新規事業開発に用いられるマネジメント手法「ステージゲート」について、数千もの新規事業プランに携わってきたAlphaDrive取締役の古川央士が解説します。ステージゲートの基本的な考え、各ステージの解説、効果的な使い方や注意点などについて紹介します。
ステージゲートの解説。ヒト・モノ・カネの最適化を図る
新規事業の立ち上げを任されたはいいものの「何から手をつければいいのか」と悩んでいませんか? 新規事業開発とは、社内にある人材やリソース、お金を使って取り組むもののため、闇雲に行動しては大きな無駄や損失が生じてしまいます。
経営資源である「ヒト・モノ・カネ」を効率的に動かすマネジメントの枠組みを「ステージゲート」と言います。新規事業開発支援を行なうAlphaDriveでも、実際にステージゲートを活用しています。
「ステージゲート」の設計では、プロジェクトの進行度合いに応じた複数のステージをつくります。各ステージでは、目的や行動、次のステージへの昇格条件(ゲート)を設けます。ステージゲートがあることで、各ステージで何をするべきか、予算はいくら必要なのかといったことを可視化して管理することができます。
ステージゲートのメリットは、新規事業の起案者が、自分が今いるステージがわかることで、何をしていいか迷わず、取り組むべき課題に集中できる点にあります。
また、企業からしても、ステージによって必要な予算や期間が明確なため、投資の判断が行いやすくなります。さらに、事業としての継続・撤退判断が明確になります。
ステージゲートの7ステップ
ステージゲートのステージ数は、事業や状況によって変わりますが、AlphaDriveでは大きく7つの段階に分類しています。
最初期のアイデア創出から、顧客ヒアリングを繰り返す仮説検証、そして事業化、拡大を経て、部門化・会社化を目指します。
WILL/ENTRYからMVPまでは事業立ち上げの「0→1」の部分で「インキュベーション(孵化)」、SEEDからBETAまでは事業拡大の「1→10」の部分で、「アクセラレーション(加速)」と、AlphaDriveではそれぞれ定義しています。
ここからは、7つのステージを詳しく解説します。
【ステージ1】WILL/ENTRY:アイデア創出
ステージの最初期「WILL/ENTRY」は、事業のアイデアを創出するステージです。
主な活動は、想定顧客のいる現場へ足を運び、ヒアリングを行うことです。企業が行う「新規事業プログラム」では、フィールドワークなどが行われるケースもあります。現場の課題を感じ、自分の考えと向き合い、事業のタネをつくることに集中します。
このステージで大切なのは、「課題解決のために行動したい」「チャレンジしたい」といった、起案者自身の強い「WILL(意志)」です。
チームを組成して新規事業プログラムに取り組めそうだと判断したら、実際にエントリーして検証をスタートします。検証の結果、「顧客」「課題」「ソリューション仮説」が見えてきたら、次の実証ステージに移ります。
繰り返しますが、大切なのはあくまでもWILLです。収益や実現可能性といった要素はまだ不明瞭でも問題ありません。事業案を審査する側も、この段階ではアイデアの良し悪しでは判断せず、起案者のWILLを見るようにしましょう。
【ステージ2】MVP1:顧客/課題実証
事業仮説を、現実的に実証し始めるのがMVP1です。
MVPとは「Minimum Viable Product(=検証可能な最小限の製品)」の意味。つまり、試作品を作って仮説の検証を進めていくステージです。AlphaDriveではMVPを2つのステージに分けて管理しています。MVP1は主に、顧客ヒアリングを繰り返し、想定した顧客と課題が本当にあるのかを検討します。
このステージで重要なことは、たくさんの想定顧客のもとに何度も足を運んで検証を繰り返すことです。「顧客がどこにいるかわからない」「(ヒアリングなどの検証に)協力してくれない」と思う方もいるかもしれませんが、それをあらゆる方法で探すことがMVP1では求められます。
自社の既存顧客だけでなく、社内のネットワークに呼びかけたり、知人を介して紹介してもらったり、SNSを使う場合もあるでしょう。予算に余裕があれば、顧客を紹介してくれるサービスを活用するのも一手です。
3カ月ほどかけて顧客検証を行い、「課題が確かにある」「その課題を解決するソリューションの仮説がある」ことがわかると、MVP2へ移ります。
【ステージ3】MVP2:ソリューション実証
MVP2で検証するのは仮説のソリューションと事業性です。
3〜5カ月かけて実証実験やPoC(Proof of Concept)を繰り返し、仮説のソリューションが商品になったときに事業として成立するかを検証し、事業計画書を作成します。社内の新規事業プログラムでいうと、MVP2の終わりに最終選考を行うケースが多いようです。つまりここで、会社として投資すべきかどうかが判断されます。
MVP2における事業計画書のポイントは次の3点
- 売り方の設定と値付け
- コスト構造の見積もり
- 将来的な利益・売上のシミュレーション
事業としての構造を明らかにして、ステークホルダーの承認を得ることが目的です。事業計画が成立したら、SEEDに進みましょう。
ここまでが、新規事業立ち上げのインキュベーション。0→1のフェーズです。アイデアの卵を、さまざまな手法で温め、孵化させましょう。また、アイデア創出〜検証期間においては、さまざまなフレームワークが用いられます。
具体的なフレームについて知りたい方は、こちらの記事がおすすめです。
【プロが厳選】新規事業のためのフレームワーク6選。活用方法と注意点を解説
【ステージ4】SEED:事業性実証
SEEDからは、立ち上がった事業を成長させるアクセラレーション期。1→10のフェーズです。
SEEDで主に行うのは、「実際に商売を成立させる」と「グロースドライバーを発見する」の2つ。ここでのグロースドライバーとは「事業を拡大させる方法」のことです。採算性を伴って顧客を獲得する、営業やマーケティングの手法を確立しましょう。
これまで順調にゲートをクリアしてきた事業でも、SEEDでつまずくケースは少なくありません。検証してきた事業案は、あくまでも顧客ヒアリングからつくりあげた仮説であり、SEEDで初めて世の中に出し、リアルな反応を得るためです。MVPで成立した仮説がSEEDで変わることも往々にして起こります。
そのためAlphaDriveでも、アクセラレーション期の事業支援に特化したスタジオ「AlphaDrive AXL」を立ち上げ、このフェーズに注力しています。
【ステージ5】ALPHA:事業拡大
ここまで進んだ事業であれば、大きな投資を行えば、売上・利益が拡大するはずだと、社内のステークホルダーに認識されていることでしょう。
ALPHAでは事業目標を定め、必要十分な資金を投入し、事業拡大のための施策を実行します。これまで検証してきた営業・マーケティング手法を加速させるステージです。仮説が歯車のように噛み合い、日に日に顧客数や売上が増える手応えは、事業を行う上でこれ以上ない喜びとなります。しっかりとアクセルを踏みましょう。
ただし、ハイペースでの組織拡大には要注意。人的コストがかかるだけでなく、チームの疲弊と組織問題が起こりやすくなります。また、想定したように事業の拡大ができない、成長速度が落ちているなどの課題が出てきたら、営業やマーケティングの手法を変えたり、一度資金の投下を止めたりと、柔軟な対応が必要です。
【ステージ6】BETA:事業拡大
BETAは、引き続き事業拡大を目指すステージです。2〜3年を目安に、持続的に拡大する仕組みを構築し、事業を運営していきます。
このステージでクリアすべき課題は2つです。
1つは、社内で既存事業と比較される「最低規模」にまで到達することです。これまでの営業・マーケティング手法では頭打ちになるケースもありますので、新たな手法を取り入れる、社外のプレイヤーと提携するなど、柔軟な成長戦略が求められます。
2つは、既存事業と遜色ないガバナンス(監視・統制の仕組み)の構築です。スピード優先の新規事業から、リスクを回避する既存事業へと成長する上で、ガバナンスの強化は避けて通れません。
昇格の基準は、引き続き事業目標の達成。ここまでが1→10のアクセラレーション期です。
EXIT:部門化/会社化
新規事業から卒業となる最後のステージが「EXIT」です。
BETAでは既存事業と比較できる規模を目指しましたが、EXITでは自社の企業戦略の一部に組み込まれるほど自立した事業となり、さらには既存事業を超える成長を目指します。投資戦略と社内での位置付けの整理、IR方針の策定が求められます。
また、これ以上の事業拡大が見込めなければ、提携や買収も視野に入れて事業の戦略を立てましょう。
ステージゲートを効果的に使うポイント
ステージゲートを活用する際には、以下の2点に注意してください。
ステージの設計は柔軟に
今回ご紹介した7分類のステージゲートが、必ずしもすべての新規事業にフィットするとは限りません。事業の特徴や業界特性などにあわせてステージ数を変えるなど、柔軟な設計・チューニングが必要です。
最初から大規模な投資が必要なビジネスには不向き
ステージゲートが効果を発揮するのは、少ない予算で課題やソリューションを検証、徐々に拡大していくビジネスです。そのため、宇宙ビジネス、都市やリゾート開発といった、最初から大きな金額を投下して勝負に出るジャンルには向いていません。
顧客の悩み(課題)を解決したい、そのためのソリューションで事業を起こしたい、という顧客起点の事業案が、ステージゲートに適していると言えるでしょう。
まとめ:ステージゲートを活用し、新規事業開発を効率的に進めよう
ステージゲートを使った新規事業開発は、以下のようにまとめられます。
- ステージゲートは顧客起点の新規事業に適している
- ステージごとに目的を定義することで、やるべきことに集中できる
- ステージごとにゲートを設けることで、段階的な投資判断ができる
ステージゲートとはマネジメントの枠組みのひとつであり、この通りに行えば必ず成功するというものではありません。枠組みに機械的に従うのではなく、業界特性や、企業文化などにあわせて、柔軟に仕組みをつくることが大切です。
AlphaDriveでは、新規事業に取り組む企業毎に、最適なステージゲートを設計・提供。新規事業プログラムを一気通貫で支援しています。ぜひご相談ください。
筆者について
古川 央士
株式会社アルファドライブ 取締役 兼 COO
青山学院大学卒。学生時代にベンチャーを創業経営。その後、株式会社リクルートに新卒入社。SUUMOでUI/UX組織の立ち上げや、開発プロジェクトを指揮。その後ヘッドクオーターで新規事業開発室のGMとして、複数の新規事業プロジェクトを統括。パラレルキャリアとして、2013年に株式会社ノックダイスを創業。飲食店やコミュニティースペースを複数店舗運営。一般社団法人の理事などを兼任。社内新規事業や社外での起業・経営経験を元に、2018年11月、株式会社アルファドライブ執行役員に就任。リクルート時代に1000件以上の新規事業プランに関わり、10件以上の新規事業プロジェクトの統括・育成を実施。株式会社アルファドライブ入社後も数十社の大企業の新規事業創出シーン、数千件の新規事業プランに関わる。2023年より株式会社アルファドライブ取締役兼COO。