社内公募制度を導入したのに、事業が生まれない。そんな状況を経営会議で指摘された経験はないでしょうか。
年々応募者が減り、取り組みの成果も生まれていない……などと、課題を感じている事務局担当者は少なくありません。
社内公募制度が形骸化してしまう要因の一つに、募集やコンテストの開催そのものが目的になってしまうことが挙げられます。
本記事では、制度の形骸化が起きる原因と、事業創出につながる制度設計の核心を解説。評価基準・落選者フォロー・WILL(意志)の引き出し方という3つの論点を中心に、AlphaDriveが数多くの企業をご支援してきた実績をもとに具体的な打ち手をお伝えします。
社内公募は、新規事業を生む仕組みの出発点

企業が新規事業開発に取り組む手法には、CVC、M&A、オープンイノベーション、社内公募制度など、さまざまな選択肢があります。その中でも 社内公募制度は、組織内の社員から新規事業のアイデアを募集し、審査を経て事業化を目指す仕組みとして、多くの企業で導入が進んでいます。
しかし、制度を導入しただけでは、新規事業は生まれません。応募者が事業開発の進め方がわからず手が止まってしまったり、そもそもアイデアが浮かばず応募に至らなかったりと、制度が形骸化してしまうケースは少なくありません。
社内公募制度の本来の目的は「事業を生み出すこと」です。この目的を実現するには、応募から人材育成、事業化に至る一連のプロセスを継続的に機能させる仕組みが必要です。
社内公募制度の設計は、社員が積極的に取り組みたくなる仕組みにすることが重要です。挑戦した社員が「手を挙げてよかった」と思える制度設計を先に行うことで、組織の空気が変わる可能性があります。
社内公募制度が空洞化する構造
社内公募制度が形骸化を引き起こす要因は、応募数の減少や公募の目的が共有されていないことにあります。
この章では、AlphaDriveが行った企業のご支援経験を基に、社内公募制度が空洞化する構造を解説します。
社内公募制度の形骸化を引き起こす要因
社内公募制度が形骸化するサインは、応募数の減少や熱量の低下です。また、制度の運用体制が曖昧なまま放置されていることも影響します。制度が十分に整備しきれていないまま運営が続くと、公募の活動自体が下火になっていきます。また、評価基準が曖昧なままだと、推進者は「どのレベルまで持っていけば次のフェーズに進めるのか」がわからず、評価する側もGo/No Goの判断がしづらくなってしまいます。
さらに、「公募の目的とは何か」という明確な定義が社内で共有されていないことも、大きな課題です。既存事業の延長線上にあるアイデアなのか、全く新しい顧客課題に挑むものなのか。その定義が曖昧なまま審査を進めると、推進者は「何を目指せばいいのか」がわからず、審査員も「何を評価すればいいのか」が定まりません。
結果として、制度への信頼が失われ毎年開催される「社内イベント」へと変質します。参加者は「参加しても努力が報われないプログラム」として捉え、熱量が維持されないまま応募数が減少していきます。
形骸化する制度に共通するパターン

AlphaDriveの様々なご支援経験から、「3年以内に制度が形骸化する」ケースにおいては、企業様が直面していた課題に共通項があると考えています。
第一のパターンは、 採択後のプロセスが設計されていないことです。書類審査・プレゼン審査まで丁寧に設計されているのに、採択後に推進者が急に大海原に放り出され、全ての社内調整や予算獲得・リソース調整等を自分でやらねばならず、事業開発に集中できない状態に陥ります。採択後の事業開発の初期フェーズにこそ、手厚い伴走支援が必要なのに、その設計がない。このままでは、実際に事業を立ち上げることが難しくなります。
第二のパターンは、 審査に通過しなかった際のフォローがないことです。例えば、応募した100名のうち採択されるのはわずか数名。残り90名ほどの社員が「落選」という結果のみを受け取る形になります。適切なフィードバックがなければ、「次回も手を挙げよう」という動機は生まれません。落選者こそが次世代の推進者候補です。2回目、3回目で採択されるケースも少なくないので、リピートしてもらえる制度であることが重要です。
推進者の熱量は好転的に育てることもできる
推進者の熱量は、顧客ヒアリングを通して育っていきます。この章では、顧客ヒアリングや事業開発人材が育つ環境の作り方について解説します。
顧客ヒアリングが動機を本物にする
公募制度は一般的に、「主体性・熱意のある人材を集める」ことを前提として設計されます。
一方でAlphaDriveでは、初期段階では市場性など、アイデアの「質」ではなく、推進者の「WILL」を重視します。「なぜこの人がその事業をやりたいのか」を重視して審査を通すかどうかを判断します。
動機を本物に変えるきっかけとなるのは、顧客の現場に足を運び、課題の当事者と向き合う経験です。「そういうサービスがあれば使いたい」という意見では本当の課題かどうか判断できません。 推進者が顧客と向き合い、顧客が実際に自分のお金や時間を使おうとしている場面に立ち合ったとき、初めて本当の課題として認識できるようになります。この当事者意識を持った顧客の声が推進者のWILLを育てます。
例えば、書類審査の後にすべての推進者がメンタリングを受け、顧客のもとへ何度も足を運ぶようなケースもあります。最終審査に立った推進者が顧客の言葉を自分の言葉で話せたのは、現場に出向き実際に顧客と向き合った経験が土台にあったからです。

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事業開発人材が育つ環境の作り方
WILLが育つプロセスを制度の中に組み込むには、応募要件を「完成されたアイデア」にしないことが重要です。エントリーシートや起案書だけで良質な事業を見極めることは難しく、そもそも少し走らせる前に絞り込むのは事業を生み出す確率を下げます。多くの種を小さく速く検証する「多産多死」のアプローチが、ボトムアップで新規事業に取り組む際の定石となります。
また、事業検証中の期間にメンタリングを提供することもポイントです。審査の前にメンタリングの機会を設け、推進者が想定顧客に会いながらアイデアをブラッシュアップできる時間を確保しましょう。このプロセス自体が、WILLの醸成とスキル習得を同時に実現します。
事業創出につながる制度設計のポイント
社内公募制度を機能させるには、評価基準を始めとする各要素の方向性を一貫させる必要があります。
ここでは、3つのポイントを解説します。
エントリーの応募数を増やすための施策を行う
社内公募の応募者を増やすには、さまざまな施策が必要ですが、ここでは特に効果的な4つの施策について紹介します。
応募要件の見直しを行う
新規事業の初期段階において詳細な事業計画書の提出は必要ありません。顧客課題の仮説が固まっていない段階で細かな計画を求めてしまうと、推進者に余計な負担をかけることになるからです。
応募要件を「顧客課題の仮説」「なぜあなたがやるのか」といった初期段階で必要な項目に絞りましょう。これにより、完成度の高い企画書を求めることで生じていた心理的ハードルを下げ、より多くの社員が手を挙げやすい制度に変えることができます。
社内公募制度について認知を広げる
社内における制度の認知を広げるための施策も不可欠です。 経営層からの発信はもちろん、説明会の開催などを通して制度の存在を知ってもらえるとともに、会社の本気度を伝えられます。
インセンティブを設計する
応募の入り口を広げるには、多様なインセンティブを設計することも重要です。「質の良い案だけを集めたい」という意見はよく聞かれますが、初期段階で質を見極めることは困難です。 むしろ「できるだけ多くの推進者にチャンスを与え、実際に走らせてみる」ことが有効です。
インセンティブの対象は「すべての従業員」とすることが理想です。どの部署・部門に社内起業家の原石が眠っているかは事前に判断できないためです。具体的なインセンティブは、本質的なもの(ヒト・モノ・カネの提供)、成長欲求に応えるもの(役員からのフィードバック)、間口を広げるもの(賞金・賞品)、承認欲求に働くもの(社内報掲載)の4つに大別されます。
インセンティブ設計の際は、実際に従業員に「新規事業に興味はありますか?」と問いかけ、興味のある層・ない層それぞれに理由を聞くことで、制度に求められている要素が明らかになります。
応募を促すためのコンテンツを用意する
応募を促すために多くのコンテンツを用意することも有効です。 例えば、事務局メンバーが「オンライン相談会」を開催し、毎週金曜に1人15分程度の相談を3〜4時間実施したケースもあります。応募を検討している社員の疑問や懸念を丁寧に受け止めることで、リアルな声を把握でき、制度の改善にもつながります。
セミナーや個別相談会といった多角的なアプローチを採用することで、社員に浸透しやすい環境を整えることができます。
納得感のある審査がされる評価基準を設定する
制度の設計者が「何を評価するか」を決めることが、推進者の行動を決定づけます。評価基準、推進者に「どう動けばいいか」を示すシグナルです。例えば、新規事業における詳細な事業計画書の作成を求めれば、推進者は事業計画書の完成に全力を注ぎます。一方、「顧客に会った回数と気づき」を求めれば、推進者はフィールドに出ます。
AlphaDriveでは、事業案の完成度ではなく、「顧客課題への解像度」と「推進者の熱意」を評価の中心に置いています。新規事業の初期段階では、「顧客が本当に困っていることを、どれだけ深く理解しているか」が重要です。
熱意については、書類だけでは判断しきれないケースもあるため、必要に応じて面談を実施します。 「なぜこの課題に取り組みたいのか」「顧客との対話を通じて何を感じたのか」といった推進者本人の言葉から、事業への本気度を確認します。
このような評価軸により、「事業計画書の見栄えは良いが、顧客と向き合っていない推進者」を通過させず、「顧客課題を深く理解し、解決への強い意志を持つ推進者」を採択できるようになります。
落選者フォローを制度化する
審査に通過しなかった人には、事務局へのジョインや別の形での参加機会を用意することが有効です。
実際に、落選した社員が後に事務局メンバーとして参加し、制度の運営をより良くする存在へと変わったケースもあります。「応募者の不安に寄り添えるようになる」という副次効果も生まれています。
ここまでの3つの要素は個別に機能するわけではありません。WILL(推進者の動機)・仕組み(制度設計)・文化(挑戦を前向きに捉える風土)の3つが連動して初めて、制度が事業創出装置として機能します。事業案を排出し、そこからしっかり事業が育っているという実績が作れてこそ、公募の取り組みが社内で評価されることになります。
制度設計の全体像については、こちらの記事をご覧ください。

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新規事業立ち上げの進め方|事業の種を生む手法と7つのステージ
AlphaDriveは、企業の新規事業創出を仕組みづくりから立ち上げまで、一気通貫で支援しています。
事業創出のインキュベーションから事業立ち上げ後のアクセラレーション、オープンイノベーション、R&D 組織での新規事業開発まで。これまでに 約300 社を支援し、23,800 件の事業アイデアを創出、250 件の事業化・会社化を実現してきました。事業開発に対する伴走だけでなく、プロダクト開発、マーケティング、セールスなど各領域での実務支援を通じて、事業化後のフェーズを成功に導くご支援を行っています。
監修者について
古川 央士
株式会社アルファドライブ 取締役 兼 グループ執行役員COO 株式会社ユニッジ 取締役
青山学院大学卒。学生時代にベンチャーを創業経営。その後、株式会社リクルートに新卒入社。SUUMOでUI/UX組織の立ち上げや、開発プロジェクトを指揮。その後ヘッドクオーターで新規事業開発室のGMとして、複数の新規事業プロジェクトを統括。パラレルキャリアとして、2013年に株式会社ノックダイスを創業。飲食店やコミュニティースペースを複数店舗運営。一般社団法人の理事などを兼任。社内新規事業や社外での起業・経営経験を元に、2018年11月、株式会社アルファドライブ執行役員に就任。リクルート時代に1000件以上の新規事業プランに関わり、10件以上の新規事業プロジェクトの統括・育成を実施。株式会社アルファドライブ入社後も数十社の大企業の新規事業創出シーン、数千件の新規事業プランに関わる。2023年より株式会社アルファドライブ取締役兼COO。