新規事業立ち上げの成功率を高める手法と具体的なステップを、数千もの新規事業プランに携わってきたAlphaDrive取締役の古川央士が解説します。
新規事業に取り組む意味。既存事業の拡大にも貢献する
「新規事業を立ち上げて、新たな利益を得たい」。この記事を読んでいる方の多くは、そんな気持ちなのではないでしょうか。しかし、新規事業立ち上げが「事業(利益)創出」のためだけの活動だと考えているとすると、とてももったいないことです。
新規事業立ち上げとは、既存事業にも大きな貢献を果たします。理由を説明します。
たとえばある100億円規模の「既存事業A」を持つ企業が「新規事業B」を立ち上げて軌道に乗り、1億円の売り上げをつくるようになったとします。
既存事業A:100億円
新規事業B : 1億円
事業単体として考えればBは成功といえますが、全体の売り上げの中では微々たるものです。しかし、Bの取り組みによって得られた知見を展開することにより、Aの販売方法やマーケティング手法を変革することができる可能性があります。
Bの事業の価値は1億円だけでなく、A既存事業の売上を150億円、200億円にまで押し上げる切り札となり得るのです。
さらに新規事業開発の取り組み通して、事業を牽引できる高いレベルのビジネスパーソンが育ち、次々と新たな挑戦が起こる企業文化が醸成されていきます。
これこそが、新規事業開発に取り組む真の価値です。新規事業は既存事業のトランスフォーメーションにきく、と言い換えてもいいでしょう。
新規事業を立ち上げる5つの方法
新規事業を立ち上げるアプローチはひとつではありません。
社内の新規事業プログラムを通してアイデアを募る「ボトムアップ型」をはじめ、上層部の意思決定からスタートするトップダウン、外部のリソースを活用するM&Aやマイナー出資、オープンイノベーションと、主に5つの方法があります。
この中で、まず取り組むのであれば「ボトムアップ型」がおすすめです。理由はシンプルで、効率がいいからです。同じ社内のアプローチであるトップダウンの場合は、1つの「事業の種」を組織で育てることになりますが、ボトムアップはその逆。100人で考えれば、100個以上の事業の種と、100人の「社内起業家」候補が生まれます。
また、ボトムアップの新規事業開発の活動を通して、事業をつくることのできる人材が育ちます。こうした人材を輩出することで、M&Aやマイナー出資といった、その他の事業立ち上げのアプローチも実現しやすくなります。
つまり、ボトムアップ型に取り組むことは、さまざまな新規事業創出のアプローチの「土台」をつくる取り組みだもといえます。
新規事業の立ち上げの7ステップ
新規事業を立ち上げには、段階的にステージを設定する「ステージゲート」を使って進めることがおすすめです。
ステージゲートでは、新規事業立ち上げの進行に応じたステージをつくり、各ステージで、目的や行動、次のステージへの昇格条件(ゲート)を設けてマネジメントします。各ステージで何をするか、いくら投資するかといった判断を可視化し、段階的かつ効率的に取り組むための方法です。
ステージゲートの各ステップを具体的に説明します。
【ステップ1】 WILL/ENTRY…WILL(意志)の醸成、顧客へのヒアリング
新規事業創出のスタートにあたる、アイデア出し(アイディエーション)のステージ。課題解決まで走り抜き、チームの結束を固める強い「WILL」を醸成したら、顧客へのヒアリングを繰り返して仮説の検証を行います。
【ステップ2】MVP1…顧客課題の検証
仮説をもとに、主にヒアリングによって顧客課題を検証します。
【ステップ3】MVP2…顧客課題を解決するソリューションの検証
「Minimum Viable Product(=検証可能な最小限の製品)」を用いて、ソリューションと事業性を検証。実証実験を繰り返し、事業計画を作成します。
【ステップ4】SEED…ビジネスを成立させる
1〜3で検証したアイデアを、製品として世に出すステージ。実際に商売を成立させ、グロースドライバーを発見することが目標です。
【ステップ5】ALPHA…事業を拡大させる
資金を投入して事業を拡大させる時期。事業目標を定め、クリアを目指します。
【ステップ6】BETA…事業成長を継続する
持続的な事業拡大を目的とするステージ。新規事業から既存事業への変化を見据えて、組織のガバナンス(監視・統制の仕組み)を整備・構築する時期でもあります。
【ステップ7】EXIT…新規事業の枠組みから卒業
大きく成長し、既存事業として独立するステージです。
ステージゲートの詳しい解説は「【ステージゲート】7ステップで効率的に新規事業開発。AlphaDrive古川が解説」をご覧ください。
新規事業立ち上げの最初のステップは、WILLの醸成
新規事業でまず起こすべきアクションは、WILLの醸成と顧客へのヒアリングです。
ここでいうWILLとは、「課題解決のために行動したい」「チャレンジしたい」といった、強い気持ちを指します。自身の強い原体験をもとに新規事業開発に取り組む場合もありますが、必ずしも全員が最初から原体験を持っているわけではありません。
初期のステップでは、何度も顧客のところへ足を運び、顧客と話すこと。これを繰り返すことで課題が自分ごと化され、「解決したい」というWILLになります。特に初期ステップでは、起案者の熱意や行動量が重要になります。
新規事業立ち上げの注意点
新規事業を立ち上げるには、ステージゲートのような「立ち上がる仕組み」が重要です。新しい取り組みを行うのですから、当然既存事業や組織のルールにはない、多くの論点が出てきます。
たとえば「労務」「勤怠」「著作権」「評価」「インセンティブ」など、新規事業プログラムの運営事務局は、たくさんの論点をひとつひとつ整理していく必要があります。
細かな制度を整えていないまま新規事業開発に取り組んでしまうと、後々トラブルに発展します。例えば新規事業プログラムであるサービスを開発した従業員が、その技術を転用して独立してしまう、ということも起こりうるでしょう。この問題は、事前に著作権の扱いを決めておけば防ぐことができますよね。
事業開発のための制度設計は、炎上やトラブルを未然に防ぐ盾として役立つのです。
まとめ:事業の種を段階的に育てよう
新規事業を立ち上げるポイントは、以下にまとめられます。
- 新規事業開発の取り組みは、既存事業のトランスフォーメーションにも有効
- ステージゲートを活用し、7つのステップで段階的に進めていく
- 初期のステップは、顧客ヒアリングを繰り返し、WILLを醸成することが大切
AlphaDriveでは、豊富な実績とノウハウを活かして、企業や事業の実態に即した新規事業開発プログラムの制度設計や運営に取り組んでいます。お気軽にお問い合わせください。
筆者について
古川 央士
株式会社アルファドライブ 取締役 兼 COO
青山学院大学卒。学生時代にベンチャーを創業経営。その後、株式会社リクルートに新卒入社。SUUMOでUI/UX組織の立ち上げや、開発プロジェクトを指揮。その後ヘッドクオーターで新規事業開発室のGMとして、複数の新規事業プロジェクトを統括。パラレルキャリアとして、2013年に株式会社ノックダイスを創業。飲食店やコミュニティースペースを複数店舗運営。一般社団法人の理事などを兼任。社内新規事業や社外での起業・経営経験を元に、2018年11月、株式会社アルファドライブ執行役員に就任。リクルート時代に1000件以上の新規事業プランに関わり、10件以上の新規事業プロジェクトの統括・育成を実施。株式会社アルファドライブ入社後も数十社の大企業の新規事業創出シーン、数千件の新規事業プランに関わる。2023年より株式会社アルファドライブ取締役兼COO。