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顧客・上司・決裁者を納得させる「新規事業ビジネスモデル」の描き方

導入

新規事業創出制度の起案者、そして事務局やメンターが新規事業の創出に挑む中で、多くの人が抱える悩みや課題がある。その解決のヒントを提供しているのが、新規事業開発支援を行う株式会社アルファドライブの「新規事業よろず相談室」だ。第7回目となる今回のテーマは「新規事業のビジネスモデル」。相談室に寄せられた、新たなビジネスモデルをつくる際に発生した「お悩み」に答えていく。

その新規事業が「現場が泣いて喜ぶレベル」なら決裁者も納得する

お悩み1:サービス利用者と決裁者が異なり導入が難航

古川:最初の質問です。要約すると、新規事業が現場ユーザーの課題解決にはなっているけれど、決裁者はコストカットにしか興味を持ってくれない。どちらを向いて事業開発すべきか、という内容です。

麻生:私もこれまでにたくさん見かけたことのあるケースです。例えば、エンジニアが業務課題解決のために、SaaSやRPAなどの業務支援ツールを入れたいと上司に相談するものの、予算でもめて最終的に「そんなものを入れなくとも気合いで乗り切れ」と言われてしまう場合です。

古川:エンジニアが会社から離れていくケースですね(笑)。質問は「サービス利用者と決裁者、どちらを向いて事業開発すべきか」ということですが。

麻生:答えは「両方」です。優先順位もありません。よろず相談室のコーナーはいつも厳しく意見してしまいがちで、「もうちょっと優しく」と社内からお叱りを受けるのですが、皆さんの成功のためにズバリ言います。

古川:お願いします!

麻生:質問者は、現場の人(サービス利用者)の課題解決になっていると認識しているようですが、本当に課題解決になっているのか疑問に感じます。こういうケースでは多くの場合、現場も大して喜んでないことが多く、まずは「現場が泣いて喜ぶようなレベルに到達すべし」というのが私の意見です。新規事業においては、劇的にその業務が楽になるとか、ある部分に必要だった人的リソースがゼロになったなど、現場全体に「感動を与えられるレベル」まで持っていかなければなりません。そのレベルにまで達してこその課題解決と言っても過言ではありません。

古川:確かにそうですね。このケースは決裁者から「(コストがかかるから)必要ない」と言われ事業アイデアが封じ込められている。でもそれが「現場に感動を与えられるレベル」なら決裁者も納得するでしょう。そもそも「課題感のレベルが弱いのでは?」とも思います。

麻生:たとえ上司や決裁者がITに弱いとしても、本当にエンジニアが泣いて喜ぶような劇的な業務効率化が果たされるのなら、プレゼンで見方が変わるはずです。解決策を提供し、それが機能することによって初めて課題認識されます。まずはその段階に持っていけるかどうか。サービス利用者と決済者が異なるのが問題なのではなく、サービス利用者がそのサービスを利用したいと思える段階にまで達していないことが、問題の本質なのではないでしょうか。

価格設定は法外なほど高い値段を付け、1回試しに売ってみる

お悩み2:価格の付け方

古川:新規事業の価格設定をどうすればよいか、という質問です。

麻生:これには正解があります。まず前提として、顧客に価格設定を聞いてはいけません。新規事業開発では「顧客のところに300回行け」と私はよく言っています。お客様のところに足しげく通い、顧客の考えや課題を深くヒアリングし、インサイトを得て、顧客に対してソリューションを当てながらつくっていく。顧客中心というのが事業開発プロセスの基本です。ただ1つだけ顧客の利益と相反するプロセスがあります。それが価格設定です。なぜなら、顧客にとっては、安ければ安い方がよいに決まっているからです。

古川:究極を言えば「無料」が一番いいわけですからね。

麻生:はい。だから顧客に希望価格を聞くことに意味はなく、適当に決めるしかない。ただここにも理論があります。それは「価格は後から下げられるけど、上げられない」ということ。一度300円で売ってしまったら、後から600円に上げることはできないけれど、150円に値引きすることはできます。つまり何が言いたいかというと、法外なほど高い値段を付けてみて1回試しに売ってみる、というのが正解です。
例えば、ペットボトルの水を売るとします。おそらく多くの場合は類似商品・競合商品を調査し、それを参考に価格設定をします。市場でこのサイズならだいたい1本100円だけど、うちの場合はミネラルを豊富に含んでいるから130円で売ってみようというように。しかし私だったら、これを1本4500円で売ります。

古川:ペットボトルの水が1本4500円! 法外です!

麻生:確実に売れないでしょうね(笑)。でもそうして「売れない」となったとき、事業開発のプロセスは一歩前に進みます。

古川:どういうことでしょうか?

麻生:価格の設定方法が分からないときの課題は、実は価格にあるのではなく、プロダクトそのものにあります。つまり、まだプロダクトに力がないというか、本当の課題解決ができていない、もしくは顧客が価値を感じるところまでプロダクトを高められていないから売れないのです。ものすごい高値で売ってみると、「4500円では売れない、ならばいくらなら買うのか」と顧客の課題解決・価値提供の部分からもう一度考えようとします。それを繰り返していくと、350円くらいで売れる時が来たりするものです。その段階では、もう法外な価格設定ではなく、顧客の課題解決や価値提供が達成できていて、その対価として350円を支払ってくれている状態です。

古川:ただ価格設定で難しいのは、マーケティングやチャネルも関係してくることです。4500円の水も砂漠でなら売れます。ゴルフ場のドリンクも、コンビニの倍以上するけれど買ってしまいます。

麻生:それを考えても、やはり法外なくらいの高値で始めるのがよいと思います。砂漠やゴルフ場でドリンクを売る話も、100円とか130円の価格設定で始めたら出てきません。4500円で売るという前提に立っているからこそ、どこなら4500円でも買ってくれるか、そのプロダクトが“刺さる”課題を抱えたお客様がいそうな場所を熟考したり探索したりできます。高値で売るという前提は、非常に重要なのです。

古川:では、「法外な価格付けをしようとした際に、レピュテーションリスク(評判悪化のリスク)やお客様との関係悪化を懸念し、チーム内でのコンセンサスが得られない場面」では、どうしたらよいのでしょうか?

麻生:そもそもチーム内のコンセンサスなんて気にしなくていいです。「法外な価格設定で顧客のところに持っていったら、関係性が悪化してしまった」なら分かります、でも、持っていく前段階でチーム内コンセンサスが得られずに悩むのは無駄です。法外な値段でもいいからまずは顧客のもとに持っていき、そこから何かを持ち帰るのが先決。そして価格設定が原因で顧客との関係悪化を懸念する気持ちは分かりますが、絶対に嫌われないから安心してください。「高い」ことを理由に顧客から嫌われることはありません。

エンタメ事業の値付けは価格そのものより購入設計が重要

お悩み3:値付けは変えても良いのか?

古川:エンタメ型の新規事業で世の中にない新しい価値を提供したい場合、ベンチマークがないから値付けをしにくいわけですが、市場に投入してから値付けを変えてもよいのかという質問です。これは前編の「お悩み2 」でも触れていますが、今回はエンターテイメント型事業の値付けというレアケースです。

麻生:アルファドライブの事業開発手法は「課題解決型」ですが、この手法からエンタメ事業は生まれません。だからまだ私の中でエンタメ事業の手法が十分に確立されていないことが前提になりますが、エンタメの値付けは値段そのものより、購入させる商品の「購入設計」が重要だと思います。例えば「AKB商法」もCD1枚千数百円という値付けですが、普通にCDを1枚買って曲を楽しむ人もいますが、むしろ想定しているのは「そのアイドルのことが好きだから」と、応援のために何百枚でも買うファンがいる。そこに意味を持たせています。ソーシャルゲームもそうですが、購入設計次第でエンタメはマネタイズを最大化できる場合があります。

古川:最近の新規事業のビジネスモデルはサブスクリプション型が多いです。NetflixやHuluのような月額見放題の動画サービスも、始めるときの判断は意外と難しいと思います。従量課金の料金体系は購入設計としては分かりやすいけれど、ほとんど見ない人も大量に抱え込んだこれらサブスクリプション型サービスがビジネスとして成功しているわけです。

麻生:あくまで個人的な考えですが、日本で新規にエンタメビジネスを始めるなら、月額制は難しいと思っています。なぜならば「月額980円の定額制で聞き放題・見放題」みたいなサービスで儲けを生むためには、かなりたくさんの人に集まってもらわないと成立しないから。少子高齢化の進む日本では無理がある話で、めちゃくちゃ好きな人が好きな分だけお金を払ってくれる購入設計に振り切った方が、ビジネスとしての成立確度が高いと思います。

古川:月額5000円とか1万円など、高額な値付けは「あり」ということですか?

麻生:例えば、比較的高額なオンラインサロンは、月額1万円くらいします。1000人いたら年商1億2000万円。これはビジネスとして成立していますが、個人だからこその成立です。仮に企業のBtoCサービスの枠組みで見れば、月1万円も払ってくれる人を1000人集めるのはすごいことだけれど、年商は1億2000万円にしかならない。割に合いません。

古川:なるほど。

麻生:そもそもエンタメと月額制はそりが合わないと思っています。なぜビジネスでこんなにもサブスク、サブスクと言われるようになったかといえば、Salesforce、Adobe、Microsoft などのビジネストランスフォーメーションがあったからこそ。でもそれらのビジネスモデルが成立するには前提条件があり、それは「解約率がめちゃくちゃ低い」こと。解約されないでサブスクならLTV(顧客生涯価値)を取れるから必ず儲かります。でもエンタメはどうでしょう? 必ずどこかで飽きる人がいて解約者が出てくる。よほどグローバルなレベルにまで登録者が広がらないと、成功は難しいと思います。

斬新なビジネスモデルを求められたら「顧客の圧倒的な支持」を持ち帰ろう

お悩み4:「斬新なビジネスモデルを」と求められたら

古川:次は、ビジネスモデルに新規性がないといつも嘆いている上司から「斬新なビジネスモデル」を求められ、それに応えられないという悩みです。

麻生:これはもう率直に駄目です。何が駄目かといえば、上司です。そういう言葉が出てくるから、新規性のあるビジネスが生まれないのです。

古川:実際に遭遇した場合、乗り切るコツは?

麻生:顧客の圧倒的な支持を持ち帰り、プレゼンの時にアピールしましょう。本当に斬新かどうかはともかく、顧客が喜んでいることをアピールできれば、上司は納得してくれるはず。顧客からそれだけの支持を得られ、それをプレゼンしてもなお「新規性がない」「斬新ではない」と言うようなら、もう本当に駄目。

でも、安心してください。顧客が喜んでいる声を持ち帰ると、たいていの場合は「こういうのを待っていた」と上司は感動します。斬新なビジネスモデルなんていくら考えても出てきませんから、顧客の圧倒的な支持を集めることに専念しましょう。

Q&Aセッション

以下、その他に寄せられた質問に短くお答えします。

——とにかくお金がない地方自治体を救いたいのですが、何か斬新なビジネスモデルはないですか?

麻生:まず前提として、ビジネスは万能ではありません。ビジネスパーソンの皆さんは、何かビジネスモデルをつくれば、世界のありとあらゆる課題を解決できると信じているかもしれませんが、残念ながらもモデルだけでは対処できないのが現実です。だからこそ行政・NPO・社団法人・財団法人・ボランティア・市民団体などビジネスセクター以外の組織がこの世に存在するわけです。だから「課題当事者にお金がない」のなら、現実として営利のビジネスでは対応しにくい。それでも本当にやりたいのなら、非営利活動という選択肢を選ぶことになります。

ただ今回の場合、お金がない課題当事者は「地方自治体」です。かつてはこうした自治体を救う手立ては企業誘致など、よほど大がかりな取り組みでない限り存在しませんでしたが、今は「ふるさと納税」があります。例えばその自治体に入り込み、ふるさと納税の獲得額を上げれば、そこから潤沢な資金・財源が生まれて事業を立ち上げられます。

——企業で新規事業を求められる際、「既存事業とのシナジーや、会社のアセット活用を考えろ」と言われます。課題解決型の新規事業ではこれらを切り離すべきだと考えますが、どう思いますか。

麻生:素直に回答するなら、事業開発プロセスの正しい順番として、既存事業やアセットのことはいったん切り離し、顧客の課題解決に向かうべきです。それはいつもアルファドライブが唱えている事業開発の基本でもあります。

ただ、私がこの質問で気になるのは、質問者がまだ事業開発をしておらず、やる前から悩んでいるように見受けられる点。顧客課題を解決できるサービスやソリューションが成立した後、結果として「当社と全く関係ないことをやられても困る」「当社のアセットを活用してレバレッジが効くような何かをやれ」と言われたのなら理解できますが、この方はその前段階で悩んでいます。

古川:つくった後に言われたとしらどうですか?

麻生:それはその時に悩めばいいのです。とはいえ、いくら新規事業といえどもその会社の人がつくったビジネスなので、会社のアセットを全く使わず、会社の事業の方向性とかけ離れた新規事業を立ち上げるのは、至難の業。つまり新規事業をつくれば、たいていは既存事業やアセットにつなげられるものです。変に悩まず、まずはやってみましょう。

古川:私からもお答えすると、会社の上司や上層部が「既存事業とのシナジーや会社のアセットとのつながり」を、本気で求めるケースはまれで、たいていは「当社っぽい領域」「当社っぽいテーマ」なのかどうかを判断されるケースが多い印象です。要は「そこはいかないでね」というNGラインを引くために、既存事業やアセットと言っているのだと思います。

麻生:私もその通りだと思います。おそらく事業計画書に、上司や上層部にとっては都合が悪いワードが入っていたのでしょう。その言葉を取り除いたり、他の言葉に置き換えれば、案外通るかもしれません。

——社会課題を解決する新規事業を検討しています。近々経営層にプレゼンするのですが、投資判断する経営層の世代に「課題を抱えている顧客のインサイト」を理解してもらうため、一番大切なことは何でしょうか。世代間ギャップを解消する秘けつがあれば教えてください。

古川:これは、お酒好きの年配の上司に、お酒を飲まない若年層の顧客の話をしても、「そんなことないでしょう」と理解してくれないというような問題です。上司に悪気があるわけではなく、単に世代間のズレがそういう事態を招いています。難しい問題です。

麻生:本当に悩ましい問題です。突破する方法があるとすれば、課題当事者を連れてくることでしょうか。起案者からの説明だけでは、「どうせ都合のよいデータを集めただけだ」とその事象を信じてくれません。そこで、課題当事者の生々しい声を直接聞かせ、「本当に世の中こうなっているのか」と納得させましょう。

しかし最近はこの方法でも信じてくれない年配者がいます。そういう時はもう1つの突破法があります。そこは、「権威のある有識者からのインプット」をセットで行う方法です。例えば、経済産業省などの偉い人を連れてきて、統計データなども用いながら「日本のZ世代をどうやって攻略していくか、どうやって産業化していくか」という話をしてもらう。その後、課題当事者である若者の生の声を聞かせます。経営者や上司は、権威に弱いものです。誰に権威を感じるかはその会社によるので事前調査は必要ですが、かなり効果があります。

登壇者について

麻生 要一

株式会社アルファドライブ 代表取締役社長 兼 CEO

大学卒業後、リクルートへ入社。社内起業家として株式会社ニジボックスを創業し150人規模まで拡大。上場後のリクルートホールディングスにおいて新規事業開発室長として1500を超える社内起業家を輩出。2018年に起業家に転身し、アルファドライブを創業。2019年にM&Aでユーザベースグループ入りし、2024年にカーブアウトによって再び独立。アミューズ社外取締役、アシロ社外取締役等、プロ経営者として複数の上場企業の役員も務める。著書に「新規事業の実践論」。

古川 央士

株式会社アルファドライブ 取締役 兼 COO

青山学院大学卒。学生時代にベンチャーを創業経営。その後、株式会社リクルートに新卒入社。SUUMOでUI/UX組織の立ち上げや、開発プロジェクトを指揮。その後ヘッドクオーターで新規事業開発室のGMとして、複数の新規事業プロジェクトを統括。パラレルキャリアとして、2013年に株式会社ノックダイスを創業。飲食店やコミュニティースペースを複数店舗運営。一般社団法人の理事などを兼任。社内新規事業や社外での起業・経営経験を元に、2018年11月、株式会社アルファドライブ執行役員に就任。リクルート時代に1000件以上の新規事業プランに関わり、10件以上の新規事業プロジェクトの統括・育成を実施。株式会社アルファドライブ入社後も数十社の大企業の新規事業創出シーン、数千件の新規事業プランに関わる。2023年より株式会社アルファドライブ取締役兼COO。

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