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リクルートグループの新規事業提案コンテストRing発 「ペッツオーライ」大型EXITの舞台裏

0.導入

AlphaDriveは、新規事業開発や社内起業をテーマに外部から識者をお招きし、定期イベントを開催しています。今回のゲストは、リクルートグループの新規事業提案コンテスト「Ring」で最優秀賞を受賞し、ペッツオーライ株式会社を立ち上げた同社代表取締役の小早川斉氏です。アルファ期には「仮説では見えていた魚が、いくら働きかけても全然釣れない」という難局に直面しましたが、それらを乗り越えてEXITに至りました。リクルート出身でもあるAlphaDriveの古川央士が、その舞台裏に迫りました。

1.リクルートからスピンアウトした「ペットのなんでも相談プラットフォーム」

 小早川氏は、2006年に新卒で入社した不動産会社で、不動産仲介・リフォーム営業・施工管理を担当、その後2009年に小規模リフォーム会社を起業しました。しかし共同経営者との方向性の違いから同社を退社、2012年に株式会社リクルート(旧株式会社リクルートコミュニケーションズ)に入社しています。そして2015年、リクルートグループの新規事業提案コンテスト「Ring」に応募して最優秀賞を受賞、2016年に「ペッツオーライ」を事業化。2020年にはリクルートからスピンアウトし、ペッツオーライ株式会社を立ち上げました。

 ペッツオーライは、ペットライフで困ったときに24時間いつでもプロに相談できる会員制サービスです。「病気」「予防」「しつけ」「フード」の4ジャンルの相談に対応した専門家相談サービスの他、ライフログ機能(投薬・お出かけ・ご飯など生活ログを記録)、飼育サポート(「いつ、何を、どうやるか」を最適なタイミングで案内)、さらには写真無制限保存、家族・友人とのシェア、フォトアルバムなどの機能が充実。月額1580円(税込1738円)でサービスを提供しています。

2.ペット業界の負の部分を変えたい

 AlphaDriveの古川も、小早川氏と同じリクルート出身です。在籍時期も重なっており、当時は古川が事務局側、小早川氏が起案者側の立場でした。当時のことも振り返りながら、ペッツオーライのEXITの舞台裏に迫りました。

──小早川さんの起案時の思いについては、当時事務局の立場だった私もよく覚えています。まずは、事業立ち上げの背景から振り返っていきましょう。

毎年Ringが開催されていたことは知っていましたが、当初は関心がありませんでした。しかし毎日の業務に飽きを感じたころから、「何か始めたい」とは思っていました。

──そんな中、なぜペットビジネスに着目されたのでしょうか。

ある日、家で飼っている愛犬の様子がおかしいことに気付きました。ずっと足を浮かせるようにして歩いていたのです。近くの動物病院に連れて行くと、診断結果は「脱臼」とのことで、簡単な処置で治してもらいました。しかししばらくすると、また同じように歩くようになりました。そのときはちょうど引っ越しを終えた後だったこともあり、別の動物病院に連れて行きました。今度の診断結果は「がん」でした。脱臼だと思っていたものが、がんだと診断され、飼い主として大きなショックを受けました。また同時に、ペット業界の負の部分に触れたような気がしました。そのとき、私が始めるべきことは「これだ」と思ったのです。

3.「最初のユーザーがいる場所」を特定して難局を突破、そして黒字化

──Ringではエントリー後、一次審査、ブラッシュアップ期間、二次審査、そして社長・役員による最終審査を経てグランプリが決定します。グランプリを受賞し事業化検討の権利を得たペッツオーライも、そこから具体的な事業開発を行うことになりました。2016年にサービスリリースに至ったわけですが、その前後を振り返って、印象に残っていることはありますか。

私は、気合いで乗り切る営業スタイルを得意としてきたため、0→1でのサービス開発は全てが初めての経験でした。どうしたら投資家(Ringの場合は会社の役員たち)を納得させられるプレゼンができるのか、その組み立てに苦労しました。それがリリースまでの間に印象に残っていることです。

──リリース後に大変だったことは?

ステージゲートで言えば、アルファ期に当たりますが、会社として最初の大きな売り上げを出すまでの期間でしょうか。仮説では、「あの辺りに魚が泳いでいる(ユーザーがいる)はず」と見込んでいたところに、いくら働きかけても全然釣れませんでした。その期間を抜け出すまでは相当つらい思いをしました。その難局を突破し手応えをつかんだのは、私たちのサービスに興味を持ち、喜びを感じて財布のひもをゆるめてくれる「最初のユーザー」がいる場所を特定できた瞬間でした。

──具体的に教えてください。

ペッツオーライはウェブサービスです。他のウェブサービスやアプリと同じように、検索流入を中心としたウェブ上のマーケティング、あるいはリクルートID(会員ID)を使うなどしたユーザー獲得を想定していました。しかし、たとえそうした方法でユーザーを獲得できたとしても、月額1580円の価格設定を考えると継続的な課金をあまり期待できませんでした。
そこで私たちが着目したのが、ペットショップです。何十万円もするペットが購入されるその接点においては、年間1~2万円の出費の捉え方が変わります。愛犬・愛猫への将来的な不安解消につながるなら、とお金を出してくれやすくなります。そうした「意識の違い」を見つけられたのが大きな転換点になりました。その後は、ペットショップでの販売方法なども考慮し、着実にユーザー数が伸長。黒字化にたどり着きました。

──満足度調査でも高評価を維持しているようですね。

はい。サービスの質の高さを担保する仕組みづくりには苦労しました。ペッツオーライの場合、専門家による迅速なレスポンスが大きな提供価値となります。この点は、サービス開発当初に47都道府県を行脚して築いた専門家の皆さんとのネットワークに支えられています。

──その後、EXIT(事業譲渡)が決まるまでの間には、会社(リクルート)とどのような話し合いがあったのですか。

私たちの事業は、リクルート事業開発室の中でも抜きん出た売り上げと利益を得るようになりました。正式な事業運営が求められていく中、この事業にとって最適な将来像を考えていきました。リクルート社内にはこうしたペットビジネスの大きな実績がありませんでしたし、他の事業会社がこの事業を成功に導けるイメージも湧きませんでした。私たちはこのサービスで業界を変えたいと思っています。ならば、社外にEXITし、ペット業界と手を組みながら事業を成長させた方がいい。そうした私たちの決断に、会社が理解を示してくれました。

4.会社とプロダクトオーナーの理想的な関係性

──小早川さんがEXITに向けて奔走していたころ、私はリクルートを退社してしまいましたが、ステージゲート制をとっている複数の会社を見てきた中で、小早川さんはかなり順調にステージゲートを駆け上がりEXITを成し遂げた印象です。新規事業にかけるリクルートのマネジメントのすごさは、どこにあるのでしょうか。

事業リーダーとしての裁量をかなり与えてくれる点だと思います。もちろん社内決裁や承認フローなど通過しなければならない手続きはありますが、「こうしたい」という起業家(起案者)の思いに対して、どうしたらかなえられるかを常に考えてくれます。
加えて、サポーター役に回ってくれる「インキュベーター」と呼ばれる人たちの存在も欠かせません。インキュベーターは、私たち起業家(起案者)を上手に持ち上げながら、チームとしての体制を整えてくれます。具体的には、新規事業でCEOの役目を担う私の近くにCFOやCOOのようなポジションを配置し、足りない部分の補填(ほてん)を考えてくれました。

──そういう人たちとの間にハレーションが起こることは、ありませんでしたか?

最初のころは多少のハレーションが起きることもあったかもしれません。インキュベーターが連れてきてくれる人は、輝かしい経歴を持つ人ばかりです。しかし、こちらにもプロダクトオーナーとしてのプライドやこだわりがあります。そのため、アドバイスをもらっても素直に聞けないこともあります。読者の中にアドバイスする立場の人がいらっしゃるなら、「面倒な起業家だ」だと思っても優しく接してあげてください。

──私は現在、AlphaDriveで、さまざまな企業の新規事業創出の支援をしています。プロジェクト側と管理側、どちらの気持ちも分かるようになりました。新規事業開発にかける思いは共有できていても、うまくいかないことはあります。両者の隔たりがなくなるポイントは何だったと思いますか。

2つあったと思います。1つは「ナンバー2に徹する人」に付いていただいたこと。上手に裏方に徹してくれました。もう1つは、プロダクトオーナー自身が丸くなること。私自身も最初は「自分でやってやる」と鼻息が荒かったのですが、徐々に聞く耳を持つようになりました。

──いわば、両者の歩み寄りですね。

そうですね。起業家は、支援してくれる人が仕事をしやすい環境を整えることも必要です。そうしないと事業は伸ばせません。お互いに尊重し合いながら進めていくことで、おのずとうまくいくと思います。

──最後に総括として、読者へメッセージをお願いします。

現場監督や不動産営業をしていた人間が事業を興し、こうして皆さんに向けて語っていると思うと恐縮してしまいますが、今はペット業界からの「業界を変えてほしい」という期待を一身に受け、武者震いをしながら活動しています。事業を大きく成長させ、期待に応えていきたいと考えています。

登壇者について

小早川 斉

ペッツオーライ株式会社 代表取締役

不動産会社勤務後、リフォーム会社で起業。年商2億へ成長させた後、リクルートへ転職。ゼクシィのディレクターとして社内MVP受賞後、チームリーダーを担当。その後社内新規事業コンテストNew RINGにてグランプリを獲得。0→1領域にて事業検討/サービス開発/収益化まで行い黒字ビジネスまで成長させた。2020年12月によりスピーディな事業成長を実現させるためにリクルートからEXITし、ペッツオーライ株式会社の代表取締役に就任。また、本業のほかに副業としてBlockchainの技術を使ったビジネスアドバイスや企業内新規事業のコンサル、富山県のスペシャルアドバイザーなどを行う。

古川 央士

株式会社アルファドライブ 取締役 兼 COO

青山学院大学卒。学生時代にベンチャーを創業経営。その後、株式会社リクルートに新卒入社。SUUMOでUI/UX組織の立ち上げや、開発プロジェクトを指揮。その後ヘッドクオーターで新規事業開発室のGMとして、複数の新規事業プロジェクトを統括。パラレルキャリアとして、2013年に株式会社ノックダイスを創業。飲食店やコミュニティースペースを複数店舗運営。一般社団法人の理事などを兼任。社内新規事業や社外での起業・経営経験を元に、2018年11月、株式会社アルファドライブ執行役員に就任。リクルート時代に1000件以上の新規事業プランに関わり、10件以上の新規事業プロジェクトの統括・育成を実施。株式会社アルファドライブ入社後も数十社の大企業の新規事業創出シーン、数千件の新規事業プランに関わる。2023年より株式会社アルファドライブ取締役兼COO。

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