新規事業開発に活用できるフレームワーク6種を、AlphaDrive取締役の古川央士が紹介。メリットやデメリット、具体的な活用方法や注意点などを徹底解説します。
新規事業におけるフレームワークの必要性とは?
ビジネスのさまざまなシーンで用いられる「フレームワーク」。新規事業開発では、どのようなフレームワークが有用なのでしょうか。
一つひとつ紹介する前にお伝えしたいことがあります。これさえあれば新規事業ができる“魔法の杖”のようなフレームワークは存在しません。私は新規事業開発を登山に例えることが多いのですが、最大の成功要因は登る本人がどう行動するか、です。フレームワークとは、登山における「電灯」や「コンパス」、「ロープ」のような、要所でサポートしてくれるツールなのです。
フレームワークに固執するあまり机上の空論になっては本末転倒です。そのことを理解した上で、顧客発見やアイデア創出、事業案の検討といった行動に役立ててください。
新規事業のフェーズに合わせて適切なフレームワークを選ぶ
新規事業開発には主に、アイデアを創出する「アイディエーション」、顧客検証を繰り返す「インキュベーション」、そして事業の拡大を目指す「アクセラレーション」のステップがあります。
事業がある程度進んだ「アクセラレーション」は、セールスやマーケティング、製造や開発といった具体的な施策実行フェーズです。新規事業開発のフレームワークは、前半の「アイディエーション」「インキュベーション」のフェーズで取り入れるといいでしょう。詳しく解説していきます。
「事業領域探索のワークシート」
- 活用フェーズ:アイディエーション
新規事業を検討するテーマが決まっている場合は、次のようなシンプルなワークシートを使い検討するといいでしょう。これはAlphaDriveが新規事業研修の際に実際に使っているもののひとつです。
使い方は簡単。上段にある「新規事業のテーマ」に関するキーワードをリサーチし、中央左のスペースに書き込みます。次にそのテーマに関連する「原体験」を、中央右のスペースに書きます。左右に書かれた内容のうち、興味が持てるキーワードでかつご自身や周辺の方々の原体験に関わりそうなものを選ぶと、その人が推進しやすい事業領域となるかもしれません。
例えば、ウェルビーイングをテーマにした事業開発を検討する際、左のリサーチ結果に「介護」「健康寿命」「メンタルへルス」等があり、右の原体験に「祖父母の介護に苦労した経験」があった場合、事業領域として「介護」を選んでみてはいかがでしょうか。
このシートのポイントは「原体験」を書くことで、事業案を「自分ごと化」できるようになることです。新規事業開発は、WILL(意思)を持ち、モチベーション高く取り組める領域であることが大事です。
「ステークホルダーマップ」顧客・業界を可視化
- 活用フェーズ:アイディエーション
新規事業を考えるためには、「顧客起点」であることが重要です。そこで紹介するのが、検討テーマを中心において関係者を可視化する「ステークホルダーマップ」です。すべての関係性を1枚の図に書いて、可視化します。
「介護」をテーマに考えてみましょう。介護に関係している人は「介護する人」「介護される人」「行政」「企業」などが入り、さらに具体的にすると「医者」「家族」「ヘルパー」「ケアマネージャー」など、たくさんのステークホルダーが見えてきます。
書き出すことで関係者が整理でき、その間で情報やお金がどのように流れているのかが見えてきます。起案者が想定していなかった潜在的なターゲットも見えてくるでしょう。具体的なターゲットを探すときに活用してください。
「マンダラアート」顧客分析
- 活用フェーズ:アイディエーション
次は、知名度の高い「マンダラアート」を紹介します。一般的には発想・思想や目的設定に用いられることの多いフレームです。新規事業開発においては、マンダラアートをアレンジして使うことで、顧客を整理し、その課題を可視化することができます。これはAlphaDriveが実施する事業開発のワークショップでも実際に活用しています。
使い方①顧客課題の発見
まず、9つのマスの中央に顧客を書き、まわりの8マスにその顧客が持つ課題を書き込みます。これを行うだけでも、顧客像が具体的になるでしょう。
使い方②ステークホルダーの可視化
中央マスに事業を検討する「領域」を記載し、その周辺にステークホルダーを書きます。
例えばMICE(Meeting、Incentive Travel、Convention、Exhibition/Event)領域で検討すると、顧客になり得るターゲットは、「企業の研修企画者」、「旅行代理店のコーディネーター」、「研修会社の担当者」、「通訳」……というように、ステークホルダーが顕在化されます。
さらに、各ステークホルダーのマスに、それぞれの「課題」を書き加えていくと、検討領域でどんなステークホルダーがいて、どのような課題があるのかが整理できます。
「カスタマージャーニーマップ」顧客課題の可視化
- 活用フェーズ:インキュベーション
顧客が定まった段階で活用したいのが「カスタマージャーニーマップ」です。顧客の行動を時系列に沿って書き出すことで、どのシーンでどのような困りごとがあるのかが可視化され、注力するポイントがわかりやすくなります。顧客課題の検証を行いやすくなります。
「リーンキャンバス」事業構造の整理
- 活用フェーズ:インキュベーション
新規事業に関連するフレームワークで最も有名なものが、事業案の仮説・検証時に有用な「リーンキャンバス」です。顧客課題、価値提案など、9つの要素を埋めることで、事業案を俯瞰して検討することができます。
リーンキャンバスを使う上でのポイントは、一度書けばそれで終わりではなく、仮説をもとに顧客をヒアリングして、間違っていれば何回でも書き直すこと。これを繰り返すことで狙いの定まった事業計画になっていきます。完璧な事業案を書くためのものではなく、この仮説はもう検証したか、まだ試していない仮説はないか、といった活動を記録する「ログ」として使うといいでしょう。
リーンキャンバスのデメリットに、記載すべき項目の多さが挙げられます。おすすめは、まず「顧客の課題」を考え、その次のステップで「価値提案」と「ソリューション」に広げていくこと。
仮説検証を繰り返すインキュベーションのフェーズでは、「コスト構造」やマーケティングのための「チャネル」は空欄でも大丈夫です。フレームを書き込むことに力を割くより、顧客課題を定めて、顧客へヒアリングするという行動を起こすことを大切にしましょう。
「ジャベリンボード」顧客ヒアリングをサポート
- 活用フェーズ:インキュベーション
リーンキャンバスと近い構成のフレームワークに「ジャベリンボード」があります。顧客や課題、ソリューションといった点はリーンキャンバスと同じですが、特徴は各要素を「時系列」で蓄積し、それらを一枚で整理できることです。
顧客へのヒアリングの度に仮説を修正・再検討して記載し、また顧客へのヒアリングを行う。そのための補助ツールとして利用してください。
まとめ:新規事業開発でフレームワークを活用するポイント
フレームワークを有効活用するためのポイントは、以下のようにまとめられます。
- 新規事業開発のフェーズに合ったフレームワークを見極める
- フレームワークは目的ではない。課題を可視化し、検証を繰り返すこと
- 新規事業開発に合うオリジナルのシートを活用、既存フレームワークのカスタマイズも有効
今回の記事では、新規事業開発に有用な6つのフレームワークを紹介しました。繰り返しになりますが、フレームワークはあくまで仮説検証をサポートしてくれる道具です。これらを適切に使い、起案者や起案チームの活動が活性化することで、新規事業開発を着実に進めることができるのです。
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筆者について
古川 央士
株式会社アルファドライブ 取締役 兼 COO
青山学院大学卒。学生時代にベンチャーを創業経営。その後、株式会社リクルートに新卒入社。SUUMOでUI/UX組織の立ち上げや、開発プロジェクトを指揮。その後ヘッドクオーターで新規事業開発室のGMとして、複数の新規事業プロジェクトを統括。パラレルキャリアとして、2013年に株式会社ノックダイスを創業。飲食店やコミュニティースペースを複数店舗運営。一般社団法人の理事などを兼任。社内新規事業や社外での起業・経営経験を元に、2018年11月、株式会社アルファドライブ執行役員に就任。リクルート時代に1000件以上の新規事業プランに関わり、10件以上の新規事業プロジェクトの統括・育成を実施。株式会社アルファドライブ入社後も数十社の大企業の新規事業創出シーン、数千件の新規事業プランに関わる。2023年より株式会社アルファドライブ取締役兼COO。