションを判断材料にします。試作品に対して「使ってみたい」「他者・他社にも紹介したい」という反応を得られれば、次の段階に進み、逆に「これでは使えない」「これは別にいらない」とネガティブな反応なら、解決策を変えて、その仮説をまた検証する必要があります。

短い期間でレベル6まで進めることはほとんどありません。6つのレベルを認識した上で、あくまでも「短期間、必要最低限の試作品で、サイクルを高速で回す」ということを主眼において、ケースバイケースで進めることになります。

3.6つのレベルに沿って進める、プロトタイピングの具体的事例

具体的に、仮の事例を挙げて6つのレベルに沿ったプロトタイピングの進め方をご紹介します。ここでは新規事業として、オフィス家具のシェアサービスを立ち上げるとします。この場合、レベル1の試作品は次のようなものになります。

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登壇者について

安部 和晃

アクセラレーション事業部 AXL PROTOTYPE STUDIO スタジオ長

東芝デジタルソリューションズ株式会社に新卒入社。3年間ソフトウェア開発に従事したのち、文書管理や翻訳のクラウドサービスの新規立ち上げに伴い異動。クラウドを軸に、アダプティブラーニングを用いた学校教育サービスの実証、東芝の気象レーダーを用いたゲリラ豪雨予測システムの立ち上げ、東芝のSaaSをEC販売するためのEC基盤立ち上げなど、東芝内のさまざまな新規事業を担当。その後、東芝の社内新規事業コンテスト「みんなのDX」に子育て支援に関するサービスを提案し、事業化承認を得るとともに、物流倉庫の管理をAIで最適化するサービスの新規起案から事業立ち上げまでを2年間推進し、事業化を完了させる。 2023年よりAlphaDriveに参画。

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