アコムの新規事業から始まり、2022年4月には新会社として船出したGeNiE株式会社。2024年6月には、ローン機能に特化した組込型金融サービス(エンベデッド・ファイナンス)の「マネーのランプ」をリリースしています。
AlphaDriveは「マネーのランプ」サービス開始と同時に、法人営業支援を中心に幅広いサポートを行ってきました。この1年で着々と導入企業数も増え、現在では親会社であるアコムの支援にも波及するなど、一定の成果を挙げています。
GeNiEは、エンベデッド・ファイナンスという、日本ではまだ馴染みのないビジネスをいかに広げようとしているのか。その戦略と戦術に迫ります。
GeNiE株式会社 代表取締役社長 齊藤雄一郎様
GeNiE株式会社 代表取締役社長。2005年アコム株式会社に新卒入社。支店勤務を経て経営企画部へ。以降、企画部門を中心に全社戦略の立案やマーケティング業務に従事。2016年、フィンテックが日本で注目され始めた頃、テクノロジー活用を推進すべく、イノベーション企画室を立ち上げ。デジタル領域におけるサービス企画・立案、新規事業開発などに取り組む。マーケティング部門の責任者を経て、2022年4月、アコムの社内起業家としてGeNiE株式会社を設立。
GeNiE株式会社 事業企画部 アライアンスグループ グループリーダー 高田順矢様
2009年アコム株式会社に新卒入社。同社にてCS部門を9年経験し、マネジメントへ昇進。その後、財務部(銀行との調達交渉)、人事部(研修企画)を経て、2023年1月にGeNiE株式会社にJoin。GeNiEでは、事業企画部の次長として、数々の提携先とのアライアンスを実現。
株式会社アルファドライブ アクセラレーション事業部 リードコンサルタント 芳岡あゆみ
日系コンサルティング会社、リンクアンドモチベーションに新卒入社。新規事業であるモチベーションクラウドの立ち上げメンバーとして営業部に配属され、一貫して中堅・成長ベンチャー企業の組織変革に従事。その後、組織人事領域におけるコンサルティング事業(採用・育成・制度・風土変革)に携わり、リードコンサルタントとして計30社以上の組織変革を実現。同時にインキュベーション事業部にて未上場顧客に対する投資を推進しながら、バリューアップを推進。2024年よりAlphaDriveに参画し、大手企業〜中堅・成長ベンチャー企業における新規事業のアクセラレーション支援に従事。JV設立支援や業界を問わない、1→10フェーズの事業開発に特化をした支援の実績がある。
株式会社アルファドライブ アクセラレーション事業部 シニアコンサルタント 中山健彦
これまで2社スタートアップを創設し、2社ともM&AによるExitを果たした連続起業家。DX支援会社における営業部門の責任者として、各業界のリーディングカンパニーのDXを支援した後、自らが代表取締役を務めるスタートアップ企業を創設。100社を超える企業に積極的にPoV、PoCを展開し、市場の状況に応じたピボットを行うなど複数事業の検証を行った結果、4年間で約500社、1,000サイト以上に自社ソリューションが導入され、これらの成功により国内PEファンドにM&Aで売却。複数事業の0→1、1→10をリードし収益化を実現した経験を活かし、新規事業プロジェクトの支援に従事する。
ユーザーの金融体験を変える「エンベデッド・ファイナンス」とは?
──はじめに、GeNiE様の主力事業である「エンベデッド・ファイナンス」について教えてください。
齊藤様:
エンベデッド・ファイナンス(組込型金融)を一言で表すと、「事業会社が、自社のサービスに金融機能を組み込んで提供する」ことで、金融機関と一般事業者を接続するための仕組みになります。
本来、銀行や保険、証券といった金融事業を営むには、金融庁から免許・許可・登録を受ける必要があり、立ち上げまでに莫大な時間と費用がかかります。しかし、エンベデッド・ファイナンスを導入すれば、その壁を取り払うことができる。各金融機関が事業会社に対してAPIを提供するという形で、非金融事業者でもすぐに金融機能を自社サービス内にプラスできるわけです。
GeNiEでは、2024年5月からエンベデッド・ファイナンスを軸とする「マネーのランプ」を立ち上げ、さまざまな業界のパートナー企業様と、導入・協業に向けた取り組みを進めています。

──事業会社が自社サービス内に金融機能を組み込むことで、どのようなメリットがあるのでしょうか?
齊藤様:
事業会社側、またその会社のサービスを利用するユーザーの双方にとってメリットがあります。
ユーザーにとって最も分かりやすいメリットは、ファッション通販サイトなどでアイテムを購入する時です。欲しい商品をサイトで見つけたけれどもお金が足りず、購入資金を借りようとする場合、通常は他社の金融機関で手続きを行う手間が発生します。しかし、事業者がエンベデッド・ファイナンスを導入していれば、わざわざ他の金融機関で借り入れを申し込む必要はありません。普段から利用しているECサイト内でレンディング(融資)から購入までをシームレスに行うことができるんです。
一方の事業者側としては、スムーズに貸付を行うことで消費者の購入意欲が損なわれず、売上アップが期待できるというメリットがあります。他にも、ノンストップの顧客体験によるロイヤルティの向上やリピート率の向上、顧客データの収集によるユーザー理解など、多くのメリットが挙げられ、GeNiEから送客フィーをお支払いすることで新たな収益源の確保にもつながります。
──母体であるアコムもレンディングの事業を営んでいます。他業種に金融サービスを組み込むエンベデッド・ファイナンスはある意味、本業のライバルを増やす事業でもあると思いますが、反対意見などは出なかったのでしょうか?
齊藤様:
当然、そういった懸念の声はありましたし、私たちもいわゆるイノベーションのジレンマについては考えていました。
ただ、アコムという会社はこれまでにも何度もイノベーションのジレンマを経験し、その度に壁を乗り越えています。たとえばアコムがインターネットキャッシングに力を入れ始めた時も、「既存事業である自動契約機のビジネスモデルを潰すことになるのではないか」という議論がありましたが、最終的には新たな挑戦に踏み切っている。
エンベデッド・ファイナンスについても、見方によっては「競合を育てる」事業とも言えますが、それでもやる意義があると判断され、最終的にはGOが出たのだと思います。

──現在、競合のサービスも増えつつあります。「マネーのランプ」の強みや特色を教えてください。
高田様:
大きく2つの特色、強みが挙げられます。1つ目は、システムへの接続が非常に簡単であること。「マネーのランプ」では現在、Lite Plan、Standard Plan、Advanced Planという3つのプランを用意していて、最も簡素なLite Planの場合、申し込みから2週間で金融サービスを開始することができます。既存の金融機関が事業会社と提携してサービスを始める場合、最短でも半年ほどかかることを考えると、かなりのスピード感であり、大きな強みと言えるでしょう。
2つ目は、サービスページのデザイン自由度の高さ。お客様のサービスの世界観に合わせ、カスタマイズすることが可能です。ファッション通販サイトなどでユーザーが欲しい商品を見つけてからレンディング、購入までをシームレスに行ってもらうためには、その過程で「ファイナンスっぽい雰囲気」を感じさせないこと、使い慣れたアプリやサイトの世界観のまま全て完結できることが重要だと考えています。そのため、事業会社のサービスに溶け込めるようなデザインの選択肢を豊富に用意しています。
まだ認知度の低いビジネスの価値を、いかに伝えるか?
──GeNiE株式会社が設立された2022年4月の段階では、エンベデッド・ファイナンス自体の一般認知度はさほど高くなかったように思います。3年前に比べて、認知度の変化は感じますか?
齊藤様:
「マネーのランプ」をリリースした2024年以降、他社も含めて一気に事例が増えたこともあり、最近はようやく認知度が高まってきたと感じています。ただ、我々が起業した段階では、世間にはほとんど知られていませんでした。パートナー企業様への商談の際も、なかなか価値が伝わりにくい感覚がありましたね。
また、エンベデッド・ファイナンスという言葉自体は一時期より知られるようになったとはいえ、仕組みや価値を100%理解してもらえるまでには至っていません。そういう意味では、まだまだ市場を耕しているフェーズであると認識しています。

──新規商談の際、エンベデッド・ファイナンスのことを深くご存知でないお客さまに対し、どのようにアプローチされていますか?
齊藤様:
エンベデッド・ファイナンス以前に、金融事業をやる利点をイメージできていないお客様も数多くいらっしゃいますので、まずはそこを丁寧に説明しています。個人向けの与信事業やローン事業というものが、お客様の課題にどうフィットするのか、どんなメリットをもたらすことができるのかという点をお伝えした上で、我々のサービスの話をさせてもらうという流れですね。
中山:
私が営業支援で入らせてもらった時にはすでに、そのフローが確立されていましたよね。すごいなと思ったのは、商談にあたり与件の整理をする際の、クライアントに対する解像度の高さです。GeNiE様は先方の事業やサービスのことはもちろん、それを利用するエンドユーザーのことまで調べ上げて、「どれだけローンと相性がいいか」ということを徹底的に分析されている。そこまで踏み込んだ上で、具体的な解決策としてエンベデッド・ファイナンスを提案されているから、刺さるお客様が多いのだと思います。

齊藤様:
おっしゃるとおり、そこは徹底していますね。GeNiEの行動指針の一つに「With Empathy(エンパシー)」があるのですが、これは“相手を理解し、一緒に喜び共感する”ことを指していて、お客様以上にお客様のことを理解する姿勢を大切にしています。
また、お客様にとってはエンベデッド・ファイナンスを導入することが目的ではなくて、これを使い、いかにビジネスを発展できるかが重要です。我々も、そこまで見据えて提案をしなければ意味がありませんし、そうしたビジョンがないままスタートしても良い結果にはつながらず、お互いにとって徒労に終わってしまいかねません。ですから、入り口の段階からお客様の課題に合わせた具体的な説明を行うように心がけています。
強烈だったファーストインプレッション。忖度のない言葉が刺さり、支援を依頼
──あらためて、AlphaDriveの支援を導入いただくまでの経緯をお聞きしたいと思います。
芳岡:
最初の出会いは確か、2024年5月のStartup JAPANの会場でしたよね。私たちが出展するブースに、齊藤様みずらお立ち寄りいただいて。

齊藤様:
はい。当時は私たちの事業を支援してもらえるパートナーを探すために、色んなイベントに足を運んでいました。求めていたのは、会社全体の能力拡張です。スタートアップで社内のリソースも限られているため、個々の能力に頼っているだけではやれることに限界があります。そこで、営業チームやシステム開発、法務部門など、各機能にレバレッジをきかせ、組織としての能力を拡張させるようなサポートをしてくれる仲間が必要だと考えていました。
AlphaDriveさんのことは、もともと存じ上げていたので、ご挨拶がてらStartup JAPANのブースに立ち寄らせてもらいました。その時は芳岡さんとは別の方にアテンドしていただいたのですが、ファーストインプレッションが強烈だったというか。なんというか、圧倒されましたね。
芳岡:
そんなふうに思われていたとは(笑)。
齊藤様:
もちろん良い意味で、ですよ。初対面なのにグイグイ来るというか、めっちゃ話を聞いてくれるんです。「どんな事業をやられているんですか? 面白いですね」って。

齊藤様:
ものすごく前のめりな姿勢に好印象を抱き、この人たちに相談してみたいと、改めてミーティングの機会をいただいた時にお会いしたのが芳岡さんでした。芳岡さんのコミュニケーションがまた、ブースでアテンドしてくれた方をさらに濃縮還元したような感じで、我々のことを丸裸にするように、徹底的に深掘りしてくるんです。
芳岡:
私たちは支援を開始する前に必ず現状の健康診断というか、アセスメントのプロセスを踏んでいます。その結果をふまえて具体的な支援を設計するのですが、正確な診断を行うには、お客様の本音を知る必要がある。そのため、齊藤様にもやや不躾な質問をしてしまったかもしれません。
齊藤様:
そのアセスメントも忖度がないというか、歯に衣着せぬ評価や意見、アドバイスがとても刺さりまして。的確だったし、僕らにはない視点もたくさんあった。短期的な関係を望んでいるのではなく、うちの事業を本当に成功させたいという想いがあるからこそ、厳しいことも言ってくれているんだろうなと感じました。それが、AlphaDriveさんに支援をお願いする決め手でしたね。

戦略と戦術を磨き、法人営業の精度が大きく向上
中山:
我々に支援をご依頼いただいたのが2024年5月。ちょうど、「マネーのランプ」がローンチされるのと同じタイミングでした。その際、GeNiE様が抱えていた課題のなかで最もプライオリティが高かったのが法人営業だったと認識しています。
高田様:
我々の当初の目論見としては、サービスを作りながら営業を進め、数社のクライアントを持った状態で「マネーのランプ」をローンチしたいと考えていました。しかし、思うように結果は出ていなくて。そもそも私自身、前職のアコム時代を含めて法人営業の経験がなく、知見を持ったメンバーもいない状態でした。
また、営業のやり方もそうですが、そもそも「どんな企業のどういった部門にアプローチすれば関心を持ってもらえるか」といった戦略的な部分も十分に練られていませんでしたし、さらに言うと、「営業にどれくらいリソースを割くべきか。どれくらい投資すべきか」についても適切なバランスを掴めていないところがありました。
芳岡:
そうした状況をふまえ、私たちは「戦略(業界ごとに、どの企業を攻めるかの優先順位付けなど)」と「戦術(営業資料をはじめ、具体的なツールの作成など)」の両面から支援の内容を検討し、アウトプットさせていただきました。
高田様:
営業チームとして特に有り難かったのは、アプローチする企業の優先順位をTier表という形で可視化いただいたことです。企業を4つの観点で数値化し、一定の数値を超えたらTier1のグループに入れて優先的にアタックするという、非常に分かりやすい指標ができました。
もちろん営業資料も役立っていますし、営業チームの若手メンバーに対して、芳岡さんが営業のロープレを実施してくれたこともあって、非常に感謝しています。本来は僕がやるべきことなのですが、当時は全くリソースが空かなくて。そのことを芳岡さんに相談したところ、すぐにロープレを実施し、各メンバーの良かったところと改善ポイントを明確に教えてくれました。その結果、メンバーの営業スキルが格段に上がったと感じていて、本当に助かりましたね。

芳岡:
先日は親会社であるアコム様の営業研修も支援させていただきました。齊藤様からアコム様にご推薦いただいたのがきっかけでしたね。
齊藤様:
GeNiEが新規の顧客をどんどん獲得しているのを知ったアコムの人間から、「法人営業、どうやっているの?」と相談されて、AlphaDriveさんのことを共有しました。私としても芳岡さんや中山さんから得たものをグループにも広げていきたいと考えて、アコム社員に対する法人営業の研修をお願いしたんです。AlphaDriveさんは研修専門の会社ではないのですが、しっかり設計いただいて。明日から使えるというくらい実践的な内容で、受講者の満足度も非常に高かったですね。
事業をさらに発展させ「ローン」のイメージを変えていく
芳岡:
早いもので、GeNiE様との取り組みがスタートしてから1年以上が経ちました。先ほど齊藤様もおっしゃっていましたが、今は「マネーのランプ」の導入企業も順調に増えていますよね。
齊藤様:
昨年10月から本格的に法人営業をスタートし、累計15社と提携を結んでいます。内定をいただいている企業様も多く、かなりのお引き合いがある状況ですね。今期がスタートして4か月の時点で目標の上方修正が必要になるくらい、おかげさまで順調です。
AlphaDriveさんのサポートには感謝しています。納品物の品質に関しても満足しているのですが、経営者視点でいうと、戦略よりも上流の「GeNiEが目指すべきゴール」みたいなところから一緒に考えてくれたことが、本当に有り難かった。当初は戦術の「勝ちパターン」だけ教えていただこうと思って、実際にそういうお願いの仕方をしていたのですが、依頼された役割を超えて伴走してくれるので、ご支援いただく内容がどんどん広がっていった感じですね。

齊藤様:
この1年、AlphaDriveさんと仕事をしていて感じたのは、「先回り能力」の素晴らしさです。新規事業を進めるプロセス、スケールさせていくプロセスをよくご存知なだけあって、我々が「次に困りそうなこと」を予測して、常に先回りで手を打ってくれるんです。
たとえば、営業戦略の議論をしている時に、私が内心「でも、それって実際にやってみなきゃ分からないよな……」と思っていたら、芳岡さんたちは翌週の定例に様々なノウハウを持ってきて「どれから試します?」と。議論が停滞しないように、スムーズに流れていくようにうまくコントロールしてくれました。未知数な部分もある事業で不安も大きく、暗中模索というなかで、AlphaDriveさんが数メートル先を照らしてくれるような感覚があって、非常に心強かったですね。
芳岡:
そう言っていただけると、頑張り甲斐があります。これからもご期待に添えるよう、引き続き伴走していきたいです。
齊藤様:
AlphaDriveさんには、すでに期待を超えるサービスをご提供いただいています。我々としても、そのサポートに報いてどんどんビジネスを大きくしていきたい。今はエンベデッド・ファイナンス、レンディングに特化して事業を行っていますが、さらなる成長のためには一つの事業だけに固執せず、新しいチャレンジが必要になるフェーズも訪れると思います。
また、私たちにはもっと先の展望として、日本ではややネガティブに捉えられがちな「ローン」に対する社会的なイメージを変え、プレゼンスを上げていきたいという目標もある。そのためには、もっともっとやらなければいけないことがあるでしょう。
そうしたフェーズの変わり目においても、ぜひ芳岡さんや中山さんたちにお力を貸していただきたい。コンサルとクライアントという関係性ではなく、忌憚のない議論を交わせる同志のような関係性をこれからも続けていけると嬉しいですね。
※インタビュー内容、役職、所属は取材当時のものです。
執筆・編集:榎並紀行(やじろべえ)
撮影:松倉広治