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企業内で新規事業を立ち上げるリスクの低さと、成功時の見返りを両立。 デライト・ベンチャーズを徹底解剖

0.導入

 AlphaDriveは、新規事業開発や社内起業をテーマに外部から識者をお招きし、定期イベントを開催しています。今回のゲストは、日本の成長のために「起業が当たり前」という風土醸成に取り組む、独立系ベンチャーキャピタルのデライト・ベンチャーズ。AlphaDrive古川央士が、同社のベンチャー・ビルダー事業について、プリンシパルの坂東龍氏にお聞きしました。

1.VB事業立ち上げの理由は「日本のスタートアップエコシステムの弱さ」

 株式会社デライト・ベンチャーズは、株式会社ディー・エヌ・エー(以下DeNA)を有限責任組合員とした独立系ベンチャーキャピタルです。DeNA本体のアジェンダや事業戦略に左右されることなく、独立して投資の意思決定をしており、具体的には通常のベンチャーキャピタル(VC)事業としてシード期を中心としたアーリーステージの優良なスタートアップへの純投資、そしてベンチャー・ビルダー(VB)事業としてDeNA内外の人材によるスピンアウトを前提とした新規事業創出、独立・起業の支援を主な活動にしています。

 同社プリンシパルの坂東氏は2003年DeNAへ入社。広告営業やネットソリューション事業を経てウェディング総合情報サイト「みんなのウェディング」を立ち上げ後、ソーシャルゲーム事業の企画部長、決済事業を行う株式会社ペイジェントの取締役、インキュベーション事業部長、SHOWROOM株式会社取締役などを歴任。2019年10月にデライト・ベンチャーズに移籍しました。現在はVB事業の責任者を務めています。

 坂東氏いわく、VBとは「起業家と共に新規事業を立ち上げ、起業とスピンアウトをサポートする事業」のこと。とりわけ同社におけるVB事業では「DeNAグループのエンジニア、デザイナーとチームを組み、デライト・ベンチャーズ内で新規事業を立ち上げ、早期にスピンアウトさせ、その後はスタートアップとして急成長をしてもらい、IPOや大型M&Aを目指す」という取り組みです。

 「企業内で新規事業を立ち上げるセーフティーさと、スタートアップとして成功したときの見返りの多さの両方を持ち合わせた、『いいとこ取り』の制度で、具体的には次のような特徴があります」(坂東氏)

  • 大量ストックされた新規事業アイデアや調査データの活用
  • 新規事業立ち上げのノウハウを含めた支援体制
  • DeNA(OB・OG含む)の開発メンバーなどとチームを組んで初期開発
  • 現職に所属しながらの事業検証が可能
  • 本開発後はデライト・ベンチャーズに雇用され、給与(報酬)を得ながら初期事業開発・運営が可能
  • スピンアウト時に創業者として株式の過半数を取得(創業者75%、デライト・ベンチャーズ25%)

DeNAグループがこのVB事業を立ち上げた背景には、「日本のスタートアップエコシステムの弱さ」が背景にあったと、坂東氏は話します。

 「上場企業の時価総額ランキングを見ると、アメリカではVCから出資を受けて成長・上場している企業が多いです。一方で、日本のスタートアップはそこに一切名前が挙がりません。新卒の一括採用・終身雇用・年功序列が起因となり、日本では優秀な人材が大企業にとどまっています。大企業から離れるリスク、起業して失敗するリスクのハードルを下げ、優秀人材を解放し、起業を『そそのかす』 のがVB事業の目的です」(坂東氏)

 「永久ベンチャー」を掲げるDeNAには、多くの新規事業や起業家を輩出してきた実績があります。

 「3年ほど前からキャリアステップとしての起業を支援する方針へとかじを切り、輩出した起業家群全体で大きなDelight(喜び)を世の中に届けようと考えるようになりました。現在はその仕組みを社外にも開放し、活動しています」(坂東氏)

2.DeNA社外にも門戸解放したEIR(客員起業家)制度

 ここからは、AlphaDriveの古川央士がファシリテーターとなって行われたパネルディスカッションの内容を振り返ります。

──社内での新規事業立ち上げではなく、「社内からの起業」に注力された理由を改めてお聞かせください。

DeNAでインキュベーション事業部に在籍していたときにも経験したのですが、社内での新規事業提案の熱量は、次第に収まっていくものです。その意味でも新規事業は「オーナーシップを持てるかどうか」がその後の事業成功に関わる大きいファクターです。オーナーシップにとことんこだわった環境づくりを検討した結果、VB事業に至りました。
社内での新規事業立ち上げとスタートアップとしての起業には、双方に良いところがありますし、新規事業のゴールを収益の柱だとする大企業の戦略を否定するつもりはありません。ただ、われわれは「一度外に出てみようよ」という戦略をとることにしました。事業として成功してもらいキャピタルゲインを得ることがあくまでVB事業のメインとなりますが、たとえ外で失敗しても戻ってくることを許容する人材還流を念頭に置いています。

──AlphaDriveは社内での新規事業立ち上げを支援していますが、デライト・ベンチャーズの「起業支援」はその対極にあるとも言える活動だと思います。一番驚いたのは、スピンアウト時に創業者として75%もの株式を取得できる点です。DeNAの開発力や看板を借りられることも含め、まさに「いいとこ取り」の制度です。

スピンアウトのタイミングで株式のマジョリティーとともにオーナーシップを持ってもらうのが、当社VB事業の大きな特徴です。もちろんいろいろとテクニカルなやりとりが発生していますが、結論のみお伝えすると、起業家は「1万円以下」という極めて廉価な「飲み会に行く」くらいの金額で株式のマジョリティーを買い取れます。

──運用上工夫しているのはどのような点でしょうか。

事業検証の期間では今の会社(DeNA)を辞めなくてもよいですし、DeNA以外の会社から当社VB制度に参画するEIR(=Entrepreneur In Residence、客員起業家)の場合も、最初から転職・起業の決意を固めてこなければいけないわけでなく、2〜3割くらいの工数をかけたライトな検証から始めてもらいます。本人の熱量や事業の確度を高めながら「よし起業だ」となるまでのステップを踏める点もVB事業の大きな特徴です。

──EIRについてもう少し詳しく教えてください。

当社VB事業はDeNA社員を対象にスタートしましたが、昨夏くらいから積極的に門戸を開放し、社員以外にもアプローチしています。それがEIRです。企画フェーズからスピンアウト直前まで現在40人ほどのEIRが在籍しています。参加者の属性としては人材派遣系やIT系などのメガベンチャーが多いですが、商社や銀行からいきなりEIRに来る人もいますし、そうした会社からメガベンチャー、さらにはアーリーなスタートアップへと転籍され、ここにたどり着く人もいます。ある程度目指す方向性はありながらも、具体的な事業案は持っていない、だけど起業そのものを目的とされている野心のある人が半分強くらいです。

──EIRの参加者には、どのような方法でアプローチしているのでしょうか。

主には人材マッチングサービスを通じてスカウティングしています。起業を「そそのかす」ことの草の根活動ですね。

──つまり「転職しませんか?」ではなく、「起業しませんか?」というメールが届くということですね。非常に面白い時代になったものです。

3. 事業創出を支援する伴走・サポート体制

──事業創出を支援する伴走・サポート体制についても教えてください。

伴走・サポート体制は拡充を図っている最中ですが、改めてVBフローについて説明すると、次のスライドのようになっています。

「①企画フェーズ」ではアイデアのネタ提供がメインです。アイデアストックのためいろいろな業界のリサーチを欠かさず行いながら、常に情報をアップデートしています。もちろん事業の壁打ち・フレームワークの提供などの支援も行っていますが、アイデアのネタ提供がここでの最たる支援内容です。
「②検証フェーズ」ではテストマーケティング、アンケート、ヒアリング、ネットワーキングなどの支援を愚直に行います。
「③開発・運営フェーズ」ではDeNAグループのOB・OGを含めたネットワークを駆使し、エンジニア、デザイナーなどを巻き込んだ開発チーム構築・マッチングを支援。
最終的な「④スピンアウト」ではもちろん資本政策やVC紹介、そしてスピンアウト後のサポートがメインとなります。

──事業化の判断基準ポイントとしては、どのような点に重きを置いていますか。

基本的には「課題解決型」のビジネスがメインの投資対象です。ソリューション起点で考えられた新規事業は「ありもしない課題を解こうとしている」みたいなことになりがちで、ちょっとハイレベルで抽象的な課題設定だと、実際に課題を解くやり方と粒度が合わないこともあります。課題が「顕在化」していることが重要ポイントです。

──課題の顕在化とは?

その課題があるがゆえ、ターゲットが「なりたい姿に到達できない」「何かが達成されない」、そしてそのハードルを越えるために工数をかけたりお金を払ったりと、何かしらのアクションを起こしている。そんな事象を「課題の顕在化」と考えています。その上で考えるのは「課題の大きさ」ですね。TAMやSAMといった市場規模的な話ではなく、その課題が「1000億円以上くらいの規模感」で世の中に存在しているかどうか。今はまだ存在していない課題だったとしても、この先急激にその課題が大きく伸びていきそうな場合もOKとしています。

──そのあたりはわれわれが社内新規事業をサポートするときも同じです。

日本は起業家をどんどん増やしてスタートアップ界隈を盛り上げていかなければいけないと思っています。少しでもその力になりたいと思いVB事業を始めました。起業に興味をお持ちの方、またVB事業に参画してみたいエンジニアやデザイナーの方は、EIRにご応募ください。本日はどうもありがとうございました。

登壇者について

坂東龍

デライト・ベンチャーズ プリンシパル

2003年にDeNA入社し、広告営業やネットソリューション事業でのコンサルタントを経て、「みんなのウェディング」を立ち上げスピンアウトまで事業責任者を務める。その後ソーシャルゲーム事業の企画部長、ペイジェント取締役、インキュベーション事業部長、SHOWROOM取締役等をつとめ、2019年10月からDelight Venturesに移籍し、Venture Builder の責任者として新規事業・スタートアップの創出・育成に尽力している。

古川 央士

株式会社アルファドライブ 取締役 兼 COO

青山学院大学卒。学生時代にベンチャーを創業経営。その後、株式会社リクルートに新卒入社。SUUMOでUI/UX組織の立ち上げや、開発プロジェクトを指揮。その後ヘッドクオーターで新規事業開発室のGMとして、複数の新規事業プロジェクトを統括。パラレルキャリアとして、2013年に株式会社ノックダイスを創業。飲食店やコミュニティースペースを複数店舗運営。一般社団法人の理事などを兼任。社内新規事業や社外での起業・経営経験を元に、2018年11月、株式会社アルファドライブ執行役員に就任。リクルート時代に1000件以上の新規事業プランに関わり、10件以上の新規事業プロジェクトの統括・育成を実施。株式会社アルファドライブ入社後も数十社の大企業の新規事業創出シーン、数千件の新規事業プランに関わる。2023年より株式会社アルファドライブ取締役兼COO。

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