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新規事業の「事業計画」の正解と見極め方。リアルな悩みに答えます

導入

新規事業創出制度の起案者、そして事務局やメンターが新規事業の創出に挑む中で、多くの人が抱える悩みや課題がある。その解決のヒントを提供しているのが、新規事業開発支援を行う株式会社アルファドライブの「新規事業よろず相談室」。今回のテーマは「事業計画」。新規事業の事業計画について様々な角度から徹底議論する。

事業計画モニタリングは経営陣をハックしてスマートに切り抜けよ

お悩み1:事業モニタリングと相性の良いツールや仕組みとは?

麻生:使うツールは頻度と役割によります。年に1度の経営報告など、ここぞという会議ではパワーポイントを作り込み、1大プレゼンテーションショーとして挑んだ方が良いでしょう。ただ月1・週1の進捗確認会議で、毎度フォーマットをゼロから考案してパワーポイントを作っているなら疑問を感じます。モニタリングをしているということは、モニタリングの基となる計画があるはず。KPIの数値や顧客ヒアリング状況に対する進捗であれば、メモでいい。使ったとしてもExcel・スプレッドシートを示し、計画と実際の進捗報告で十分です。しかし報告相手が事務局でなく、上層部向けに細かい説明をする必要がある場面では、毎回ゼロからインプットしなければならない構造は理解できますね。

古川:上層部向けへの報告パターンだとしても、材料を使い回してある程度効率的に報告できるのではないでしょうか?

麻生:その通り。その辺はうまくビジネスパーソン としてハックしましょう。パワーポイントを制作するにしても、「前回ここまでお話ししましたよね」「次回ここまでやるって言っていましたよね」と”言っていましたよねフォーマット”を作成し、今回はこれまでとの差分を示すという説明の手法で乗り切れる部分は大いにあるはず。

早期に事業計画策定を迫られたら、PoCを元にしたパターン出しがおすすめ

お悩み2:事業計画策定の適切なタイミングとは?

麻生:プロダクトがあり、値段が決まっていて、お客様が少なくとも1人はついて、お金を払ってくれているという事実がある。かつお客様を増やしていくときに、どんなセールス/マーケティングをしたら、このぐらいの新しいお客様が獲れたという情報がファクトとして揃っている。これが事業計画を書くことができる最も早いタイミング。これ未満の段階では本来書けない。

古川:質問者の方は、アイデアや事業仮説段階で事業計画まで求められるということですよね。

麻生:事業仮説の段階で書くことはやめた方がいいです。しかしPoC実施後の事業化審査会前のタイミングで、投資を獲得するために事業計画を書く必要に迫られるケースは多いと思います。その場合は、マーケティング効率や価格帯の変数に合わせてパターンごとに事業計画を出すのがおすすめです。

例えば売値・広告・宣伝効率のマトリックスを組んで、事業計画が成立するブルーゾーンと、成立しないレッドゾーンを提示。ブルーゾーンに行くための仮説がPoCから導かれていることを示せると、議論を封じることができる。

古川:役員から「事業拡大時にマーケティング効率が悪化するのではないか」と指摘されたときに、曖昧に答えるのか、「悪化してもこれくらいの幅なら許容できると考えていますが、これ以上悪化すると危険だと思っています」と具体的に答えられれば勝ちです。指摘する側も予測で言っているわけですからね。

売上見込み数値の裏にある行動に着目せよ

お悩み3:事業計画の評価にはどんな数値を参考にすれば良い?

麻生:ビジネスモデルによるため、一概にこうと断言し難い。ただ新規事業を審査する皆様にぜひ知っておいていただきたいのは、初年度に売上は上がらないという前提の元にスタートすべきということ。社内新規事業は特に、3年や5年で100億など大きな額を設定されがちです。そこから逆算すると初年度に2億円売り上げないと、と言われがちですが、事業化決定後にチーム組成し、毎日やるべきことを1つずつ決めていく中で、1年目に売上をあげることは不可能に近い。

古川:とは言え、初年度に売上が出せないのは遅い、出せないと5年後に目標に到達しないという論点もあるかと思います。

麻生:まず冷静に考えてみて欲しいのですが、事業化決定後にプロダクトをゼロから作りますよね。アプリやサービスなどビジネスモデルによって異なりますが、プロダクトリリースまでに多くの時間を要すもの。大企業ならば稟議を通す必要もあるでしょう。初年度はリリースに集中し、toBなら1社2社、toCなら1~2人お客様を獲得する。2年目は獲得したお客様の延長線上で売上を伸ばしていく。規模感を求めるのはせめて3年目からが望ましいです。

古川:売上見込みの確からしさについて、評価する側が判断するポイントはありますか?

麻生:PLの項目の裏側には1つ1つ行動があります。例えば人件費1,000万円の裏側には、30万円の人材が33人なのか、50万円の人材が20人なのか。広告宣伝費2,000万円の裏側には、Web広告なのかチラシなのか。数字の裏側にある活動量に対して、売上目標が現実的かどうかを判断するのがチェックポイントです。

古川:売上50億が目標としてあって、5年後に100社契約するために今年は20〜30社の新規獲得が必要なのに営業が2人しかいない。といった事例は新規事業あるある。アタック数・CVR・商談率などを計算していくと1日10件成立しないといけなくなる。紐解いていくと何が異常値になるか見えてきますね。

麻生:もし自分たちに相場感がないのであれば、大企業の中にいる専門家に聞きにいくと良いでしょう。マーケティングや営業など各部署の専門性ある人材にレビューをもらう。ただ稀に、異常値に見える場合でも、「実証実験でこういう発明をしたから、マーケティング費はこれだけで済みます」と切り返された時は、信じられないくらい感動します。新規事業は相場から逸脱する部分があるからこそ、売上が上がるもの。その事業の何が特出している箇所なのかを見定めることも重要です。

難しい目標数値を求められた時は、投資かアセット活用を条件に

お悩み4:非現実的な目標数値にどう立ち向かう?

麻生:1年目2年目に売上が上がらないことは理解してもらいつつ、3年目以降で結果を出す必要はありますね。本来は現実的なグロスラインを握りにいくのが理想ですが、難しい場合は3年目以降に売上拡大するための投資を取りにいく。もしくは、大企業のアセットを利用させてもらう。どちらかを勝ち取りに行くべきです。

古川:本当にそれで事業が伸びるのか分からないから、3年後の投資は約束できないと言われる場合は?

麻生:いきなり3年後の投資判断を迫るのは難しいでしょう。2年はまず事業を推進し、3年目に投資かアセット活用を出来るかどうかの審査をしてくれるよう、最初から握っておくのが良いのでは。
そもそもこの課題が起こる要因として、大企業の投資の相場感がずれているという問題はあります。スタートアップの調達額を一度見てみてください。売上に対して調達額が大きいと感じる場合は、スタートアップの見ている観点がPLではなくBSだから。ここは今後改善していくべき観点だと思います。

投資意思決定と事業本格化は切り分けが理想

お悩み5:投資意思決定時期の見極めポイントとは

麻生:一般的に事業の本格化と投資は一緒にされがち。しかし本来事業の本スタートと資金投資は別の話。例えばサイバーエージェントの場合、資本金を小さくし、子会社を量産する。子会社の利益が出てきた時に初めて、大きく投資します。なぜなら、PoCで実証実験し仮説検証が終わった段階においてもなお、新規事業が本当に成立するかどうかはやってみないと分からないから。この時点で巨額投資するのは危険じゃないですか。少しずつサービスを本格的に始動させ、軌道に乗り始めたら本格投資するのが理想です。

古川:新規事業が複数生まれている企業であるほど、失敗も多いですよね。ただチャレンジして成功事例を生み出しているという印象になる。たくさん失敗しているなという印象にはならないですよね。軽いチャレンジをより多くすればするほど、成功事例も生まれやすいのではないでしょうか。

事業ライフサイクルは変化していくもの。複数の領域投資でリスク分散を

お悩み6:事業ライフサイクルはどう判断すれば良い?

麻生:おっしゃる通り、3年経つと世の中は大きく変わります。誰もが思い出せる事例で言えば、インバウンド。2年前までは花形の事業でした。こればかりはやはり分からない部分が大きい。事務局として意識すべきことがあるとすれば、領域の異なる事業を複数持っておくことでリスク分散することはできます。

古川:一方で見立てる努力ができるとしたら、どんなことがありますか?

麻生:新規事業は顧客課題を見るべきなのでこの観点だけで判断して欲しくはないのですが、先端テクノロジーの事業は対象領域の環境が変わったとしても、テクノロジーをベースにピボットしやすいことはある。世の中が大きく変わる時は、新しいチャンスが生まれる時でもありますからね。鮮やかなピボットを遂げた結果、生き残る上にグロースするという事例も見かけます。生き残る確率は高いでしょう。

Q&Aセッション

以下、その他に寄せられた質問に短くお答えします。

——事業計画の修正はどこまで許される?

古川:まず、「新規事業の事業計画は検証結果によって変わっていくものだと思います。どの程度の修正は許す・織り込むべきでしょうか?」という質問です。

麻生:進捗状況に応じて修正はすべきですが、ROIが大きくずれる提案は新規事業家としてあってはならないです。これは、起案者も事務局側も持っておくべき目線。新規事業には様々な壁があるので、追い込まれて状況が悪くなっているのが普通ですよね。しかも大変だから、どうしても下方修正したくなる。しかしそれは起業家として、投資を受けている以上やるべきではない。ただ、時間軸がずれる・売上構造が変わるなどの修正はしていくべきでしょうね。

古川:こういった観点からも、最初にリスクをある程度想定し、どう手を打つかを決めて提示しておくことは重要ですね。事業が崩れてから修正しようとしても遅いですから。

——事業計画は何ヶ月目で求めるべきですか?相場感を教えて欲しいです

古川:前提として、どんな事業かによるとは思いますが、いわゆる事業計画に着手するのは、アイデアを考え始めてからどのくらいでしょうか?

麻生:POC終了後、本格的にサービスをローンチするかどうか経営会議にかける際に事業計画が必要になるでしょうね。ヒアリング・仮説検証に半年、POCに半年として、最速で1年後に事業計画に着手する。

古川:実態として運営されているのは約8ヶ月が目安ですね。仮説検証に2-3ヶ月、実証実験に5-6ヶ月。制度としてこのくらいのスケジュール感で動くケースが多いように思います。

ただ個人的には、PCで何をすべきかを見極めるために、早めに粗い事業計画を書いてみるのは1つの手だなと考えています。明らかにマーケティングは試しておかないといけないとか、営業の商談率が重要そうだから営業をかける検証に重点を置こうとか、PoC計画を立てるために、事業計画を立ててみるのは進め方としてありだなと。

麻生:まさにAlphaDriveでやっている事業計画研修はそれを実現していますね。料金や顧客数を分からないながらに埋めてみると、「何が明らかになっていないのか」が明らかになる。事業計画に固執しないことを前提に、まず作ってみることは効果的です。

——事業計画を見極める際の要点とは?

古川:では次の質問へ。事務局の方からの、「たくさんの事業を見極めるのが大変です。事業計画でみるべきポイントは?」という質問です。

麻生:それだけ案件が出ているのは素晴らしいですね。事業計画を見極めるために私が最初に見るのは、売上が何月から上がることになっているか。例えば4月にプロジェクトがスタートして、7月から売上が立つPLはかなり怪しい。プロダクトがないのに売上が上がるわけはないですから。10月に売上を立てる計画も多いですが、10月に売上をあげるには9月に契約されているはず。マーケティング活動は7月頃にして、プロダクトは6月に完成しているのか?疑問ですよね。初年度の売上時期を見ることで、チームがどのくらい考えて書いた事業計画か見えてきますよ。売上も100万円と記載されているだけで、きちんと分解してマーケティングや営業戦略の計画に紐づいていないことも多い。

古川:私がよくやるのは、大極から見ていくこと。売上の6割を主商品が作っていたとしたら、結局その6割を占める売上のロジックが重要。5年までのPLなら5年後の利益から逆算して、その利益を形作るものは何なのかを見ると判断しやすいです。

——最後の質問。「本来期間で切れるものではない中で、PoCを終えるフェーズの目安についてどう考えていますか?」

麻生:相場では半年でしょう。ただPoCの期間が長い新規事業開発制度ほど、最終審査での精度・レベルが高い印象はあります。本来なら1年くらいかけてできると理想的ではないでしょうか。

古川:個人的には、PoCは究極的には借り物競走だなと感じています。どう代替のものに置き換えてやり切れるか、違ったらもう一度別のものを借りてこられるか。手当たり次第でも、スピーディーにいかに動けるかがPoCの鍵を握りますよね。

麻生:借り物競走で例えるなら、借りるものの重さによってもかかる時間は変わるケースも。いつ終わるのか?という問いに答えるなら、借り物で作って提供したものでも、お客様に泣いて喜ばれた時。お金を払ってでも、「本当にありがとう」と言われた時です。これで商売が成立するわけですから、PoC終了でしょうね。

登壇者について

麻生 要一

株式会社アルファドライブ 代表取締役社長 兼 CEO

大学卒業後、リクルートへ入社。社内起業家として株式会社ニジボックスを創業し150人規模まで拡大。上場後のリクルートホールディングスにおいて新規事業開発室長として1500を超える社内起業家を輩出。2018年に起業家に転身し、アルファドライブを創業。2019年にM&Aでユーザベースグループ入りし、2024年にカーブアウトによって再び独立。アミューズ社外取締役、アシロ社外取締役等、プロ経営者として複数の上場企業の役員も務める。著書に「新規事業の実践論」。

古川 央士

株式会社アルファドライブ 取締役 兼 COO

青山学院大学卒。学生時代にベンチャーを創業経営。その後、株式会社リクルートに新卒入社。SUUMOでUI/UX組織の立ち上げや、開発プロジェクトを指揮。その後ヘッドクオーターで新規事業開発室のGMとして、複数の新規事業プロジェクトを統括。パラレルキャリアとして、2013年に株式会社ノックダイスを創業。飲食店やコミュニティースペースを複数店舗運営。一般社団法人の理事などを兼任。社内新規事業や社外での起業・経営経験を元に、2018年11月、株式会社アルファドライブ執行役員に就任。リクルート時代に1000件以上の新規事業プランに関わり、10件以上の新規事業プロジェクトの統括・育成を実施。株式会社アルファドライブ入社後も数十社の大企業の新規事業創出シーン、数千件の新規事業プランに関わる。2023年より株式会社アルファドライブ取締役兼COO。

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