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900万ダウンロード超、「dヘルスケア」はなぜ圧倒的に伸びたのか

導入

NTTドコモ社が持つ強大な顧客基盤を活かして、ヘルスケア領域の課題解決に挑む「dヘルスケア」事業。「dヘルスケア」アプリは、2021年8月末に900万DLを超え、「App Ape Award 2019,2020 Best 100 Apps」に2年連続で選出されるなど、ユーザーからの高評価を獲得しながら、現在も順調なグロースを続けている。大企業のアセットをフル活用して事業立ち上げを推進するポイントについて、「dヘルスケア」事業の立ち上げからグロースを推進した伊藤慎介氏に聞いた。

1. 健康管理を楽しむアプリ「dヘルスケア」

──まず「dヘルスケア」について教えてください。

2018年5月に立ち上げ、現在900万DLを突破しているドコモ独自の健康管理アプリです。毎日の歩数や体重を記録していくと、抽選でdポイントを獲得することができます。様々なミッションをクリアしていく形式で、楽しみながら健康管理をしていただけます。主な利用者は健康志向の強い人よりも、ジムに行くのは面倒だけれど健康は少し気になる、というライトな層です。

アプリは無料版・有料版があり、有料版では限定イベントの開催、dポイント抽選のハズレなし、実名のお医者さんに24時間チャット相談ができるなどの特典があります。Apple Storeでは星4.3の高評価をいただいており、様々なお客様に毎日楽しくアプリを開いていただけるよう、日々サービス改善に励んでいます。我々の調査では、約9割の方が「dヘルスケア」をきっかけに健康意識が向上したとお答えいただいています。

──「dヘルスケア」の目指す方向性についてはいかがですか? 

社会課題の解決、ドコモの企業理念の実現、お客様の満足度向上を目指しています。厚生労働省が平成26年に出したデータによれば、約半数の人は健康のために何もしていない。健康無関心層と言えます。しかし医療費高騰による財政圧迫や健康保険組合の赤字財政など、健康行動の促進は社会課題です。「dヘルスケア」では健康無関心層でも気軽に楽しく続けられる情報・コンテンツ提供を行うことで、結果的に健康を実感できるサービス設計を目指しています。

2. ドコモだからこそできることを、愚直に事業に落とし込んだ

──「dヘルスケア」立ち上げの経緯を教えてください。

2016年に、18個ものアプリサービスが使い放題というコンセプトで500円版の「dヘルスケア」がサービス開始をしました。しかし健康系アプリは複数個使用していただくのが難しいため、一つのアプリにサービス内容を集中させ、数分でも毎日継続して開いていただけるアプリへと舵を切ることに。2016年後半から構想がスタートし、2018年5月に「dヘルスケア」アプリのリリースに至りました。

私は当初「dヘルスケア」担当ではありませんでした。ただサービスを作りたいという意思が強かったため、周囲にその想いを伝えていたところ縁を頂き、「dヘルスケア」事業に参画できることになりました。

──「dヘルスケア」担当に着任し事業を推進される中で、どのような苦労がありましたか?

今までEC事業の経験しかなく、初めてのアプリ事業に苦戦しました。外部パートナー・社内含めアプリ事業立ち上げにノウハウのある方々に思いきり頼らせて頂きました。ドコモには新規事業・新サービス立ち上げの経験者が多いため、そういった方々にあらゆる不明点やノウハウを聞きに行く日々でしたね。お客様に明日も使ってもらえるアプリをご提供するためなら、何でもしようという想いでした。

──事業立ち上げにあたってはマネタイズ方法を中心に社内を説得する必要があるのではと感じます。そこはどのように切り抜けたのでしょうか?

dポイントはドコモの中でもお客様と繋がっていく強力なエコシステムの1つですので、接点を増やすという文脈で理解が得られやすかったという点は大きかったと思います。顧客基盤を拡充することができるメリットに対する社内理解が大きいのは、やはりドコモという大企業のアセットを活用できるからこその利点だと思います。

具体的なマネタイズ手法としては、有料版での月額収入をメインとしながら、無料プランでの広告収入や、アップセルの仕組みを用意するフリーミアムモデルとしてのマネタイズを確立していました。

──有料・無料プランの設計にはどんな工夫をされていますか?

無料で提供する機能と有料機能は日々気を遣いながら設計しているところです。有料ユーザーのNPS(ネットプロモータースコア、顧客ロイヤルティを測る指標)、フリーミアムプラン終了翌日以降の継続率をレビューして、有料会員を満足させられているかをシビアに判断しています。ドコモのサービスだからこそ多くの方に認知して頂き、あらゆるユーザーの声が届くという点も大企業ならではのメリットです。これを活かして日々サービス改善に努めています。

──900万は驚異的なダウンロード数ですよね。グロースにあたり転機になったポイントはありますか?

ドコモの数多くあるサービスとの相互送客ができるよう意識することで、「dヘルスケア」事業の推進は、ドコモ全体のエコシステムにとって意義があることだと理解いただくように気を付けました。社内広報やメディア担当にもこのことを理解してもらう。その恩恵もあり、サービス側で多額の宣伝費をかけなくとも新規ユーザーに恵まれた点は、本当にラッキーだと思っています。

──「dヘルスケア」はユーザー満足度がとても高い印象があります。サービス改善の際に意識されていることはありますか?

競合サービスはとにかく研究します。リテンション、評価面などあらゆる視点から見て、自分たちのサービスに持ち帰れる点はないか常にチームで議論する環境づくりをしています。我々は現状にも満足していないし、とにかく愚直に変わり続ける必要がある。お客様が飽きてしまう前に、新しいコンテンツや情報をご提案していきたいです。

──「dヘルスケア」には様々なサービスがありますが、どれがユーザー満足に繋がっているとお考えですか?

全ユーザーに全機能を使って満足して頂きたいというサービス提供者としての想いは前提にありながらも、それはなかなか難しいもの。そこで、ユーザーのステージ毎に使用する機能が異なるイメージを持って機能設計をしています。例えば、歩数をdポイントに還元することから始まり、コラムを読むようになり、健康について気になることが出てきたら医師に相談する。使い込み具合によって、満足するポイントも変化してくると考えています。

──冒頭で「健康無関心層」というキーワードも出てきましたが、ターゲット設定・戦略は具体的にどのように行ったのでしょうか?

やはりドコモユーザーとの親和性は意識しています。お客様との接点としてWebやドコモショップが挙げられます。私自身もドコモショップの店頭に立ったことがあるので、店頭にいらっしゃるお客様をリアルにイメージできることは大きいと思います。

3. Give and Takeは奇跡。Giveは積み重ねるもの

──大企業のアセットを新規事業で活用するには実際様々な壁が立ちはだかり、なかなか実現に至らないケースが多いように感じます。「dヘルスケア」の場合はどのようにアセット連携を実現したのでしょうか? 

精神論になってしまい恐縮ですが、まずは社内のキーパーソンに想いを伝えに行く草の根活動をしました。どんな想いでサービスを作っているか、それがどれだけのお客様に支持されているか。「dヘルスケア」を推進することでドコモ全体のためになることを強くお伝えするようにしました。

ただ、一方的に想いを伝えるだけでは難しい場合も多々あります。そこで、社内の他部署におけるメリットが何なのかを提示するよう意識しました。例えば、他部署が制作したストレッチ動画を「dヘルスケア」の健康ミッションで紹介すると、500回再生が30万回再生に増える。少しずつサービス価値を伸ばしていくことで、お互いに協力するメリットが生まれるようにしました。

──他部署に対するGiveをしっかり設計されているということですね。

コロナ禍以前は、用事もないのに他部署に行脚にいっていました。ミーティングの合間を縫って雑談に出かけ、ユーザーインタビューさながら最近困っていることをヒアリング。「dヘルスケア」と組むことでその課題の解決方法を提案していく、ということを積み重ねてきました。

──そういった活動は、社内でご自身の顔が広いからこそできることなのではと感じます。人脈を構築するために何か準備されたことはありますか?

とにかく「発信すること」を意識してきました。お世話になった先輩や同僚に、頼まれてもいないのに月次のKPI状況や今自分が何をしているかを送信。「伊藤通信」的に発信し続けることで、何かあった時に「あの人に相談しよう」と第一想起してもらうように網目を張る活動をしました。

──アセットを活用させてもらう前に、こちらが持っている情報を開示する、giveをするということが大切なのですね。

そうですね。私はGive and Takeなんて奇跡だと思っています。まず自分からgiveを積み重ねる。それを続けていると、たまにgiftが降ってくることがあるんです。ちょうど1年ほど前の出来事ですが、ある日先輩からdポイントクラブのLINE配信枠をいただき、その結果一気にApple Store上で総合順位17位まで行くことができました。giveを続けたことで、アセット活用するチャンスが巡ってきたのだと思います。

4. いつでも会社を辞められる気構えと緊張感が、自分を後押ししてくれる

──ここからは社内起業家としての伊藤さんの働き方について伺います。普段意識していることはありますか?

とにかく感謝の気持ちは忘れないよう心がけています。私の意見をいつも快く受け入れていただいているので、環境には常に感謝をする。一方で「会社に媚びない」ことも気をつけています。今の時代、どの事業にいたとしてもいつでも会社を辞められる気構えを持っている必要がある。それくらい強い思いで自分の意見を言えるよう努力すべきなのではないかと思っています。そういった気構えがあることで、双方に良い緊張が生まれて良いのではと思っています。

──伊藤さんは、社内の人たちのことも顧客のように捉え、ニーズを理解した上でコミュニケーションを取られているように感じます。馴れ合うよりは、一定の距離感を保ってプロフェッショナルとして付き合っておられる。

そうですね。実際、「dヘルスケア」にとっては社内の従業員もお客様ですから。リレーション率の高い顧客がすぐそばにいて、ニーズを知ることができる。それはチーム全体として意識しています。

5. 共感の輪を少しずつ拡大していくことで社内を味方にできる

──歩数+ポイントというサービスは他にも多数ありますが、新規事業として上層部の方・決裁権のある方にはどのように差別化の説明をされましたか?

立ち上げた当初は、正直今ほど類似サービスはなかったという前提があります。ただ差別化はもちろん必要で、それがまさにドコモのアセットを活用した「dポイント」を主軸としたサービスであることでした。あとは、お客様に合わせた健康ミッション・お客様に喜んでいただけるコンテンツで勝負をする、と説明をしました。dポイントはあくまでも利用継続いただくための一部のインセンティブであり、サービス自体に満足いただけるよう丁寧な設計を心がけています。

──アセット活用や社内政治の攻略法はありますか?

理解があり、かつ動きの早い人が社内に必ずいるはず。とにかく理解のある人を見つけて、共感の輪を広げるネットワーキングが大切だと思っています。そういった人たちは社内で繋がっているもの。1人と出会うと、どんどん紹介してもらえるようになります。そのためにも、自分が何をしているかを常に発信し続けることが重要です。

──少し具体的な体制面の話になりますが、機能追加をしていく際に開発人員の確保や優先順位を上げてもらうためにしていることはありますか?

「dヘルスケア」には専用の開発部隊がありますが、自サービスの優先度をいかに社内で上げていくかは私も悩んでいます。しかし、やはりこれも愚直にコミュニケーションを取っていくしかないと思います。ドコモのあらゆるサービスの中で、いかに「dヘルスケア」の価値を上げていくか。戦略を練り努力を積み重ねていくしかないと思います。

──最後に、大企業で新規事業に取り組む醍醐味を教えてください。

スタートアップ企業の成功確率が少ない中で、成功確率を大幅に上げられるうえ、多くのお客様の元に私たちのサービスが届き、フィードバックをいただける環境は自分自身の成長に繋がり、大きなやりがいにもなっています。もちろんネガティブなご指摘も含めて、自分・チームの仕事に対してフィードバックがいただけることは醍醐味です。お客様はサービスに愛を持っているからこそ、様々な意見をくださる。その1つ1つの声に、いつも頑張らなきゃいけないという気持ちにさせていただいています。

登壇者について

伊藤 慎介

株式会社NTTドコモ ヘルスケアビジネス推進室兼スマートデザイン・開発推進室 担当課長

2008年に株式会社NTTドコモに新卒入社。長野支店の営業部門に配属になり、販売店向けエリアマネージャーや県内全域の販売施策設計業務に従事。 2011年にサービス企画部門に異動し「iコンシェル」のコンテンツ企画、「dデリバリー」の立ち上げを推進。 2014年よりグループ会社の㈱オークローンマーケティングへ出向し、「Shoop Japan」のEC売上最大化にコミットし、楽天総合ランキングで2か月連続1位の実績を残す。 2016年より現職に異動し、プロジェクトリーダーとして「dヘルスケア」事業の立ち上げ/運営を推進。

古川 央士

株式会社アルファドライブ 取締役 兼 COO

青山学院大学卒。学生時代にベンチャーを創業経営。その後、株式会社リクルートに新卒入社。SUUMOでUI/UX組織の立ち上げや、開発プロジェクトを指揮。その後ヘッドクオーターで新規事業開発室のGMとして、複数の新規事業プロジェクトを統括。パラレルキャリアとして、2013年に株式会社ノックダイスを創業。飲食店やコミュニティースペースを複数店舗運営。一般社団法人の理事などを兼任。社内新規事業や社外での起業・経営経験を元に、2018年11月、株式会社アルファドライブ執行役員に就任。リクルート時代に1000件以上の新規事業プランに関わり、10件以上の新規事業プロジェクトの統括・育成を実施。株式会社アルファドライブ入社後も数十社の大企業の新規事業創出シーン、数千件の新規事業プランに関わる。2023年より株式会社アルファドライブ取締役兼COO。

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