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NTTコミュニケーションズから出向起業 「SpoLive」のケースに学ぶ新規事業の立ち上げ方

0.導入

 AlphaDriveは、新規事業開発や社内起業をテーマに外部から識者をお招きし、定期イベントを開催しています。新たなスポーツ観戦体験をもたらす、スポーツ業界注目のモバイルアプリ「SpoLive(スポライブ)」。同アプリは、エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社(以下、NTTコミュニケーションズ)の社内新事業コンテストから事業化にこぎ着け、現在は分社化したSpoLive Interactive株式会社が開発・運営を手がけています。新規事業創出の仕組みについて、NTTコミュニケーションズイノベーションセンタープロデュース部門総括の大貫明人氏と、SpoLive Interactiveの代表取締役CEOの岩田裕平氏にお聞きしました。

1.クラブチーム運営にも寄与するバーチャル観戦プラットフォーム

 どこにいても自分が応援しているスポーツチームの情報をより深く知ることができ、しかも試合時には一体感のある応援ができる。それが、SpoLive Interactiveが提供する「SpoLive」です。NTTコミュニケーションズは、LEAGUE ONE所属のラグビーチーム「シャイニングアークス東京ベイ浦安」を持っており、SpoLiveは事業検証で得た課題から生まれました。

「事業検証でチームのスタッフ、選手、サポーターに話を聞き、『試合中に見たい情報がSNSや速報アプリ、各種サイトなどに分散している』『チームとつながれる試合連動コンテンツが少ない』というインサイトを得ました。多くのクラブチームでは、広報・マーケティングの担当者がいても、デジタル対応に割ける人員が少なく、常にリソースが不足しています。そんな中で、ファンがより試合を楽しめるような情報・コンテンツを提供するのは、非常に困難です。そこで、多くのリソースをかけずに運用でき、ファンもより楽しめるサービスを提供できないかと考えました」(岩田氏) 

 SpoLiveでは、具体的に『スポーツファン向けのバーチャル観戦アプリ』と『スポーツ団体向けの試合・コンテンツ管理クラウド』という2つのプロダクトを提供しています。「双方が補い合いながら1つのエコシステムをつくるのが特徴です」と岩田氏は紹介します。

 SpoLive Interactiveの共同創業者でもある岩田氏は、2013年にNTTコミュニケーションズに入社しました。その後、子会社のNTTレゾナント株式会社でR&Dや新事業開発におけるUXデザイン・ブランド戦略に従事。2017年からはデザイン経営を推進するプロジェクトにジョインし社内外へのデザイン啓蒙(けいもう)を行っていました。
 SpoLiveの前身となる事業アイデアが社内のコンテストを優勝し、事業責任者になったのは2018年のこと。その後、経済産業省「出向起業スタートアップ補助金」への採択を経て、NTTコミュニケーションズからSpoLive Interactiveが分社化(会社設立は2020年)、NTTコミュニケーションズからの「出向起業」となりました。

2.すべてはハッカソンから始まった。SpoLive事業化の経緯

 SpoLiveはLEAGUE ONE所属の他のチームが活用する他、「プロ野球独立リーグ」や日本社会人アメリカンフットボールの「X2リーグ」、モータースポーツの「スーパー耐久シリーズ2022」など、さまざまなスポーツに広がっています。このように「市場に求められる」新規事業は、どのようにNTTコミュニケーションズの中から生まれたのか、AlphaDriveの古川央士が、NTTコミュニケーションズの大貫氏と、SpoLive Interactiveの岩田氏にお聞きしました。

──SpoLive立ち上げの経緯を教えてください。

岩田氏:NTTコミュニケーションズの社内には当時、いわゆる新規事業制度がありませんでしたが、ハッカソンの延長線上の取り組みとして、新規事業創出制度が開設されることになりました。その枠組みの中で、SpoLiveの前身となる事業アイデアが取り扱われることになり、結果的に起業につながっていきました。

──当時から、今のようなサービスだったのでしょうか。

岩田氏:当初は、競技ルールが分からないライトユーザーにフォーカスしていました。ユーザーは、初期設定としてルールなどに関するクイズに回答します。(運営側は)その解答結果からユーザーの理解度を測定し、観戦中は各ユーザーにパーソナライズされた有用な情報を提供するというサービスです。プロトタイプ検証でもユーザーからそれなりに良い反応は得られたのですが、「ライトユーザーはそもそも試合観戦に行かない」などの理由から事業化が難しいことが分かり、その後、コアユーザー向けにシフトしました。

──SpoLiveのケースは、ハッカソンからの起業ということになるのでしょうか。

岩田氏:そうですね。エンジニア5人と私の計6人で活動しており、プロダクト先行の側面が強かったと思います。

──SpoLiveの事業化の歴史を振り返り、大きな転換期はありましたか。

大貫氏:社内起業ということもあり、最初はうまくリソースが割けず、1年間くらいエンドユーザーに対する仮説検証ばかり繰り返していました。しかしあるときから「チーム運営側の課題解決」という着眼が生まれ、そこからマネタイズの仕方にもつながりました。現在も日々サービスは進化していますが、強いて挙げればそれが大きな転換期でしょうか。

──大貫さんにお聞きしたいのですが、貴社の新規事業創出の特色はなんでしょうか。

大貫氏:SpoLiveが生まれる2018年当時は、まさしくハッカソンに近いプロダクト先行型の新規事業創出コンテストを実施していました。その後、コンテストの名称を「DigiCom(デジコン)」に刷新するとともに、アイデア先行型へと変わり、現在はプロトタイプ不要のピッチ大会のようなスタイルにしています。プロダクト先行にも良い面はありますが、妄想だけで手を動かしてしまうと、必要ないものをつくってしまうことにもなりかねません。それを防ぐ意味もあり、今のスタイルに落ち着きました。

──岩田さんのように事業化に成功したアイデアもあれば、失敗したアイデアもあると思います。

大貫氏:コンテストに出てくる事業アイデアは、2パターンです。1つは岩田のように「カスタマー側の立場になり、あったらよいものをつくる」。このパターンでは、ユーザーの共感を得られているけれど、マネタイズができないケースが多いです。もう1つはその反対で「情報通信会社のカルチャーのまま、できることをやる」というパターンです。例えば、「大プラットフォームを提供します。使ってください」みたいな話になりがちで、いざ顧客に使ってもらうと、提供しているものと顧客のユーズがかみ合いません。この場合は、1人目の顧客を見つけることにも苦心しています。いずれにしても「BtoBtoC」の真ん中のBの部分と、うまく組むことのできるチームが事業化までたどり着いている印象です。

──事業構想を描くのが得意な会社もいれば、顧客検証が得意な会社もいます。そのバランスをとることが、日本企業における新規事業開発の難しさでもあります。

大貫氏:確かにその通りだと思います。しかし、私たちとしては社会課題を捉えた顧客検証に長けた会社でありたいと思っています。

3.新規事業の先行きは読み切れない。ならば市場に評価してもらえばいい

──本日、最もお聞きしたかったのは、新会社立ち上げの舞台裏です。岩田さんは新規事業創出コンテストで優勝して社内起業。その後新会社を立ち上げ、その会社に出向されています。新会社を立ち上げさせること自体が、ある程度レアなケースだと思いますが、その経緯を教えてください。

岩田氏:新会社設立の理由の1つは、人事的な観点です。当初メンバーは現業も持っていたことから、新規事業にフルコミットできませんでした。稼働に制約がかかったままで進めていたため、あるときから新規事業に手を動かせる人が減り、減った人のやっていた業務が他のメンバーに全てのしかかりました。人事的な調整も、社外からの補填(ほてん)も難しい状況でした。この現状を打破するため、別の手段を検討しました。
もう1つは、スピード的な観点です。NTTコミュニケーションズには会計・広報・契約などの面でさまざまな社内ルールやプロセスがあります。何かをやるにしても、何営業日前に関係部署に相談し、一定期間揉まれてから決裁されます。このルールとプロセスと新規事業の相性がよくないため、たびたびハレーションが起こりました。私たちのスピード感に全くそぐわなかったのです。
これらのことで悩んでいたタイミングで経済産業省の「出向起業スタートアップ補助金」を知り、活用することにしました。

──新事業を外に出して子会社化するにしても、やはり大企業ならではの難しい点があるかと思います。例えば、ガバナンスはどのように考えていたのでしょうか。

大貫氏:岩田自身はNTTコミュニケーションズからの在籍出向ですが、新会社は完全なスピンアウトで、NTTコミュニケーションズのガバナンスが効かないようになっています。資本も入れていませんし、ひとまずはリターンのことも考えていません。調整が大変なお金の話は後に回して、ビジネスシナジーを優先したのです。
SpoLiveは新規事業です。そもそも、当社が事業性の先行きを読み切ることはできません。ならば、われわれが事業の可否を判断するのではなく、市場に評価してもらえばいい。それが会社として下した意思決定です。

──かなりすごい意思決定ですね。調整に何年間とかける会社もあります。事業推進を優先した素晴らしい決断だと思います。最後に読者へメッセージをお願いします。

岩田氏:私の場合は会社にも人にも恵まれ、起業することができました。私の先輩・後輩・同期を見ていても思うことですが、どんな会社でも入社時には必ず起業マインドを持った異端児がいます。しかし数年経つといつの間にか辞めてしまいます。そうした人をいかに守るかが、新規事業開発を運営する事務局の皆さんに求められていると思います。
事業を立ち上げた立場から、起業を考えている皆さんにお伝えしたいのは、会社の中に新規事業を立ち上げる機能がないのであれば、社外に出てでもやってしまうのがよいということです。例えば、私は経済産業省主催「始動 Next Innovator」の3期生です。このようなコミュニティを探し、自分の事業アイデアへの感想をもらい、ブラッシュアップしていく方法もあります。「動く」ことが大切です。

大貫氏:企業にいると安定を求めたがるのが、社会人のさがです。しかし私が若いころ、マサチューセッツ工科大学へ研修に行ったとき、こんな言葉を持ち帰りました。「uncomfortable(心地よくない)であることこそがイノベーションであり、事業に貢献できる。少しでもcomfortable(心地よい)と思ったら、自らそれを捨てよ」。そのときは「冗談じゃない」という反発の気持ちもありましたが、今はその言葉の意味がよく分かります。新規事業も同様です。常に厳しい状況・悩み続ける状況に自分を置くことはつらいかもしれませんが、その厳しい世界を歩き続けた先に新規事業の成功があると思います。

登壇者について

岩田 裕平

SpoLive Interactive株式会社  代表取締役CEO / 共同創業者 (NTTコミュニケーションズ株式会社より出向)

2013年NTT Com新卒入社後、R&Dや新事業開発におけるUXデザイン・ブランド戦略に従事。2016年に大学院にて起業家育成プログラム修了後、デザイン経営を推進する中で社内外への広義のデザインの啓蒙を実践。2018年よりスポーツ事業を社内起業、また同年に様々な団体との事業創出を促すべく「NTT Com Open Innovation Program」を発起・設立。2020年より新事業スペシャリスト・管理職として再入社。同年SpoLive Interactive.Incを起業、CEOとして勤務。経産省主催「始動」3期生選抜メンバー、HCD-Net認定 人間中心設計専門家。

大貫 明人

NTTコミュニケーションズ株式会社 イノベーションセンター プロデュース部門総括

光配線設備開発から始まり、現在に至るまで、新規事業開発/プロダクトマネジメントに長く従事。経済産業省始動(イノベータ―育成)プログラム協賛サポーター、事業構想大学院大学プロジェクト研究事務局などを務める。「データ流通とデジタルトランスフォーメーションにて実現するスマートソサエティ」と、「個人の原体験と熱量が社会産業の課題解決にまで至る仕組み作り」が今必要な挑戦と考え、関連プロジェクト推進中。

古川 央士

株式会社アルファドライブ 取締役 兼 COO

青山学院大学卒。学生時代にベンチャーを創業経営。その後、株式会社リクルートに新卒入社。SUUMOでUI/UX組織の立ち上げや、開発プロジェクトを指揮。その後ヘッドクオーターで新規事業開発室のGMとして、複数の新規事業プロジェクトを統括。パラレルキャリアとして、2013年に株式会社ノックダイスを創業。飲食店やコミュニティースペースを複数店舗運営。一般社団法人の理事などを兼任。社内新規事業や社外での起業・経営経験を元に、2018年11月、株式会社アルファドライブ執行役員に就任。リクルート時代に1000件以上の新規事業プランに関わり、10件以上の新規事業プロジェクトの統括・育成を実施。株式会社アルファドライブ入社後も数十社の大企業の新規事業創出シーン、数千件の新規事業プランに関わる。2023年より株式会社アルファドライブ取締役兼COO。

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