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今さら聞けない新規事業開発のキホン「新規事業の事業計画書には何を書けばいいの?」

0.導入

 新規事業開発のミッションに対し、日々悩みながら取り組んでいる人は多いのではないでしょうか。
新規事業開発の担当者が知っておきたい「基本」を掘り下げるセミナーシリーズ「今さら聞けない 新規事業開発のキホン」。
今回のテーマは「事業計画書の書き方」です。株式会社アルファドライブ取締役兼COOの古川央士が徹底解説します。

1.アイデア段階で事業計画書を書いてはいけない理由

 新規事業開発に必要な「事業計画書」には、起案内容をまとめた「プレゼン資料」と「数値事業計画表(Excel、スプレッドシート)」の2種類があります。
それぞれの書き方を解説する前に、皆さんへ質問です。

「皆さんが今書こうとしている事業計画書は、本当に必要ですか?」

私はよく「新規事業開発は山登り」だとお伝えしています。新規事業開発という名の山は、アイデア検討のフェーズと事業化のフェーズがあり、後半に進むほど道は険しくなります。

山登りの後半にある「事業化」のタイミングには、事業計画書が必要です。
しかし多くの場合、前半のアイデア検討フェーズで事業計画を書こうとする、あるいは提出を求められます。前半に行うのは事業の「探索」です。顧客やソリューションのピボットが起こり、目まぐるしく変化した末、やっと事業化にたどり着くのが新規事業開発です。
そのため、アイデア検討のフェーズで事業計画書を書いても、検証を通じて事業が変化した場合は、意味をなさないものになってしまいます。

事業計画書の作成は、新規事業開発という山登りの後半「事業化」のタイミングだということを覚えておきましょう。

2.事業計画書には「ストーリー」が重要

 ここからは、事業計画書の中でも「起案内容をまとめたプレゼン資料」の書き方について、詳しく解説していきます。

事業計画の目的は、主に「決裁」と「投資」を得ることです。提案相手となる決裁者や投資家の心は、新規事業の計画や事実を淡々と書き連ねた書類だけではなかなか動きません。熱量を持ってロマンとそろばんの両方を詰め込んだストーリーを描き、魅了することが重要です。

決裁者や投資者がほれ込む「事業計画のストーリー」を構成するのは、次の4つの要素です。

①取り組む理由がある
②課題やニーズがある
③解決できる兆しがある
④ビジネスとして成立する


いきなりすべてを書き込むことが難しい場合は、A4用紙1枚程度にまとめたストーリーラインから取り組むのもいいでしょう。各要素を詳しく解説します。

3.事業計画のポイント

①取り組む理由がある

 「理由」を考える場合のポイントは「誰にとって(の理由)か」です。
考えられるのは「会社の理由」「社会の理由」「個人の理由」の3つ。これら全てをカバーする必要があります。

会社(自社)の取り組む理由は比較的書きやすいと思います。それに加えて必要なのは「社会」が取り組む理由。例えば、提案する新規事業が「ある」と「ない」では、世の中がどう違うのかについて、明確な答えを持っていなければいけません。

その事業を他の誰でもなく自分が取り組むべきなのかという「個人」の理由も大切です。
例えば、自ら介護を行った原体験から当事者として新たな介護サービスを起案するなど、深い動機づけができれば「個人」の理由は提案ストーリーの柱となるでしょう。

②課題やニーズがある

 課題・ニーズを書くにあたって重要なのは「お金を払ってでも解決したいか」です。

新しいサービスのアイデアに対して、「いいね」と言ってくれる人は比較的簡単に見つかります。
しかし、身銭を切ってまでそれを購入してくれる人は限られるのが現実です。この点をクリアできていないと「(顧客に)ほしいと言われたから作ったのに、買ってもらえない」という状況に陥ってしまいます。

また、事業計画で課題・ニーズを書く際は、語尾が重要です。「○○という課題があると思います」では弱い。実際にお金を払ってでも解決したいという顧客に話を聞き、「○○という課題がありました」と断言できるレベルを目指してください。

③解決できる兆しがある

 事業計画書で求められるのは、アイデアではなく検証「結果」です。
ミニマムなプロダクトやペーパープロトタイプでも、検証することが大前提。その結果、顧客がどれほど喜んだのかを記しましょう。

④ビジネスとして成立する

 仮説検証の段階で、本当にそのビジネスで儲けが出るのかは、実際のところ誰にも分かりません。
ではどのようにすれば決済や投資判断につながるのかというと、解決策は「理論武装」です。私はこれを『ロジックの積み木』と呼んでいます。
例えば、次のようなイメージです。

  • 想定する市場にはある程度の規模がある
  • その市場で価値を発揮できるため、高く販売することができる
  • 販売額に対して、安価に生産・提供する見立てがある
  • 具体的には○○の利益が出て、○○までに黒字化し投資回収できる

ここまで理論武装できると「スケールします」「競合に負けません」と説得力のある提案ができます。これにはもちろん、ロジックの裏づけとなる事前準備(例:業者に見積を取ってあるなど)を用意しておく必要があります。しっかりと準備し、理論武装することで、ビジネスの可能性が伝わる事業計画書ができるでしょう。

4.「数値事業計画表」のポイントは、連携と根拠

 ここまで、事業計画書の中でも「プレゼン資料」のポイントを解説してきました。冒頭で示した通り、事業計画書にはもう1種類「数値事業計画表」があります。数値事業計画表のポイントは、プレゼン資料と“連携”させることです。それぞれ別の資料としてつくるのではなく、数値事業計画表で作成した数字の根拠を、プレゼン資料に盛り込んでいくことを心がけましょう。

また、Excelやスプレッドシートでの作業に取り掛かる前に、要素を因数分解することをお勧めします。例えば、利益とは「売り上げ−費用」であり、売り上げは「単価×顧客数」、費用は「原価+販売管理費」です。

そして、これらの一つひとつに論拠を示します。年間の開発投資額を記しているとしたら、実際に複数のベンダーから見積もりを取り、その上で中央値に近い数字を設定していると説得力が増します。優れた事業計画書には必ず論拠があるものです。

5.まとめ

 最後に、事業化のために必要な事業計画書を「稟議をクリアするためのもの」と考えるのは危険です。理由は、稟議をクリアすることを優先するあまり、実際よりも背伸びした数字(目標)を自ら設定してしまう傾向があるためです。

実際よりも高い目標で稟議を通り事業化が進むと、いずれ現実と事業計画のギャップが広がり、気が付けば数千万規模のかい離が起きてしまった、ということになりかねません。また、経営陣からは「0→1を立ち上げることはできたが、事業化や経営を任せてみたら全然駄目だ」という評価が下され、事業の担当から外されてしまうかもしれません。

事業計画書の目的をは、履き違えてはいけません。投資起案をクリアするためだけではなく、その後、自分たちがコミットしていく目標となることを踏まえながら目標を設定するべきでしょう。

登壇者について

古川 央士

株式会社アルファドライブ 取締役 兼 COO

青山学院大学卒。学生時代にベンチャーを創業経営。その後、株式会社リクルートに新卒入社。SUUMOでUI/UX組織の立ち上げや、開発プロジェクトを指揮。その後ヘッドクオーターで新規事業開発室のGMとして、複数の新規事業プロジェクトを統括。パラレルキャリアとして、2013年に株式会社ノックダイスを創業。飲食店やコミュニティースペースを複数店舗運営。一般社団法人の理事などを兼任。社内新規事業や社外での起業・経営経験を元に、2018年11月、株式会社アルファドライブ執行役員に就任。リクルート時代に1000件以上の新規事業プランに関わり、10件以上の新規事業プロジェクトの統括・育成を実施。株式会社アルファドライブ入社後も数十社の大企業の新規事業創出シーン、数千件の新規事業プランに関わる。2023年より株式会社アルファドライブ取締役兼COO。

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