Knowledge (ナレッジ記事)

「ステージゲート」運用の勘所を専門家が指南。新規事業を成功へと導くため

導入

社内新規事業開発制度の起案者、そして事務局やメンターが事業創出に挑む中で、多くの人が抱える悩みや課題がある。その解決のヒントを提供しているのが、新規事業開発支援を行う株式会社アルファドライブのオンラインセミナー「新規事業よろず相談室」だ。

第3回目となる今回のテーマは「新規事業のステージゲート」。ステージゲートとは「一定期間ごとにゲートを定めて段階的に進捗を確認しながらプロジェクトを進める新規事業創出の枠組み」のこと。新規事業を成功に導く上で、その意義は極めて大きい。相談室に寄せられた、ステージゲートにまつわるリアルな「お悩み」に答えていく

麻生要一(株式会社アルファドライブ代表取締役社長 兼 CEO/株式会社ニューズピックス 執行役員(NewsPicks for Business 管掌))
「ステージゲートを設定することで、ゲートをくぐるごとにステージが変わります。この ”ステージが変わる”ということが重要であり、非連続性のない(つまり連続的な)ステージゲートには意味がありません。『ゲートをくぐれば、まったく違う次元に事業フェーズが上がる』という共通の認識が重要です」

古川央士(株式会社アルファドライブ執行役員 インキュベーション事業部 事業部長)
「企業が用意できる期間・人員・予算は限られています。限られた資源を最大限効率的に活用し事業創出していくためには、ステージゲートが欠かせません。ステージゲートがあれば、仮に途中で失敗しても、投資がミニマムである段階で撤退することができます」

ゲートは1ステージに複数あってもOK。段階を踏ませて着実に進めさせるべし

お悩み1:ステージゲートの「合間の取り扱い」

古川:最初のお悩みは、ステージゲートの「合間の取り扱い」についてです。期間・予算は残っているものの、次のステージに進むために「無風状態」が生じているということでしょうか。このケースでは、ステージの最後までやり切ってもらうべきか、事務局権限で撤退させるべきか悩んでいるということですね。

麻生:どのステージかにもよりますが、事業化前のステージ(準備期間)なら、判断材料は「その起案者がどうしたいか」ですね。現状のままでは難しいのでピボット(方向転換)してでもやりたいと思っている、あるいはあと3カ月など一定期間があれば最終審査には必ず間に合わせると言うなら、やらせてあげるべきでしょう。駄目だろうなと思っていても、ステージ最終審査の前日に「これいけるかも!」となることもありますから。

他方で事業化後、例えば売り上げ規模によってステージが変わるような状況なら、「合間の取り扱い」はセンシティブです。明らかに顧客も付いておらず、これ以上やったら赤字が続くことが分かっているのに、といった状況です。こんなときのステージゲートの制約条件は「期間」ではなく、「累積赤字額」で明確に設定すべきです。

古川:ステージゲートで重要だと感じるのは、ステージに対するゲートの数を適宜増やすことでしょうか。ゲートは別にステージごとに1つでなければいけないわけではありません。例えば、新規事業の起案者は、次のステージに上がるため、何かの実証実験をしようと考えているとします。それに対して会社は5000万円を与える。でも実はそれはαゲートをくぐるための予算で、ステージ全体の上限投資金額1.5億とすれば、残り1億円がβゲートのために使えるというイメージです。こうして会社や事務局、メンターが、ステージごとのゲートを細かく設定してあげる運用は効果的です。

リアル商材開発こそステージゲートの運用で大きな失敗を防ぐ

お悩み2:「リアルプロダクト」での運用

古川:DtoC など、リアル商材開発ではサンプル製造などに時間・コストがかかるため、撤退ラインをどこに引くべきか検討するのが難しい、というお悩みです。

麻生:これを解決するのが、まさにリーンスタートアップやMVP(ミニマム・バイアブル・プロダクト=顧客に価値提供できる最小限のプロダクト)であり、ステージゲートです。序盤のゲートに「いきなりつくってはならない」というスモールスタートが設定されているからこそ、大きな失敗をする前に撤退することができます。ましてやDtoCならプロダクトをつくらず、「あり物」で検証してほしいというのが正直な気持ちです。

古川:ペーパープロトタイプから最終プロダクトまでの間にプロトタイプを安くつくる方法がないようなケースは例外ですが、DtoCでの販売を考えるなら、ロットを抑えながらちょっとしたプロダクトをつくれるはず。やりようはあると思います。

麻生:ステージゲートは少しずつ小さなゲートをくぐりながらビジネスを開発していく手法であり、宇宙ビジネス・都市開発・リゾート開発など、いきなり大きな勝負をしなければならないビジネスでは使えません。顧客課題を解決することによる事業開発、つまり誰か困っている企業や人がいて、その課題の解決をビジネスにする場合に適した手法です。ほとんどのビジネスが該当しますが、中には不向きな場合があることは知っておいた方がいいでしょう。

グループ会社横断の場合は「テーマ設定」で“飛び地”の新規事業案を募集する

お悩み3:「事業会社横断」でのステージゲート運用

古川:質問者はホールディングスの社員で、「事業会社に対してガバナンスが効かない中、制度・社風の異なる事業会社横断のステージゲートを運用するにはどうしたらよいか」と悩んでいるようです。

麻生:まず前提として、非常にいい会社ですね。事業会社ごとにきちんと新規事業が生まれている。ただ、ホールディングスがヘッドクォーターとして新規事業開発横断プログラムみたいなものをリリースすると、各事業会社に興味を持ってもらえない……。そんな状況でしょうか。

古川:「事業会社に任せても近接領域の事業中心しか出てこない」という状況のようですが、おそらくホールディングスの狙いとしては、もっと「飛び地」の新規事業が出てきてほしいということでしょう。

麻生:そういう場合は、各事業会社の領域における新規事業案は、隣接領域がらみも含めてそれぞれの事業会社に提出してもらい、それとは全く違う事業案は、ホールディングスに提出してもらうというガイドラインをつくるのがよいでしょう。

古川:そうするとホールディングスに提出された事業案に対して、「果たしてホールディングスが会社として新規事業を持ち、売り上げを立てていけるのか」「そのための人材育成はどうするのか」「新規事業の推進母体は事業会社にするべきでは?」などの議論が出てきます。

麻生:そうですね。それらはステージゲート運用よりも先に解決しなければいけない問題ですね。ヘッドクォーター内に新規事業部門をつくるか、ヘッドクォーター直下に新規事業開発特化型の戦略子会社をつくるか。そうして“箱”を用意した上でバックオフィスを整備したり、売り上げを上げられる仕組みをつくったり、実行部隊を用意したりと、解決すべき課題がたくさんでてきます。これらはアルファドライブがサポートできる部分ですね。

事業アイデアを成功に導くには、「飛び級」より頻度の高い書類審査で「宿題」を

お悩み4:「飛び級」を認めるか否か

古川:これはステージゲートがうまくいっているときの悩みですね。

麻生:ここで言っているのは、すでに事業化後のステージに進んでおり、何億円も売り上げを生み出している「当たり案件」で成果も社内外に知れ渡り、誰も疑義を挟む余地がないケースではないでしょう。事業化前の初期段階、例えば「エントリーでの書類審査が完璧だったから、その後のステージを飛び級させるべきか」というお悩みだと思います。それくらいの話なら、通常通りにステージゲートを通過してもらうべきです。MVP(ミニマム・バイアブル・プロダクト=顧客に価値提供できる最小限のプロダクト)ステージでも高い地点からの実証実験ができるし、精度の高い実証実験でクオリティーが高まります。期間中にさらなる事業性を見いだすことも期待できます。

古川:多少道草をしたとしても、ステージゲートの通過がポジティブに作用するということですね。

麻生:そうです。事業化前のステージで私が一番いいと思うのは、書類審査は毎月など、随時開催にすることです。毎月が運用上厳しいならクオーターごとでもいいのですが、割としょっちゅうやっているという状態をつくることです。例えば筋のいい事業アイデアが来た際、今月無理にステージゲートを通しても、半年後の最終審査までに十分完成度を高められるか微妙なときがあります。そんな場合に審査の頻度が高ければ、「来月通してあげるからもうちょっとこの辺煮詰めてきて、と宿題を与えることができます。本質的にステージゲートとはそういう役割があるものだと思います。

たたき上げ経営層にステージゲートの有用性を説得するには、「泥臭い体験」が鍵

お悩み5:経営層の説得方法

古川:「ステージゲートの有用性について経営陣の理解が得られない、説得のための武器を授けてほしい」というお悩みです。よくある問題ですね。
AlphaDriveで企業のコンサルティングをしていても、そんなシーンにたびたび遭遇します。そのような局面から好転したケースでは、「あなたの再現は無理」ということを、経営者に分かっていただくことがポイントになりました。「後継者をつくりたいならば適切な設計とプロセスが必要です。ならばそのためのステージゲートを定めましょう」という筋書きです。
もう1つ、ステージゲートは一見すると、何かの仕組みやフレーム、公式みたいで「手触り感」がないと捉えられがちです。そこで、泥臭さをアピールすることも効果的です。「あなた(経営者など)の若いときがおそらくそうであるように、人は泥臭い現場で成長します。他社ではステージゲートでの泥臭い体験からこんなに人生が変わったそうです」と事例を用いて説きます。

麻生:説得したい人が具体的にどういう毎日を過ごして仕事しているのかを想像してみると、説得の筋書きが見えてくるでしょうね。

古川:違う観点では、社内政治も大切です。どういう順番で誰から話を持って行くのか、タイミングとかも見据えるとよいと思います。

事業化フェーズは大きな関門。事業部が納得して取り組めるように根回しを

お悩み6:事業部移管後のマネジメント

古川:最後のお悩みは「事業部移管後のマネジメント」についてです。事業アイデアが審査を通過し、事業部へ移管。しかし、移管先事業部にステージゲートが浸透していないことから食い違いが生まれ、せっかくの事業アイデアがつぶされてしまう、というケースです。

麻生:最終の事業化審査を通過したステージでは、本来それまでの新規事業部門が継続して行うべきなのですが、「事業化するのなら」との理由で事業部門・事業会社に移管されがちです。ここでよく考えてみてほしいのですが、プランだけの状態で事業部門・事業会社に渡せば、いきなり仕事を押し付けられた気持ちになるでしょう。それではつぶされてしまいます。
だからこそ制度設計が重要なのです。事業化のフェーズに入ったときの予算を新規事業部門が獲得しておけば、このようにはなりません。もしそれができない状態で、事業部門・事業会社に移管してしまうなら、事業部門・事業会社の中のキーパーソンに根回しをしておくべきです。移管先にも事業をつくるのが得意な人がいるので、その人にいったん案件を避難させてあげるとよいでしょう。

古川:1部門1人くらいは、理解のある事業部長などがいますね。

麻生:ただ、最後は予算がボトルネックになります。なぜなら、たいていの新規事業の初年度は赤字になるからです。赤字分を補填(ほてん)するか目標を低めに設定しておくなど、何らかの対策が事前にできていないと、根回しをしても受け取ってもらえません。

Q&Aセッション

イベント受講者からは追加の質問も寄せられました。

——ステージゲートの情報がなくて困っている。

麻生:確かにないですね。海外で出版された書籍があるかもしれませんが、それを日本の企業がそのまま参考にしない方がよいでしょう。我々AlphaDriveという会社も、日本企業特有のコーポレートガバナンスと仕組みの中でどうやったら新規事業をつくれるのかを念頭に置いています。海外とカルチャーが全く異なるので、日本独自の方法を習得すべきです。

——ステージゲート運営予算をファンド的に運用したいが、経営陣から理解が得られない。

麻生:とても本質を突いた質問です。その理想は貫いた方がよいですが、PL(損益計算書)でしか経営してこなかった経営陣にファンド的運営を理解させるのは難しいでしょう。ファンドをつくるところから始めるなど、形から入れば理解してくれる経営陣もいるかもしれません。後は、実際はPLで運営するものの、BS(貸借対照表)上は投資として管理会計を作成するという離れ業もあります。これはかなりマニアックな話になるので、ご興味があれば説明に伺います。

——未来構想の事業コンテストを運営中。ステージゲートでの運営は難しいか?

麻生:ステージゲートは、新規事業の非連続的な成長を促すため、先にルール設定しておくものです。しかし、論文や構想というのは非連続的なことをする必要がありません。だから難しいというより、ステージゲートで運営する意味がありません。普通のコンテストにした方がよいでしょう。

古川:そのコンテストで未来構想をテーマとした新規事業を実際に考えることになったときは、ステージゲートの適用を検討してみてもよいかもしれません。

——ステージゲートの期間は厳格に運用すべきか、曖昧でいいのか。

麻生:事業のことを優先的に考えるなら、個別最適にする方がよいでしょう。しかし起案者は撤退したくないから「あと3カ月やらせてください」などとステージに居座りたがるものです。個別対応していたら運営がままならないので、一律でバサッと判断してあげないと回りません。その前提で言えば、事業化審査以前は、それがモノづくりだろうとBtoCだろうとWebサービスだろうと、期間を区切って進めてよいと思います。一方、事業化後は個別最適の要素がかなりあるので、柔軟な最終審査・事業化審査をすべきです。例えば、1億円の予算で1年半かけてやることになっていても、内容を吟味して、特例的に3億円の予算で3年かけてやりましょうと言った具合に、事業化審査のときに特例とセットで判断するのがよいでしょう。

——皆さんが思う「すごい」ステージゲートを運営している企業は?

古川:個社名を出せる事例なら、ソフトバンクさんです。ソフトバンク「イノベンチャー」事務局の方は当社のセミナーにもお招きしました。ステージゲートの運用だけではなく、頻度やコミュニティの醸成感がすごい。コミュニティには、新規事業に関わるユニークな人材がいて、アイデアも豊富。その中からブーストされる世界観が実現されているし、スキーム上の打ち手も柔軟だと感じました。

——ステージゲートを2ライン実施する際の注意点は?

麻生:例えば、先ほど出てきた事業会社が強いホールディングスなどのステージゲートなら、「既存事業周辺領域と新規領域の2ライン」のようなケースがあり得ると思います。その場合、「既存事業周辺領域コース」では、ある時点の審査から事業会社社長が出てくる審査会になる、というように、案件の内容によって審査やラインを分けておいてもよいでしょう。

古川:どのような2ラインなのかによって注意点も変わりますが、基本的には審査基準と審査員をきちんと切り分け、目的ごとに進めていくことが大切でしょう。
「きっとこういった経営者の多くは既存事業に叩き上げで取り組んできて、新規事業の経験がないかもしれません。ステージゲートの有用性を説明しても理解してくれない場合もあるでしょう」。

登壇者について

麻生 要一

株式会社アルファドライブ 代表取締役社長 兼 CEO

大学卒業後、リクルートへ入社。社内起業家として株式会社ニジボックスを創業し150人規模まで拡大。上場後のリクルートホールディングスにおいて新規事業開発室長として1500を超える社内起業家を輩出。2018年に起業家に転身し、アルファドライブを創業。2019年にM&Aでユーザベースグループ入りし、2024年にカーブアウトによって再び独立。アミューズ社外取締役、アシロ社外取締役等、プロ経営者として複数の上場企業の役員も務める。著書に「新規事業の実践論」。

古川 央士

株式会社アルファドライブ 取締役 兼 COO

青山学院大学卒。学生時代にベンチャーを創業経営。その後、株式会社リクルートに新卒入社。SUUMOでUI/UX組織の立ち上げや、開発プロジェクトを指揮。その後ヘッドクオーターで新規事業開発室のGMとして、複数の新規事業プロジェクトを統括。パラレルキャリアとして、2013年に株式会社ノックダイスを創業。飲食店やコミュニティースペースを複数店舗運営。一般社団法人の理事などを兼任。社内新規事業や社外での起業・経営経験を元に、2018年11月、株式会社アルファドライブ執行役員に就任。リクルート時代に1000件以上の新規事業プランに関わり、10件以上の新規事業プロジェクトの統括・育成を実施。株式会社アルファドライブ入社後も数十社の大企業の新規事業創出シーン、数千件の新規事業プランに関わる。2023年より株式会社アルファドライブ取締役兼COO。

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