新規事業を立ち上げる際、決裁者や役員から事業計画書の作成を求められます。このとき、ただ事実や予測を羅列するだけでは、承認を得ることは難しいでしょう。
新規事業開発を「山登り」に例えるなら、事業計画書が必要なのは実際に山を登り始める「事業化」フェーズです。しかし、探索段階である前半の「アイデア検討」フェーズで事業計画書の提出を求められ、その後のピボットで計画が徒労に終わるケースも少なくありません。
本記事では、事業計画書の役割と盛り込むべき要素のほか、事業計画書を作成するタイミング、事業立ち上げ後に失敗しないための注意点を解説します。
事業計画書は新規事業の設計図
事業計画書は、新規事業の設計図です。起案内容をまとめた「プレゼン資料」と「数値事業計画表」の2種類からなり、「事業の成長計画のアウトプット」と「社内でのゴール設定・投資決裁の判断材料」のために作成します。
事業の成長計画のアウトプット
事業の成長計画を言語化・数値化することで、実行すべき行動が明確になります。また、資金・人材などのリソース配分の根拠となり、チーム全体の優先順位も共有しやすくなります。
社内でのゴール設定・投資決裁の判断材料
事業計画書は、新規事業の戦略・収益計画・実現可能性を示し、統括部門や経営層の投資判断と承認を後押しする資料となります。一方で、自分たちの事業が本当に計画通り進められるかをシミュレーションするツールとしても重要です。
事業計画を言語化・数値化しておくことは、実行フェーズにおけるチームの確かな指針となります。
事業計画書の構成要素
事業計画書に決まったフォーマットはありませんが、以下の9項目は社内承認を得るために必須の要素です。説得力のある事業計画書を作成するため、これらの要素を適切に盛り込みましょう。
■事業計画書に盛り込むべき項目

事業の内容(顧客課題とビジネスモデル)
どのような事業を計画しているのか、という内容を示します。その際、「単なるアイデア」ではなく「顧客の課題をどのように解決するのか」という具体的なソリューションを記載してください。また、収益構造やコスト構造を示し、事業の経済合理性を明確にします。
新規事業の目的と意義
「なぜこの事業をやるのか」という新規事業の目的と意義を記載します。ただし、会社のパーパスとの整合性や既存事業とのシナジーといった自社視点だけでは不十分です。「社会にとってなぜ必要なのか(社会的な意義・価値)」や、「なぜ自分が取り組むのか(個人の想い)」も併せて記載し、多角的な視点から事業の必然性を明確にしましょう。
市場環境と競合分析
新規事業で狙う市場の規模と競合についても記載が必要です。TAM(Total Addressable Market:総獲得可能市場)やSOM(Serviceable Obtainable Market:サービス提供可能市場)などの指標を用いて、市場全体のポテンシャルと、自社が獲得できる市場シェアを定量的に説明します。また、直接・間接競合の状況と自社の勝ち筋を論理的に示します。
自社の強みと差別化要因
自社の強みや差別化要因を明示し、競合優位性(Moat)の根拠を客観データとともに示します。模倣困難性や持続可能性を説明し、優位性が継続する理由を明確にしましょう。主観的な判断ではなく、顧客調査やデータを用いて客観的な裏づけを行うことが重要です。
拡大戦略の全体像
拡大戦略の全体像として、マーケティングと営業をどのように展開していく想定なのかを記載します。
ターゲット顧客(WHO)と提供価値(WHAT)を具体的に定義し、検証を通じて「こうしたマーケティング施策・営業手法を展開することで、拡大していける見込みである」という根拠を示しましょう。
特に重要なのは、顧客が「お金を払う」と言える証拠を示すことです。顧客インタビューやプロトタイプ検証の結果など、具体的なエビデンスを提示してください。
なお、プロモーション手法(HOW)については、事業化フェーズで具体化すれば問題ないので、この段階では不要です。
リスク分析と対応策
外部環境と内部課題の両面からリスクを整理し、対応策や代替プランを示します。リスクを隠すのではなく、適切に認識し備えていることを示しましょう。リスク管理の姿勢は、決裁者に安心感を与えます。
撤退基準の設定
失敗時の損失や撤退ラインを定量的に設定し、判断が迷わない基準を事前に定めます。経営陣の判断が分かれないよう基準を定めることで、万が一の際の意思決定がスムーズになります。
財務シミュレーション
初期投資から黒字化までのシナリオを財務シミュレーションとして示します。
いつまでにどの程度の投資が必要で、いつ黒字化するのかを記載しましょう。また、人員計画や社内リソースの活用状況も具体的に示します。数字の根拠を提示し、計画の蓋然性を高めることが重要です。
立ち上げメンバーの紹介
事業推進に必要なBusiness(ビジネス)・Technology(テクノロジー)・Creative(クリエイティブ)など、必要な専門領域を網羅した人材構成を示します。
各メンバーの専門性と役割を明確にし、不足領域は外部リソースを活用する可能性も含め、推進体制の実現性を示しましょう。
事業計画書に大切な4つのストーリーライン
ここまで、事業計画書作成における基本的な説明を行ってきました。しかし、事業計画書で重要なのは形式ではありません。
事業計画書は、経営層や決裁者の投資判断に重要であると同時に、自分たちの事業を計画通り進めるための指針です。
特に起案内容をまとめたプレゼン資料において、事業計画や事実を淡々と書き連ねただけでは、人の心は動きません。熱量を持って「ロマン」と「そろばん」の両方を詰め込んだストーリーを描き、読んだ人が魅了されるものにすることが重要です。
審査時に細部を指摘されるのは、大抵ストーリーの破綻や欠落のある事業計画書といえます。「儲かるビジネスモデル」としてのロジックに少々欠ける部分があったとしても、本当に良いストーリーを持った事業計画が作成できれば、決裁側もいっしょになって実現に向けた解決策を考えてくれることもあるのです。
事業計画書を作成する際は、以下の4つのストーリーラインを意識しましょう。
1.取り組まねばならない理由がある
2.課題・ニーズがある
3.解決できる兆しがある
4.ビジネスとして成立する
1. 取り組まねばならない理由がある
「この新規事業には、私(自社)が取り組まねばならない理由がある」という必然性を示します。以下の3つの理由を、熱意が伝わるように盛り込みましょう。
・会社の理由:なぜうち(会社)でやるのか、どういうアセットが活用できるか
・個人の理由:ほかの誰でもなく、なぜ自分が取り組むのか(原体験・現場で得た顧客情報など)
2. 課題・ニーズがある
「この新規事業の実現を望む顧客はこんなにいる(こんなに求められている)」ということを示します。
重要なのは、ただ「欲しい」のではなく、「お金を払ってでも解決したい課題やニーズがある」という事実を明示することです。
また記載する際には、「~という課題があると思います」ではなく、「~という課題がありました」と語ることが大切。仮説ではなく、実際に確認した事実として提示しましょう。
3. 解決できる兆しがある
「この新規事業は、顧客の課題・ニーズを解決できる兆しがある」ということを示します。
なお、事業計画書で求められるのは、解決策のアイデアではなく検証「結果」です。「顧客が飛ぶように喜んだ」といった実際の検証結果を報告してください。
事業の内容により検証が簡単にできないケースでは、要素を細かく分解して部分的に検証した結果を記載します。完全な検証ができなくても、部分的な検証結果を積み重ねることで説得力が高まるのです。
4. ビジネスとして成立する
「この新規事業は、ビジネスとして成立する(儲かるはずだ)」というロジックを積み上げていきます。仮説検証の段階で、「本当に儲かるかどうか」は実際のところ誰にもわかりません。そのため、小さな検証を積み重ねて理論武装をします。
そのためには、ロジックの裏づけとなる事前準備が必要です。市場規模、収益モデルの妥当性、業者の見積りなどさまざまな資料を用意し、多角的に検証を積み重ねて提案に説得力を持たせましょう。しっかりと準備し、理論武装することで、ビジネスの可能性が伝わる事業計画書ができるのです。
事業計画書作成時の注意点
事業計画書の作成には、入念な準備と制作期間が必要です。多大なリソースを注ぐものですから、効果的なものとなるよう、事業計画書の作成に取り掛かる前にチェックすべき注意点を解説します。
作成タイミングが適切かを考える

事業計画書の作成に取り掛かる前に、作成タイミングが適切かどうかを考えてください。
新規事業開発は、大きく分けて「アイデア検討」のフェーズと「事業化」のフェーズがあります。
「アイデア検討」から「事業化」フェーズに移るタイミングでは、「ヒト」「モノ」「カネ」が大きく動きます。つまり、本格的な投資判断を行うために事業計画書が必要です。
しかし多くの場合、「アイデア検討」フェーズで決裁者から「事業計画書はどうなってる?」などと作成を求められます。
「アイデア検討」フェーズでは、検証により計画が目まぐるしく変化します。そのため、細かく事業計画書を作成しても意味をなさないものになりがちです。作成タイミングが適切かどうかを冷静に見極め、無駄のないタイミングで制作に取り掛かりましょう。
数値事業計画表とプレゼン資料を連携させる

事業計画書には、起案内容をまとめた「プレゼン資料」と「数値事業計画表」の2種類があります。それぞれを別の資料として作成するのではなく、数値事業計画表で作成した数字の根拠をプレゼン資料に盛り込むことで、両者を連携させてください。
また、数値事業計画表を作る際には、「ビジネスとして成立する理由」をKPI分解しましょう。「利益」は「売上-費用」、売上は「顧客数×単価」、費用は「原価+販売管理費」…と因数分解していき、一つひとつに論拠を示すことで、説得力が増します。
稟議をクリアすることを目標としない
事業計画書の作成時、「稟議をクリアすること」を目標とするのは危険です。稟議をクリアすることを優先すると、「少し背伸びした数字」を設定してしまう傾向があります。
実際に事業化したとき、事業計画は「達成しなければならない目標」となります。みずから設定した背伸びした数字が達成できないと「事業立ち上げはできるが、経営を任せてみたらダメだった」と評価され、事業担当から外されてしまうかもしれません。
事業計画は、運営目標となった後もコミットしていけるものなのかを踏まえて設定することが重要です。
事業計画書にロジックとロマンを盛り込もう
事業計画書は、「事業の成長計画のアウトプット」であると同時に、「社内でのゴール設定・投資決裁の判断材料」でもあります。そのため、読んだ人の心を動かすものであることが重要です。4つのストーリーラインを意識して、ロジックとロマンを盛り込んでください。また、承認を得ることを目的とせず、実行可能な計画を立てましょう。
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よくあるご質問
事業計画書はいつ作るべき?
事業計画書の作成タイミングは、「アイデア検討」フェーズから、「事業化」フェーズに移るタイミングです。このタイミングで「ヒト」「モノ」「カネ」が大きく動くため、詳細な事業計画書が必須となります。
承認を得やすい事業計画書を作成するには?
承認を得やすい事業計画書は、読んだ人の心を動かすストーリーがあることがカギとなります。以下の4つのストーリーラインを意識してください。ただし、承認を得ることが目的とならないように、気を付けましょう。
・「取り組まねばならない理由がある」
・「課題・ニーズがある」
・「解決できる兆しがある」
・「ビジネスとして成立する」
事業計画書を作る上で注意すべき点は?
事業計画書を作る上で特に注意すべき点は、稟議をクリアすることだけを目標としないことです。承認を得るために「少し背伸びした数字」を設定してしまうと、実際に事業化した後で、みずから設定した数字に苦しめられることになります。運営目標となった後もコミットしていける、現実的な数字に落とし込みましょう。
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