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カーブアウトとは?定義・進め方・企業側の落とし穴まで整理する

「カーブアウト」という言葉を最近よく見かけるようになった、という方も多いのではないでしょうか。
近年、新規事業の出口戦略や、大企業からのスタートアップ創出の文脈で使われることが増えています。

本記事では、企業内新規事業におけるカーブアウトに焦点を当て、定義の整理から、進め方、陥りやすい落とし穴まで、AlphaDriveの支援現場の経験をもとに解説します。

新規事業の出口を検討する場面では、カーブアウト以外にも「スピンオフ」「スピンアウト」「MBO」 といった言葉がセットで登場することがあります。いずれも「事業や会社を切り出す・独立させる」というニュアンスを持ちながら、実際には意味合いや目的が異なります。

まずは混同されやすい新規事業開発におけるカーブアウトの定義と、関連用語を下の表で整理します。
出口戦略を検討するうえで、どの手法が自社の状況に合うかを判断する参考としてください。

表1:カーブアウト関連用語の整理

なぜ今、カーブアウトが注目されているのか?

大企業での新規事業開発の取り組みが増加する中で、「社内の組織やガバナンスのままでは事業化のスピードが出せない」「育ってきた事業をさらに伸ばすために、社内の制約から切り離す必要がある」「技術はあるが、自社の箱では事業化できない」 ——こうした事業の立ち上げ/拡大に対する課題感から、カーブアウトという選択肢が検討されるケースが増えています。

技術起点の事業開発の観点からも、同様の課題が指摘されています。国内の民間部門における研究開発投資のうち、約9割は大企業が担っています。しかし、大企業で事業化されない技術の約63%がそのまま消滅している という実態があります(内閣府「平成30年度年次経済財政報告」)。大企業が持つ技術ポテンシャルと、実際に社会に出ていく事業の数の間にある乖離を解消する手法としても、カーブアウトが注目されています。

こうした背景を受け、経済産業省は2024年4月に起業家主導型カーブアウト実践のガイダンスを公表しました。ビジネス・人事・法務・会計・知財など多岐にわたる専門家が議論した末にまとめられたもので、スタートアップ創出型カーブアウトの実践方法を体系的に整理した公式指針です。

一方で、環境整備が進みつつある今も、実務では「企業側の合理性の壁」 が依然として障害になるケースが多くあります。次のセクションで詳しく解説していきます。

誰が主導するかで、カーブアウトの進め方が変わる?

カーブアウトを検討するとき、まず確認したいのは「誰が主導するか」 という点です。「起業家主導型カーブアウト実践のガイダンス」では、これを「起業家主導型」と「事業会社主導型」 の2種類に分類しています。主導者が変わると、進め方・注意点・落としどころがほぼ別物になるため、この区別は実務上も重要です。

表2:起業家主導型と事業会社主導型の比較
項目 起業家主導型 事業会社主導型
主導者 社内外の起業家 経営層・事業部門
起点 「自社組織の限界により事業化できない技術」を外に出す 選択と集中、グロース加速、技術シーズのスタートアップ化など
資金調達 VCからの外部調達が前提 自社出資+外部調達(ケースによる)
主な注意点 知財・出資比率・競業避止義務の条件設定が成否を分ける 「買い戻し前提」の設計がVCの資金調達を阻害しやすい

起業家主導型カーブアウト

「社内外の起業家が発意し、プロセスとその後の経営を主導する 形態です。
このタイプのコアにある考え方は、「対象となる技術は、事業化できたのにそうしないものではなく、そもそも自社組織の限界により事業化できないものだ」という認識です。この前提に立てば、起業家やVCへの技術提供は「社員への利益供与」ではなく、組織の限界を超えるための合理的な選択として整理できます。

事業会社主導型カーブアウト

企業側の経営戦略として、トップダウンで切り出しを決める 形態です。ノンコア事業の選択と集中、育った新規事業のグロース加速、社内で扱いきれない技術シーズのスタートアップ化など、動機はさまざまです。

実際には「起案は起業家、制度・スキーム設計は企業」というハイブリッドのケースが多く、2つの主体の条件をすり合わせていくプロセスが実務の常態です。

カーブアウトの議論をするとき、もう一つ最初に確認しておきたい軸があります。「何を」「何のために」外に出すのか 、という点です。対象と目的によって、スキームの設計も関係者間の合意形成の進め方も変わってきます。
対象で見ると、大きく2つに分かれます。一つは、R&Dの成果として技術はあるが自社の事業としてはまだ立ち上がっていない「未事業化の技術シーズ」です。もう一つは、社内でサービス提供を開始するあたりのフェーズまで育成してきたが、さまざまな事情で自社による追加投資が難しくなった「ある程度立ち上がった事業」です。前者は起業家主導型のカーブアウトと親和性が高く、後者は事業会社主導型で検討されることが多いです。

カーブアウトの目的も複数あげられます。代表的なのは以下の4つです。

  • 技術シーズのスタートアップ化:自社の組織OSでは事業化できない技術を、独立したスタートアップとして世に出す
  • 選択と集中:ノンコア事業を切り離し、経営リソースを主力事業に集約する
  • 育った事業のグロース加速:社内の制約(ガバナンス・意思決定スピード等)がボトルネックになっている事業を外に出し、成長速度を上げる
  • 社内で扱いきれない事業の存続確保:自社での継続投資は難しいが、事業としての価値はある。外部の資金と経営体制に委ねることで事業を存続させる

「何を外に出すのか」「それは何のためか」を最初に言語化しておくことが、その後の主体選定・スキーム設計・社内調整の精度を大きく左右します。

起業家主導型カーブアウトはどう進めるか?

前のセクションで触れたように、起業家主導型カーブアウトは特に「R&Dの成果として技術はあるが、自社の事業としてはまだ立ち上がっていない」段階での活用と親和性が高い手法です。社内の組織OSや意思決定の仕組みのままでは事業化できないからこそ外に出す——このタイプのカーブアウトをどう進めるか、実務上の要点を整理します。

大前提となる基本思想
起業家主導型カーブアウトを進める上で、最初に関係者全員で共有しておくべき認識があります。カーブアウトの対象となる事業は、「事業化できたのにそうしないもの」ではなく、「自社組織の限界により事業化できないもの」 だという認識です。

この前提がすべての出発点になります。自社の組織OS(組織風土・カルチャー・意思決定の仕組み)では立ち上げできないからこそ外に出す、という認識に関係者全員が立てているかどうかが、その後のスキーム設計の精度を左右します。

あわせて押さえておきたいのが、「外に出す前に、顧客と課題の仮説検証がどこまで進んでいるか」 という点です。カーブアウトの起点が技術シーズであれ、社内で育ててきた事業であれ、「誰の・どんな課題を・どのように解決するか」が言語化されていない段階でスタートアップを設立しても、事業としての立ち上がりに時間がかかり、資金が先に尽きるリスクがあります。特に技術起点の場合、「この技術で何ができるか」という発想から出発しがちですが、技術の優位性と事業としての成立は別の話です。カーブアウトに踏み出す前に、顧客仮説の検証がどの程度進んでいるかを確認しておくことが重要 です。

この認識が共有されていないと、カーブアウトのプロセスが進む中で「やはり社内で事業化できるのでは」という議論が再燃し、条件設定や出資比率の交渉がすべてズレていきます。

カーブアウトにおいては、Venture Financeableであることが前提条件
起業家主導型カーブアウトで創出される事業体はスタートアップです。VCから資金を調達して急速な事業成長を目指すことが前提になるため、「Venture Financeable(ベンチャーファイナンスが成立する状態)」であることが出発点の条件になります。

Venture Financeableであるための要件は3つです。

  • 経営者が時間的リスクを取っていること:スタートアップの経営にフルコミットしていること。元の事業会社が引き続き労務提供を求めたり給与を支払い続けるような形は、この要件を満たしません
  • 第三者からの資金調達が可能な資本構成・出資条件であること:創業段階で元の事業会社が過半数以上を出資したり、経営への拒否権など強すぎる条件を付けると、その後のVC資金調達が難しくなります
  • イグジットを見据えた資本政策が構築されていること:IPOやM&AによるExitを前提とした資本政策が、最初から設計されていること

この3要件を満たした状態で出発できるかどうかが、その後の資金調達と事業成長の分岐点になります。では、実際のプロセスはどのように進んでいくのでしょうか。

進め方の4ステップ

ステップ 内容
①シーズ形成・探索 カーブアウトの対象となりうる技術シーズの発見と形成です。どのような技術をカーブアウトの対象とするかを事前に整理しておくことが、その後のプロセスをスムーズにします。社内の新規事業創出プログラムやVCとの連携を通じて有望なシーズを探索していく段階です。
②事業計画の検討・策定 起業家が技術シーズをもとに事業計画を検討・策定します。ニーズの有無の検証、開発・事業仮説の形成と検証を経て、事業計画を形にしていきます。この段階でVCやコンサルティング会社の外部視点を入れることが、マーケット目線での事業計画策定につながります。
③ストラクチャー選定 カーブアウトのストラクチャーには主に2種類あります。
「直接創出型」は、起業家がそのまま退職してスタートアップを設立し、VCや元の事業会社から資金・知財の提供を受けるシンプルな形です。
「準備期間確保型」は、コンサルティング会社等の活用を通じていったん仮想的な子会社を設立し、事業開発の進捗に応じてスタートアップ化するフローです。起業家が経営経験を積む準備期間を確保できるため、特に社内での起業経験が少ない場合に有効です。
④スタートアップ創出 人事・知財・資本政策・ガバナンスなど各種論点の社内外調整を経て、スタートアップを設立します。この段階での論点の整理と合意形成が、その後の事業成長の条件を大きく左右します。
このスタートアップ創出の調整局面で特に重要になる論点を、以下に整理します。

主要な調整ポイント

出資比率:少なくともシリーズAまでにスタートアップ創業者の持ち分比率が70%を下回らないよう資本構成を守ることが実務上の目安です。元の事業会社の出資は、その後のVC資金調達を阻害しない範囲に抑えることが前提で、20%以下が一つの目安になりつつあります。

知財の提供:知財は譲渡または排他的ライセンスが一般的です。ライセンス料はスタートアップのキャッシュフローを圧迫しない水準に設定することが重要で、高いライセンス料を求めるほどVCからの投資が集まりにくくなり、結果として元の事業会社のリターン期待値も下がります。

競業避止義務:自社で事業化できない技術を対象にしているため、過度な競業避止義務を課すことは適切ではありません。必要最低限の範囲にとどめることが原則です。

エンゲージメント:カーブアウト後も元の事業会社から人材・設備・実証場所の提供など必要な経営資源のサポートを継続することが、スタートアップの事業成長速度を上げることにつながります。

ポイントを押さえた上でも、実際に進める際には会社側の判断が起業家主導型カーブアウトの成否を左右する場面が繰り返し出てきます。典型的なつまずきを4つ取り上げます。

カーブアウトを送り出す企業側が陥りやすい4つの失敗パターン

パターン 概要
価値評価の主客転倒 VCのバリュエーションがついた途端に、「やはり自社で事業化できるのでは」という議論が社内で再燃するパターンです。「自社では事業化できない」という出発点が忘れられ、知財の高額評価や出資条件の強化が起きます。カーブアウトに関わる関係者全員が基本思想を共有しておかないと、このつまずきは繰り返されます。
制度不在による「担当者任せ」 カーブアウトのプロセスに関する社内制度やテンプレートが整備されていないため、案件ごとに一から社内調整を行う構造になってしまうパターンです。持ち株比率・資本金・知財の扱い・メンバーの処遇など、毎回同じような論点が発生するにもかかわらず、それぞれの担当者がゼロから交渉することになります。制度化・テンプレート化が再現性の鍵です。
公平性・コンプライアンスの論理でインセンティブを削る 「社員が成功した場合のアップサイドを制限すべき」という社内の公平性論理が、起業家のインセンティブを構造的に破壊するパターンです。スタートアップ経営はリスクをとって挑戦するからこそ、その成功時のリターンが設計されなければ成立しません。エクイティからのリターンを制限する条件は、起業家の参加意欲を根本から損ないます。
コントロールしたくなり、独立性を奪ってしまう カーブアウト後も経営に介入しようとするパターンです。出資している株主として特定の事業方針を誘導したり、意思決定への拒否権を行使したりすることで、スタートアップとしての機動力が失われます。「自社では事業化できない技術」を外に出した以上、その経営はスタートアップに委ねることが、事業成長と元の事業会社へのリターンの両方につながります。

以上が、起業家主導型カーブアウトを進める上で押さえておきたいポイントです。続いて、「事業会社主導型カーブアウト」の場合の進め方と直面しやすい難しさを整理します。

事業会社主導型カーブアウトの進め方と起こりがちなジレンマ

事業会社主導型カーブアウトは「社内でSEED期以降まで育成してきたが、さまざまな事情で自社による追加投資が難しくなった事業」や、「社内の制約のままではこれ以上グロースできない事業」を対象に、企業側が主導して切り出しを決める形態です。こちらの手法が検討される典型的なパターンは以下に記載する3つです。

事業会社主導型で検討される典型パターン

表3:企業主導型カーブアウトが検討される典型パターン
パターン 概要
選択と集中 経営資源を主力事業に集約するため、ノンコア事業を切り離す判断。「ノンコアである」と判断できる段階まで育った事業が対象になるため、社内での追加投資が難しくなった段階で初めて検討のテーブルに載ることが多い
技術戦略 自社の研究開発成果として技術は保有しているが、自社組織では事業化のスピードや規模が出せないと判断したケース。スタートアップ化することで外部資金を呼び込み、技術の社会実装を加速させる狙い
育った新規事業のグロース加速 社内の制度・ガバナンスのもとでは意思決定のスピードが出せず、事業のグロースが頭打ちになっている。一度外に出すことで、スタートアップとしての機動力を取り戻すパターン

事業会社主導型カーブアウトの一般的な進め方

事業会社主導型の場合、プロセスは概ね以下のフェーズをたどります。

表4:企業主導型カーブアウトの進め方フェーズ
フェーズ 内容
①事業性・自立可能性の評価 切り出す事業が独立した事業体として成立するか、外部資金を調達できるか、単独でキャッシュフローを持てる見込みがあるかを検証する。ここでの見立てが甘いと、後のスキーム設計がすべてズレる
②スキーム設計 会社分割や事業譲渡など、法的な切り出し方の選択が必要になる。どのスキームを選ぶかは、税務・会計処理・既存事業との関係性・従業員の処遇などによって変わるため、専門家を交えた設計が必要
③会計情報の整理・DD対応・契約設計 切り出す事業の財務情報を独立したものとして整理し、外部投資家からのデューデリジェンス(事業精査)に対応できる状態にする。この段階で初めて、資本政策や知財の取り扱いなど細かな条件の交渉が始まる

この段階まで進んで初めて、資本政策や知財の取り扱いなど細かな条件の交渉が始まります。

ただし、実務ではこのフェーズに入る前段階、つまり社内での意思決定の場面で検討が止まってしまうケースが少なくありません。

なぜ事業会社主導型カーブアウトの検討は前に進みづらいのか

社内で意思決定を進めると、多くの場合に議論が停滞する論点があります。それが「買い戻し」の議論です。

買い戻し前提の設計は、VCの資金調達を阻害します。買い戻し金額を可能な限り抑えたい企業側の意図と、Exit時にキャピタルゲインを最大化したいVCとで、考え方が正面から衝突するからです。企業側からすれば、もともと自社が育てた事業を取り戻すのだから価格は抑えたい。一方VCは、スタートアップの企業価値が上がるほど高いリターンを得ることが前提で投資しています。買い戻し価格が事前に定まっていると、スタートアップがどれだけ成長しても上限が生じてしまい、ハイリターンを前提とするVC投資の構造と根本的に合いません。

では買い戻しを前提にせず、出資比率を低く抑えてVCを入れればよいか——そこにも別のジレンマが生じます。スタートアップとして外部資金を調達するためには元の事業会社の出資比率を低く抑える必要がありますが、比率を下げるほど経営への関与力も失います。実務上は20%以下が一つの目安とされていますが、過半数を持てば独立したスタートアップとして機能しなくなる一方で、少数出資に抑えれば後から買い戻すことも難しくなります。

この結果として、「戻す前提」でも「完全に切る前提」でもない中途半端な設計 のまま外に出してしまい、身動きの取れない関連会社を長期間抱えるという事態 が起きます。外に出す前に「いつ・どういう状態だったら買い戻すか、または段階的に売却してゼロにするか、あるいはマイナー保有を継続するとすればなぜか」を契約書で握っておく ことが、この事態を防ぐための実務上の鉄則です。

それでも事業会社主導型が意味を持つケース

構造的な難しさを抱えながらも、企業主導型カーブアウトが有効に機能するケースは存在します。

経営陣が本気で機会提供する意思を持っている場合:役員が自らのコミットとして推進し、社内調整を引き受ける場合、前述のジレンマを力で突破できることがあります。

自社周辺にスタートアップ・エコシステムを育てる戦略的意図がある場合:単一の事業の経済合理を超えて、自社発のスタートアップが増えることで形成されるエコシステム——人材の還流、技術シナジー、レピュテーションの向上——を中長期のリターンとして設計しているケースです。起業家主導型カーブアウト実践のガイダンスでは「眠る知財の拠出によるファンドポートフォリオ単位での経済的利益の創出」として整理されており、単発ではなく複数のスタートアップを連続的に創出していくことで初めて機能する設計です。

企業ブランド・レピュテーション・人材モチベーションへの波及効果を狙える場合:「自社発のスタートアップを生み出せる組織である」という評判は、優秀な人材の採用や既存社員のモチベーションに波及します。事業単体の収益計算には現れない価値ですが、中長期の経営資産として見れば意味のある投資になりえます。

カーブアウトの落とし所は、「社会・事業・その顧客のため」に向き合うと見えてくる

カーブアウトは”合理的な出口”より”個別的な着地”であることが多い

知財の提供条件や出資比率の判断基準を社内で整理し、スキームとして定められていても、実際の交渉に入ると、その通りに進まない局面が必ず出てきます。事業のビジネスモデルの特性、知財の権利関係、起業家のキャリア事情、事業会社側の株主構成や内部事情——こうした条件の組み合わせは案件ごとに異なり、同じ判断基準でも適用の仕方が変わってきます。

だからこそ、「主体は誰か」「対象は何か」「目的は何か」 を最初に整理しておくことが効いてきます。これらが曖昧なまま交渉に入ると、関係者がそれぞれ別の前提で議論することになり、条件のすり合わせに余計な時間がかかります。カーブアウトの設計精度は、この上流の整理の質に大きく左右されます。

経済合理だけでは組み立てられないが、事業と顧客への責任は組み立てられる

経済合理の議論だけでは、上記のような構造的ジレンマに阻まれ、前に進めなくなることが多々あります。そんなとき、もう一つの軸を持つことが有効です。
それは「その事業が、どの顧客の、どんな課題を解決するために存在しているのか」 という問いです。

カーブアウトに関わる関係者——事業会社・起業家・VC——はそれぞれ異なる利害を持っています。それでも、「この条件は事業の成長速度を上げるか、下げるか」という問いは、三者が共通の判断基準として使いやすいものです。知財の条件設定であれ、出資比率の交渉であれ、この軸に立ち返ることで、各自の主張の根拠が整理されやすくなります。

あわせて有効なのが、判断基準を多面的に持つことです。起案者の当事者意識の強さ、既存事業への技術的な波及可能性、社会実装の緊急性、技術が埋もれることの機会損失—— これらを並べて議論のテーブルに載せることで、関係者が「では何を優先するか」を話せる状態になります。カーブアウトが「関係者が合意できる着地点」を探す営みである以上、この多面的な判断軸を意識的に持つことが、プロセスを前に進める力になります。

カーブアウトの実践事例

ここでは、AlphaDriveが実際にご支援した事例も含め、自社の組織やスピード感に課題を抱え、社外に切り出す選択をした事例を3つ紹介します。いずれも、自社の組織やスピード感では事業立ち上げが難しいと判断したうえで、カーブアウトを最適解として選択している点が共通しています。

三菱マテリアル株式会社:社内新規事業初のカーブアウト「デンタルドア株式会社」設立
以下、ご支援事例記事より抜粋。全文はこちらから

大手非鉄金属メーカーの三菱マテリアル株式会社は、2023年7月に新規事業創出を加速させるため、デンタルドア株式会社を設立しました。

(三菱マテリアル 長友様)「最終的に事業として形にするための会社全体の仕組みが不十分で、なかなか事業化に結びつかないという課題があったからです。(中略)アイデアの創出から事業化までの仕組みがないと、研究成果を社会実装することは難しいと強く感じていました。」

(AlphaDrive 金子)「『大企業からカーブアウト』と言葉にすると簡単なように聞こえますが、実際は専門的で細かな社内調整が次々と出てきます。(中略)会社を設立する場合、持ち株比率をどうするのか、資本金をいくらに設定するのか、メンバーの待遇はどうするのか(出向させるのか)、資産や設備を持ち出してよいのかなど、様々な検討事項があり、起案者側は経営層が納得する計画を練る必要があります。」

(デンタルドア 國友様)「アイデア自体はマネジメントガイドラインが公表される前から練っていたのですが、事業化するには何をどうすれば良いのか整理ができたことは大きかったです。会社として何をゲートに設定しているのか可視化されたことで、やるべきことが明確になったと思います。」

(三菱マテリアル 長友様)「一つの会社をカーブアウトできたことは非常に大きな成果です。これを多くの社員に知ってもらうことで、組織風土の変革や経営的な視点の調整といった波及効果も期待しています。」

株式会社NTTドコモ:仮想出島スキームによる事業グロース支援とスピンアウト実現
以下、ご支援事例記事より抜粋。全文はこちらから

中学生や高校生のキャリア教育サービス「はたらく部」は2022年5月にローンチ。(中略)NTTドコモとAlphaDriveの2社間で業務提携を結び「仮想出島」を構築。さまざまな施策を柔軟かつスピーディーに行っています。その後、VCからの資金調達に成功し、会社化を実現。(株式会社RePlayceとして事業拡大中)

(NTTドコモ 山本様)「目的は、柔軟かつスピーディーに事業をグロースさせていくことです。NTTドコモは通信インフラという社会的責任の大きなサービスを提供しているため、たとえ新規事業であっても既存事業と変わらない最高レベルのガバナンスが求められます。(中略)「出島」という形で一度NTTドコモの外に出ることで、大企業のガバナンスから解放され、新規事業に適した環境で活動できるようになりました。」

東レ初のスピンオフベンチャー「MOONRAKERS TECHNOLOGIES」

本件は厳密にはスピンオフの事例ですが、「なぜ社内ではなく外に出す選択をしたか」という観点でカーブアウトと共通する示唆を持つ事例として紹介します。

同社は東レ初のスピンオフベンチャーとして注目を集めています。東レ在籍中に複数の新規事業を成功させてきた西田氏が3度目の挑戦として構想したのがMOONRAKERS TECHNOLOGIESです。長く続いたデフレでアパレル業界が価格重視の姿勢を強める中、最新の先端素材の需要は激減。「日本の技術と素材がこのまま埋もれてしまっていいのか」という問題意識から事業を立ち上げました。

スピンオフを選んだ最大の理由は「スピード」です。「ピーク時には月20本の稟議書を書いていました。一番早いもので2週間、遅いものは経営会議にかかって半年もかかる。その間、事業は停滞してしまいます」と西田氏は振り返ります。こうした背景から東レ経営陣との話し合いを経てスピンオフを決断。経済産業省が推進する出向起業制度も活用しています。

まとめ

ここまで、カーブアウトの定義・主体別の進め方・企業側が直面する構造的な難しさ・落としどころの探し方を整理してきました。最後に、記事全体を通じて伝えたかったメッセージを3点にまとめます。

定義や事例に振り回されないこと
カーブアウト・スピンオフ・スピンアウト——これらの言葉は業界によって意味が異なります。定義の議論に入る前に、「何を」「誰が主導して」「何のために」外に出すのかを整理することが、その後の議論の精度を左右します。本記事でのカーブアウトの定義はあくまで一つの立場であり、実務では相手との定義合わせから始めることになります。

個別性が高く、慎重な設計が必要
カーブアウトはケースごとに事情が大きく異なり、関係者の思いや固有の条件が複雑に絡み合います。外に出す前に「買い戻しのトリガーと条件」「売却のシナリオ」「マイナー保有を継続する場合の根拠」を契約書に落としておくことが実務上の前提です。設計を省いたまま進めると、身動きの取れない関連会社を長期間抱えることになります。個別性が高い手法だからこそ、設計に時間と専門知識を投じることの意味は大きいです。

それでも、企業にとって出口戦略のバリエーションを持つことは重要
バーチャル出島・子会社設立・カーブアウト・出向起業——新規事業を外に出す手法は複数あります。社内で育ってきた新規事業が自社の組織やスピード感の限界にぶつかったとき、選択肢があれば「外に出す」という判断ができます。選択肢を知らなければ、せっかく生まれたイノベーションのタネを社内で行き場なく持ち続けることになりかねません。

AlphaDriveでは、新規事業のカーブアウトを含む出口戦略の設計から、スキーム構築・社内調整まで一気通貫でご支援しています。ご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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参考情報

  • 経済産業省「起業家主導型カーブアウト実践のガイダンス」(令和6年4月)
  • 経済産業省「スピンオフの活用に関する手引(制度編)」(2025年)
  • 『新規事業の経営論』(2025年 東洋経済新報社:麻生要一著)

AlphaDriveは、企業の新規事業創出を仕組みづくりから立ち上げまで、一気通貫で支援しています。
事業創出のインキュベーションから事業立ち上げ後のアクセラレーション、オープンイノベーション、R&D 組織での新規事業開発まで。これまでに 約300 社を支援し、23,800 件の事業アイデアを創出、250 件の事業化・会社化を実現してきました。事業開発に対する伴走だけでなく、プロダクト開発、マーケティング、セールスなど各領域での実務支援を通じて、事業化後のフェーズを成功に導くご支援を行っています。

よくある質問

  • カーブアウトは「事業の一部を切り出し、外部資金を調達できる独立体を創出すること」の総称です。スピンオフは子会社の株式を既存株主に分配する特定の手続きを指すことが多く、法令上も整備された概念です。

    M&A仲介業界ではスピンオフをカーブアウトの一形態として説明することもありますが、金融実務や法令の文脈では別の概念として扱われます。

  • 起業家主導型カーブアウト実践のガイダンスでは、少なくともシリーズAまでにスタートアップ創業者の持ち分比率が70%を下回らないよう資本構成を守ることが示されています。

    「その後の外部資金調達を阻害しない比率」を守ることが、次のVCからの資金調達を可能にする条件になります。

  • 一般的には譲渡または排他的ライセンスが用いられます。VCからの資金調達を視野に入れると、スタートアップが知財を保有していることが望ましいとされるため、譲渡が選ばれるケースも多いです。

    ライセンスの場合もロイヤリティ料率が高すぎるとスタートアップの成功率が下がり、結果的に事業会社のリターンも下がります。

  • VCはファンド満期までにIPOやM&AによるExitを実現する必要があります。買い戻し条件が契約に組み込まれているとそのExitシナリオが成立しないため、VCは投資を避ける傾向があります。

    起業家主導型カーブアウト実践のガイダンスもこの点を誤解として整理しており、「買い戻し前提」を明示的に契約に組み込むスキームはカーブアウトの趣旨と合いません。

監修者について

古川 央士

株式会社アルファドライブ 取締役 兼 グループ執行役員COO 株式会社ユニッジ 取締役

青山学院大学卒。学生時代にベンチャーを創業経営。その後、株式会社リクルートに新卒入社。SUUMOでUI/UX組織の立ち上げや、開発プロジェクトを指揮。その後ヘッドクオーターで新規事業開発室のGMとして、複数の新規事業プロジェクトを統括。パラレルキャリアとして、2013年に株式会社ノックダイスを創業。飲食店やコミュニティースペースを複数店舗運営。一般社団法人の理事などを兼任。社内新規事業や社外での起業・経営経験を元に、2018年11月、株式会社アルファドライブ執行役員に就任。リクルート時代に1000件以上の新規事業プランに関わり、10件以上の新規事業プロジェクトの統括・育成を実施。株式会社アルファドライブ入社後も数十社の大企業の新規事業創出シーン、数千件の新規事業プランに関わる。2023年より株式会社アルファドライブ取締役兼COO。