Interview (クライアントインタビュー)

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NTTドコモ

NTTドコモの新規事業「はたらく部」。事業化から拡大を目指した1年

# 事業開発伴走

2022年5月にローンチした、中高生向けオンラインキャリア教育サービス「はたらく部」。株式会社NTTドコモの新規事業開発プログラムから生まれたこの事業は、株式会社アルファドライブ(AlphaDrive)のアクセラレーションスタジオ「AlphaDrive AXL」の支援プログラムを導入し、事業拡大に取り組んでいます。

「はたらく部」では、NTTドコモとAlphaDriveの2社間で業務提携を結び「仮想出島」を構築。さまざまな施策を柔軟かつスピーディーに行っています。

「仮想出島」という特殊なスキームや、アクセラレーションフェーズにおける成長戦略、「はたらく部」が目指す未来について、メンバー4名に聞きました。

山本 将裕 様

株式会社NTTドコモ イノベーション統括部/ドコモアカデミー学長 はたらく部 代表

篠田 桂介 様

株式会社NTTドコモ イノベーション統括部/ドコモアカデミー事務局 はたらく部 サービスディレクター

沖 昂治郎

AlphaDrive AXL インキュベーション・リード はたらく部 プロジェクトリーダー

「はたらく部」中高生がキャリアを学ぶオンライン部活サービス

提供:はたらく部

中学生や高校生のキャリア教育サービス「はたらく部」は2022年5月にローンチ。オンライン上のバーチャル空間で、社会人のコーチや同世代の仲間とつながり、ともに社会や将来について学び、考える機会を提供しています。

主なサービスは次の4つです。

  • 社会人コーチによるオンラインセッション
  • 社会人コーチによるメンタリング、伴走支援
  • 双方向型のワークショップ(1年で約50回開催)
  • 同世代の仲間が集まる、バーチャル空間のコミュニティ

また「はたらく部」では、アントレプレナーシップ教育にも注力しています。2023年3月からは株式会社ガイアックスと「はたらく部×起業ゼミ」探究学習プログラムを立ち上げ、全国50の中学校・高校に無償提供しています。

このほか、オフラインの出張授業やピッチ大会など、イベントも多数開催。「中高生のキャリア教育」という新しい市場の開拓を目指し、事業を拡大しています。

大企業のバリューとスタートアップの機動力を備えた「仮想出島」

──まず、「はたらく部」立ち上げの背景から教えてください。

山本様:
「はたらく部」は、「日本の若者の自己肯定感が低い」という課題からスタートしたサービスです。若者が明るい未来を展望するようになるには、中高生のうちから社会人と交流し、自分の将来と向き合う「キャリア教育」が大切だと考えています。

昨今、世の中では「キャリア教育」の必要性が叫ばれていますが、まだまだ十分とは言えません。中高生向けのキャリア教育を、オンラインを使ってサポートしたい。授業でも塾でもない、日本特有の“部活”のように、楽しい体験として提供したい。それが「はたらく部」のコンセプトです。

社内の新規事業開発プログラムに起案し、検証を経て事業化しました。

AlphaDriveさんには以前から、私が学長を務める企業内大学「ドコモアカデミー」で支援していただいていました。その時から、AlphaDriveさんの社会に対するポジティブな姿勢や、社内起業家を育成する知見に魅力を感じていました。

「はたらく部」の事業立ち上げの時、ちょうどAlphaDriveさんがアクセラレーションプログラムを始めると知り、ぜひご一緒したいと思ったのです。

またAlphaDriveさんは、リードコンサルタントの皆さんが実際に起業されたり、事業をスケールさせたりした経験を持っている点も特徴です。企業経営は、言語化の難しい勘所のようなものがあります。そうした感覚を経験値として持っている方が伴走してくれるのは心強いです。

──「はたらく部」は「仮想出島」というスキームで運営されています。これは、事業をNTTドコモからAlphaDriveへ一時的に移管して集中的に事業成長に取り組み、成長した段階で再びNTTドコモに戻す、という特殊なものです。この手法をとった理由は何でしょうか?

仮想出島のスキーム

出典:株式会社ユーザベース2022年5月16日のプレスリリースより

山本様:
目的は、柔軟かつスピーディーに事業をグロースさせていくことです。

NTTドコモは通信インフラという社会的責任の大きなサービスを提供しているため、たとえ新規事業であっても既存事業と変わらない最高レベルのガバナンスが求められます。それ自体はとても大事なことですが、稟議一つを通すにも相当な時間がかかり、どうしても事業の成長速度は鈍ってしまう。

「出島」という形で一度NTTドコモの外に出ることで、大企業のガバナンスから解放され、新規事業に適した環境で活動できるようになりました。企業内の事業でありながらスタートアップのような動きができるのは、とても大きいと感じています。

篠田様:
私はサービスディレクターとして「はたらく部」のサービス設計を行っていますが、やはりスピード感が全然違います。NTTドコモの場合、9000万人もの顧客を持つインフラとしての役割があるため、料金プランを100円変えるにしてもその影響は大きく、簡単には変えられません。一方で「はたらく部」はまだまだ顧客数も少なく、サービスの内容や提供価値も常に更新し続けている状況です。

実際、「はたらく部」では毎月のようにサービスを検討し、施策を試すなど、チャレンジを続けています。これは大企業では考えられないことです。

AlphaDrive AXL(以下AXL)木地:
新規事業には「走りながら考える」「どんどん変えていく」ことが求められます。セールスやマーケティング、ステークホルダーとの契約関連やバックオフィス業務まで含めて事業をお預かりすることで、スタートアップのような動きを実現できると自負しています。

事業フェーズにあわせたピンポイントの支援

──AlphaDrive AXLでは、事業のコンディションを見ながら、ピンポイントで人材やスキルなどの補強を行います。「はたらく部」の場合、事業立ち上げ時は1名が伴走支援していましたが、その後プロジェクトマネージャーとして木地が、プロジェクトリーダーとして沖がジョインしました。アサインについて教えてください。

AXL木地:
私と沖は2023年から、前任者と交代してプロジェクトに入りました。

事業の初期段階では、仮想出島というスキームを構築し、最初の顧客の獲得を目指すための施策に注力していました。ユーザー数が一定数増えた今の段階では、スケールのためさまざまな施策を試し、同時に既存ユーザーに対するカスタマーサクセスも求められます。

つまり、同じ新規事業でも、フェーズによって必要な施策やスキルは異なるんですね。

多くの具体的な施策が求められる今のフェーズの支援は、ひとりのコンサルタントでできるものではありません。僕や沖をはじめ、AlphaDrive AXLとして支援チームを組成して「はたらく部」の一員となり、“リアルなハンズオン支援”に取り組んでいます。

AXL沖:
私は「はたらく部」にはプロジェクトリーダーとして参画しているのですが、事業計画策定の支援からマーケティング、運営のオペレーション、バックオフィス業務、ほかには「はたらく部」のユーザーである中高生とコミュニケーションをとる「社会人コーチ」になることもあります。

コンサルティングというとアドバイスだけ、のようなイメージもあるかもしれませんが、自分でも「こんなにコミットするんだ」と驚いているほどです(笑)

支援ではなく「自分の事業」として本気でコミットする

篠田様:
AlphaDriveさんと仕事をしていて感じるのは、皆さん「はたらく部」を自分の事業として捉え、本気で取り組んでくださっているということです。

立ち位置としては伴走支援をしていただくパートナーなのですが、木地さんも沖さんも僕たちドコモ側と同じ思いを持って関わってくださっている。個人的には、そこに大きな価値を感じます。

AXL木地:
表面的な支援では、中途半端な成果しか上がらないと思います。伴走支援だからといって足掛け的に関わるのではなく、本当にこの事業を成長させたいという思いを持ち、現場に深くコミットしなければいけない。そのためには何が必要かというと、パートナーであるわれわれ自身が事業に対するWill(意志)を持つことです。

AXL沖:
Willを持つことは、本当に大事だと感じています。実際に「はたらく部」の事業は、自分自身のWillとかなり合致する部分があります。

僕自身、社会人になってから「学生のうちから自分の将来や働くことについて真剣に考えていたら、もっといろいろな選択肢があったな」と感じた経験があります。それこそ、自分が学生の時に「はたらく部」のようなサービスがほしかったと思っているんです。

この事業の必要性を強く実感しているからこそ、深くコミットしていきたいです。

AXL木地:
関係者で合宿を行い、一日かけて事業計画を徹底的に話し合いましたよね。そのような時間を経たことで、ひとつのスタートアップのメンバーのような関係性ができました。遠慮なく対話できる関係性を受け入れてくれる「はたらく部」の皆さんには本当に感謝しています。

事業のタイミングを見極め、拡大を狙う

──「はたらく部」は、事業約1年で有償月額会員が100名を超えました。改めて、事業の現状と課題について教えてください。
※2023年5月の取材時

山本様:
まず会員数に関してですが、初年度としては順調といっていいと思います。ユーザーの満足度も高く、サービス自体の価値はしっかり届いている実感があります。

2年目の課題はキャッシュポイントを増やすことです。これまでのBtoC戦略に加えて、学習塾や学校、あるいは企業に向けたアプローチにもチャレンジしたいです。

例えば昨年末、「はたらく部」に参加する高校生のメンバーたちがNTTドコモの社員60名にピッチを行う「高校生のデカいことを聞こう!」というイベントを実施したところ、大人顔負けのプレゼンが続出して大いに盛り上がりました。見ていた社会人の方が刺激を受けて「自分も提案したい」という声が上がったほどです。

優秀な学生たちが集まってくると、そのコミュニティは企業にとって価値のある場所になります。中高生のアイデアを企業が支援して実現する、という可能性もあるでしょう。「はたらく部」の新しい展開も期待できる、うれしい出来事でした。

篠田様:
「はたらく部」のディレクターとして1年取り組んで、やはりこのサービスは、ユーザーへの提供価値が非常に高いと実感しています。今の課題は、この価値をどうやって伝えていくか、です。

現在、沖さんと一緒にさまざまなマーケティングやセールスの施策に取り組んでいますが、ウェブマーケティングがいいのか、リアルな販売がいいのか、他のやりかたはないのか、検討すべき点はたくさんあります。そうした具体的な施策をいかに実行できるかが、今のポイントだと思っています。

AXL木地:
私も「はたらく部」のサービスは社会に必要なものだと確信していますし、価値が広く正しく伝わっていけば、事業はスケールしていくと考えています。

「キャリア教育」という領域は今、文部科学省が推進している国家的な戦略です。国の方針と事業の方向性が合致しているため、どこかのタイミングで大きな成長が期待できると思います。

私自身、会社経営の経験がありますので、こうしたビジネスの風向きには敏感です。タイミングを見極め、事業拡大を実現したい。これだけのメンバーがそろって失敗したら、もう私がクビになってもいいくらいの覚悟ですよ(笑)。

キャリア教育という、新たな市場を切り拓く

──最後に「はたらく部」の今後の展望をお聞かせください。

山本様:
日本ではキャリア教育が十分に根付いておらず、お金をかけて子どもにキャリアを学ばせたいと考える人はまだ少数派です。まずは、キャリア教育の認知を広げ、市場をつくるところから始めなければいけません。

そのためには、社会全体を巻き込んでいくアプローチも必要です。先ほど沖さんが「事業の必要性を実感している」とおっしゃっていたように、特にビジネスパーソンには共感してもらえるサービスだと思いますので、大人の方々への啓蒙にも力を入れていきたいです。

一方、「はたらく部」は有償サービスである以上、受けたくても受けられない人は必ず出てきてしまいます。それによって子どもたちに体験の格差が生まれてしまうことは、望んでいません。

そこで2023年、全国50の中学・高校に「はたらく部×起業ゼミ」の無償提供も開始しました。事業拡大はもちろんですが、同じ志を持つパートナーと連携しながら、より多くの子どもたちにキャリア教育の機会を提供できる方法を模索していきたいですね。

支援体制:アクセラレーション・リード/木地貴雄、インキュベーション・リード/沖昂治郎
取材・執筆:榎並紀行(やじろべえ)
編集:大久保敬太
写真:赤松洋太

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