株式会社ポーラでは「美と健康を願う人々および社会の永続的幸福を実現する」という企業理念のもと、2020年から化粧品以外の新規事業開発を本格化させています。その一つが、2023年7月にスタートした冷凍宅食惣菜サービス「BIDISH」です。
株式会社アルファドライブの新規事業アクセラレーションスタジオ「AlphaDrive AXL」では現在、BIDISHの事業拡大に向けた伴走支援を行なっています。
今回はBIDISHのプロジェクトリーダーである大塚真輝様、メンバーの中野広様、菅野奈々様、そして伴走支援を担当した弊社金子、長田にインタビューを実施。新規事業のアクセラレーションフェーズにおけるマーケティング戦略や、それを支える顧客課題の深堀り、カスタマージャーニー、ターゲット設計、仮説検証などの取り組みについてうかがいました。
大塚 真輝 様
株式会社ポーラ 新市場企画PJ
中野 広 様
株式会社ポーラ 新市場企画PJ
菅野 奈々 様
株式会社ポーラ 新市場企画PJ
金子 祐紀
株式会社アルファドライブ プリンシパルコンサルタント
長田 唯紀
株式会社アルファドライブ イノベーションアソシエイト
レンチンですぐに食べられる「自分のためのご自愛メニュー」
──はじめに、BIDISHのサービス概要と立ち上げの経緯を教えてください。
大塚様:
BIDISHは、食事から美しさを届けるブランドです。これまで化粧品などを通じて美と健康に向き合ってきたポーラの新規事業として、2023年7月に販売を開始しました。
「自分のためのご自愛メニュー」をキーワードに、ワンパウチで完結する冷凍食品を用意。レンチンするだけで手軽に食べられるため、忙しい日々のなかでも健康的かつ美容に配慮した食事を摂りたい人にご好評いただいています。
大塚様:
立ち上げの経緯ですが、ポーラが2029年に100周年を迎えるにあたり、経営陣が企業理念である「美と健康を願う人々および社会の永続的幸福」を実現するために、美容以外の新規事業を生み出していく方針を固めました。
そこで、新規事業をつくる舞台として「新市場企画PJ」が発足し、初期メンバーとして集められた三人のうちの一人が私でした。初期ミッションは「3年以内に新規事業をつくること」。
そこで、新市場企画PJの事務局メンバーとして社内のビジネスアイデアコンテストなどを運営しつつ、自分でも新規事業のアイデアを起案し推進することになったのがBIDISHです。
──大塚さんは、もともと新規事業推進の経験や知見があったのでしょうか?
大塚様:
いえ、まったくありませんでした。私は新卒入社からずっと営業畑で、現部署に来る前は九州にいました。初期メンバーに選ばれたのは、メンタル面でのタフさを買われてのことだったようです。
新規事業は基本的にうまくいかないもの。それでも諦めずに七転び八起きができるメンバーが集められていました。社長からは「ぜひ失敗してくれ」と声をかけてもらいましたね。
ちなみに、ここにいる中野や菅野は初期メンバーではないのですが、BIDISHの想いに共感して一緒に進んでくれる心強い仲間です。
──お二人は、どのような経緯でチームに?
中野様:
大塚がBIDISHのもとになるアイデアを起案したタイミングで、同時に社内でチームのメンバーを募集していたのを知り、参加したいと手を挙げました。
私も異動前は営業で大塚とのつながりもあったので、ぜひやってみたいなと。現在の役割は、大塚と同じく新市場企画PJの事務局メンバーとしての業務が半分、もう半分がBIDISHの事業推進で、主にマーケティングを担当しています。
菅野様:
私はBIDISHがローンチして2か月後の2023年9月にポーラへ転職し、チームに加わりました。
もともと食への関心が高く、前職ではお菓子の開発に従事していたのですが、当時から美味しく食べて健康になれるような商品を開発したいと思っていたんです。
「自分を思いやる食事」というBIDISHのコンセプトはまさに私がやりたいことで、ぜひこのチームで働きたいと。現在は主に、BIDISH商品のメニュー開発を担当しています。
ローンチから3か月、事業をテコ入れするためAlphaDriveへ支援を依頼
──大塚さんはメンタルを見込まれての抜擢ということでしたが、それまで新規事業の知見はまったくなかったと。新規事業のプロセスやビジネスのつくりかたについて、ご自身でかなり勉強されたのでしょうか。
大塚様:
はい。それこそ、AlphaDriveさんがやられているオンラインセミナーは毎回視聴していましたし、新規事業をやられている社外の方へもどんどん話を聞きにいきました。
最初は顧客課題の見つけ方や、そのためのヒアリングのやり方もまったくわからなかったのですが、わからないなりにまずはやってみようと。
うまく答えが引き出せなかったら、ヒアリングの経験者に引き出し方を教えてもらいに行ったり、めちゃくちゃ遠回りしながら何とか前に進め、ローンチまで漕ぎ着けましたね。
AlphaDrive AXL金子(以下、AXL金子):
AlphaDriveはBIDISHがローンチした3か月後からサポートに入っているのですが、その時点での大塚さんの学びの質と量には驚かされました。
自己流で突っ走るのではなく、しっかりと学んだ下地がある状態で推進されていて、そもそも新規事業を牽引するリーダーとしてものすごく資質が高い人だなと。
事業開発の完成度も、ローンチの時点ですでに85点くらいの状態には仕上げられていましたし、すでにお客さんも付き始めていました。
ただ、PMF(プロダクトマーケットフィット)がばっちりできているかというと、そこまでには至っていなかったので、私たちの経験を生かしてお手伝いできる部分があると感じましたね。
大塚様:
2023年7月のローンチからすぐに定期購入してくれるお客様もいて、スモールスタートのタイミングとしてはポジティブな結果が得られていたのかなと思います。
ただ、事業計画の目標値を達成するためには、マーケティングのあり方も含めた大きなテコ入れが必要だと感じていて、新規事業ならではの進め方を相談できるAlphaDriveさんに正式に支援をお願いすることにしました。
顧客課題やカスタマージャーニーをイチから見直し再構築
AXL金子:
当初はマーケティング支援ということでAlphaDriveにご相談いただきましたが、先ほども話したとおり、その時点での事業の完成度は85点くらいで、しっかりとPMFができている状態ではありませんでした。
いわば、水槽にポツポツと穴が空いている状態で、このまま広告費をガンガン突っ込んでしまうとロスも大きいと感じたんです。まずはわれわれがプロの視点で事業を再点検し、穴を塞いでからマーケティングに本腰を入れる必要がありました。
とはいえ、BIDISHはすでにローンチ済みで、さまざまなマーケティング施策も動いている状態。そこで、すべての施策を止めるのではなく、効果が高そうな施策に絞ってマーケティングを継続しながら、同時に水槽の補修作業を進めることを提案しました。
AlphaDrive AXL長田(以下、AXL長田):
具体的には、顧客課題の深掘りからカスタマージャーニーの作成までのプロセスをあらためて整理し、半年かけて再構築しました。最初にやったのは「お客さまが誰で、その人たちの課題は何なのか?」という部分の言語化でしたよね。
大塚様:
はい。自分たちなりに顧客課題の探索や言語化、カスタマージャーニーの作成は行っていました。ただ、それを金子さんや長田さんから客観的な視点で点検してもらうと、詰めが甘い部分が多いことに気付かされましたね。
たとえば、顧客課題を言語化できているつもりでもまだまだ具体的な言葉や行動にまで落とせていなくて、抽象度が高かったですし、メンバー同士の認識や解釈にもちょっとしたズレがあった。そこで、まずはそこを具体化し、チーム全員で認識を合わせていくことになりました。
AXL長田:
その顧客課題に対する解決策として、現在のBIDISHのサービスが本当にマッチしているかどうかを徹底的に洗い直した上で、カスタマージャーニーを立てて仮説検証に進むという流れでした。
仮説検証では、すでにBIDISHを購入しているお客さまに対してヒアリングを行いましたが、何か新たな気づきはありましたか?
中野様:
再構築したカスタマージャーニーに沿ってあらためてヒアリングしてみると、これまでのマーケティング施策には抜け漏れも多く、お客様を取りこぼしてしまっていたことに気づかされました。
たとえば、お客さまに伝えたいメッセージと実際のクリエイティブが食い違っていたり、お試し購入してもらったお客さまに対して適切なタイミングでリテンションのためのアクションができていなかったりと、さまざまな問題点が見えてきたんです。
また、金子さんは自身でもBIDISHを定期購入し、お客さま目線で改善したほうがいいポイントを、本当に細かいところまで伝えてくれました。そうした問題点についてチームでディスカッションしながら改善策を練り、タスクリストに積んでいきましたね。
AXL金子:
ここまでやって、水槽の穴はほぼ塞ぐことができたと思います。大塚さんの実感としてはいかがでしたか?
大塚様:
そうですね。AlphaDriveさんから提案いただき、テコ入れと並行して行ったInstagramでのインフルエンサーマーケティングが功を奏したこともあり、マーケティングの効率はローンチ時に比べて約2.4倍にまで上がりました。
AXL金子:
AlphaDriveでインフルエンサーを抱えているわけではないので、専門の別会社とタッグを組んでご支援させていただきました。こういったAlphaDriveのケイパビリティーに閉じないご支援も、プロジェクトの課題に応じて臨機応変にご提案させていただいています。
大塚様:
テコ入れが完了すればこの数字もさらに良くなるでしょうし、それができればそろそろアクセルを踏み込むタイミングなのかなと。いずれにせよ、ここからが本番かなと思います。
メンタリングを通じ、チーム全員が同じ方向を向けるように
──あらためてBIDISHチームのみなさんにお伺いしたいのですが、AlphaDriveの支援を受けて、もっとも変化したことを挙げるとしたら何でしょうか?
大塚様:
大きく2つあります。1つ目は、新規事業の考え方やプロセスをチームにインプットしてもらえたこと。
私自身は起案者ということもあり、新規事業についてある程度は学んでいましたが、途中からジョインした中野や菅野にはそのベースがありませんでした。
やはり既存事業と新規事業とではまったくやり方が異なります。私はまだうまく言語化してメンバーに伝えられるほど噛み砕けていないのですが、そこを金子さんや長田さんが代わりに担っていただけるのは本当にありがたかったです。
2つ目は、チーム全員が同じ方向を向けるようになったことです。AlphaDriveのメンタリングを通すことで私が考えていることが中野や菅野にも伝わりやすくなりましたし、一緒に顧客ヒアリングすることで、メンバー全員のコアターゲットへの理解が一致するようになりました。
何事においても全員が腹落ちした状態で進めていくことで、チームとして同じものが見えるようになったのはすごくポジティブな変化でしたね。
菅野様:
たしかに、メンタリングでは金子さんや長田さんが、大塚さんにたくさん質問をするのですが、なかには「そういえば、それ私も聞いたことなかったな」みたいな話がどんどん出てきました。
それは多分、金子さんたちが私たちチームの理解を深めるための質問を意識的にしてくれていたからだと思います。
──中野さんはいかがでしょうか?
中野様:
大塚や菅野が言うように、チームの目線や認識を揃えられたのはすごく大きかったですね。特に、顧客課題やカスタマージャーニーの言語化の部分。
3人が同じゴールに向かうためにはそこが一致していなければ話になりませんが、以前は一致していないことにも気付けていませんでした。
たとえば、商品コンセプトにあった「ご自愛」というキーワード一つとっても、人によっては「ご褒美」や「贅沢」など、受け取り方がまるで違ったりします。私たちだけでやっていたら、そのことについてあらためて三人で考え、共有することもなかったと思います。
AXL長田:
これからはいよいよ、BIDISHの事業をスケールさせていくフェーズに入ります。AlphaDriveでは引き続き伴走支援を行っていきますが、特に私たちに期待することを教えてください。
大塚様:
AlphaDriveさんには、今後も事業全体を一緒に見ていってほしいなと思います。今回、ローンチ後にテコ入れが必要になったように、われわれだけだと真っ直ぐに進んでいるつもりでも、じつは方向性がずれていることもある。
私たちが目指したい方向に正しく進んでいるかどうか、客観的かつプロの視点で厳しくチェックしながら伴走してもらえたらありがたいですね。
支援体制:リードコンサルタント / 金子祐紀、長田唯紀
取材・執筆:榎並紀行(やじろべえ)
写真:西田香織
編集:佐々木鋼平