Knowledge (ナレッジ記事)

イノベーションマネジメントとは?大企業が再現性のある仕組みを作るために

イノベーションマネジメントとは?大企業が再現性のある仕組みを作るために

「新規事業の制度はつくったが、通過した案件がその後に育たない」「企業変革を任されたが、どこから手をつければいいかわからない」。このような企業では、イノベーションにおける「明確な目標設定」や「仕組みづくり」が整っていない可能性があります。

本記事では、イノベーションマネジメントとは何か、また企業でイノベーションが止まる構造的な原因、再現性のある仕組みをどう設計・運用していくかについて解説します。

イノベーションマネジメントとはなにか?

AlphaDriveが考えるイノベーションマネジメントとは、スタートアップの世界で機能している「エコシステム」を、企業の内部に設計・実装し、継続的に運用していくことです。新規事業が生まれ続け、経営にインパクトをもたらす規模まで育つ仕組みをつくること、それがイノベーションマネジメントの本質です。新規事業やイノベーションは世界的に進化しており、ISO56001(イノベーションマネジメントシステムに関する国際認証規格)も発行されています。

「大新規事業時代」と呼ばれる昨今において、中期経営計画で新規事業開発やイノベーション創出について言及していない企業は見かけないほどになりました。中期経営計画で掲げられた新規事業創出の取り組みを実際に進めるにあたっては、事業のゴールを明確に定義し、進行中のプロジェクトを適切に評価・育成できる土壌がなければ、目指す成果の創出は困難です。

イノベーションマネジメントは、目的の明確化と土壌づくりを土台としながら、「制度を作る」「研修を導入する」といった施策を互いに連動させることで機能します。

イノベーションマネジメントの本質は、新規事業が生まれ続け、経営にインパクトをもたらす規模まで育つ仕組みをつくることです。

大企業でイノベーションが止まる構造

イノベーションが止まる原因として、AlphaDriveがお伝えしたいのは、原因の多くは「仕組みの構造」にあるということです。イノベーションが止まる構造が、どこで停滞しているかを把握することが、マネジメント設計の出発点になります。 

各部門間が連携した取り組みになっていない

CVC・オープンイノベーション・M&A・社内新規事業が、それぞれ縦割りのまま動いている組織も一定数存在します。部門間の連携体制が曖昧なままだと、社内調整に時間がかかり、事業がスムーズに進みません。これは、経営システムが未整備であることによって生じる課題と言えます。

意思決定が属人的になっている

新規事業への投資判断は不確実性が高く、成果が出るまでに時間を要します。こうした投資判断を、経営層個人の裁量や現場・一部役員の一存に委ねたままにしていると、意思決定が先送りされたり、案件ごとに基準がブレたりしやすくなります。投資判断のルールをあらかじめ設計し、それを議論・決定する会議体を仕組みとして持たない限り、判断のブレは解消されません。

人材を発掘・育成する仕組みが整っていない

新規事業の推進には、既存事業の改善とは異なるスキルセットや思考様式が求められます。多くの企業で「ノウハウが不足している」と語られますが、その本質は、こうした人材を見つけ出し、つなぎ、育てていく仕組みそのものが存在しないことにあります。人材を発掘・育成する仕組みがないために、知見やノウハウが社内に蓄積されず、特定の担当者個人の経験のまま終わってしまい、他のプロジェクトや後任者に引き継がれないのです。

イノベーションマネジメントに必要な3つの要素

イノベーションが構造的に止まる問題を解くために、AlphaDriveが提唱するのは、新規事業経営エコシステムを構築することです。この章では、イノベーションマネジメントに必要な主な要素を3つ解説します。

エコシステムを機能させる

スタートアップの世界では、エコシステムが形成されています。そこでは、資金を提供する投資家、場とノウハウを提供する行政・支援機関、人材を輩出する大学、そして協業・再編を繰り返すスタートアップ同士が、それぞれ役割を持ち、相互に連関しています。これにより、次々と新たな事業が生まれ続けています。

イノベーションマネジメントを機能させるためには、このエコシステムを、一つの企業の中に設計・実装することが重要です。ただし、そのために既存の組織構造をすべてつくり替える必要はありません。専門性を持った各部門の形はそのままに、部門間の連携を促す「緩衝地帯」や「ハブ機能」を設けます。これにより、各部門が接続する接点をつくり出し、縦割り構造の中にイノベーションが創出するサイクルを生み出します。

CIOとCoEを配置する

エコシステムを機能させるには、AlphaDriveが提唱するCIO(Chief Innovation Officer)の任用と、CoE(Center of Excellence)の設置が重要です。CIOは新規事業開発部門、アクセラレーション部門、投資部門といった直轄組織を統括するだけではなく、チーフ・エコシステム・オフィサーとして、全社横断的にエコシステム全体を推進する権限を持つ役職です。

CIOの意思決定を各部門に浸透させるためには、各専門部門の内部に「出島組織」を設けるのが有効です。例えば、人事部の中に新規事業人事推進グループを、経理部の中にイノベーション財務支援チームを置く、などです。これらの出島組織は、所属部署の管掌役員ラインと、CIOの指揮命令ラインに接続する二重構造とし、CIOがエコシステム全体を主導できるようにします。

一方でCoEは、各部署の出島組織のメンバーが定期的に参画し、エコシステム全体の課題を議論する「エコシステム文脈での経営会議」の役割を担います。最終的な意思決定はCEOが行い、CIOは議長として、CEOの意思決定をリードするCOO(Chief Operating Officer)のような立ち位置となります。

初代CIOには、新規事業の実践経験よりも、社内の信頼関係、政治力、そして新規事業経営への意欲と理解を持つ人材を選定するのが重要です。また初代CIOの配下には、実践者をボードメンバーとして配置し「二重構造」として機能させることを推奨しています。

企業変革につなげられる人材を育成する

AlphaDriveが提唱する新規事業では、「型にはまらない」「勝手に動く」「曖昧を楽しむ」「未来を夢想する」といった特性を持つ変革人材が求められます。変革人材は、既存事業の評価軸では「個性を生かしにくい」とされることも多いですが、新規事業では、そうした特性を持つ人材こそが推進力になります。

変革を推進できる人材を組織内に見つけ出し、育てていくためには、人的資本インフラを整備する必要があります。

人的資本インフラの構築においてAlphaDriveでは、まず、変革に向いている特性を持っているかを測定するアセスメントを実施し、社内に隠れた変革人材を特定します。次に、社内イベントやコミュニティ活動を通じて、そうした人材同士のつながりを築き、安心して能力を発揮できる環境を整えます。そして、これらの蓄積されたデータを活用しながら、戦略的なプロジェクトや社内公募の新規事業プログラムに、適材適所でアサインしていくことで、社員一人ひとりの可能性を広げ、、成長をサポートしていきます。

人的資本インフラが整うと、CIOやCoEが新しいテーマに着手した際に、そのテーマに適した人材を即時に特定して声をかけられる状態が実現します。

イノベーションマネジメントの進め方

イノベーションの概念や必要な要素が整理できても、実際にどこから着手すればよいのでしょうか?この章では、AlphaDriveが提唱するイノベーションマネジメントの進め方について解説します。 

STEP1:新規事業の土台を作る

①社外と連携した情報収集

新規事業が生まれる前段階として、「土づくり」に相当する取り組みが必要です。事業のゼロマエフェーズで行うのは、継続的な情報収集機能の構築です。

まずはカーボンニュートラルのようなメガトレンドより一段解像度を上げ、今後10年で法制度や人の行動がどう変わるかを継続的に把握します。インバウンド急増によるオーバーツーリズムの問題や、物流業界の労働時間規制といった社会変化が、新規事業の大きな機会につながることは、すでに多くの事例が示しています。

また、技術革新の動向も欠かせません。これまでコスト面で解決できなかった課題が、新技術によって課題解決につながることがあります。「その技術で何ができて、何ができないか」を語れる社員を社内に育てることが重要です。

②エコシステムと人的資本インフラの芽を育てる(ワイガヤ活動)

土台づくりの段階では、前述の3つの要素(エコシステム、CIO・CoE、人的資本インフラ)を、機能させることが重要です。

例えば、本田技研工業発祥の「ワイガヤ」に代表されるような、役職に関係なく自由に意見を出し合える場づくりを推進します。ここで重要なのは、新規事業や未来の事業づくりに関心を持つ有志を、部門を問わず募ることです。新規事業に興味のある社員が、部門間の壁を越えて対話が生まれる「緩衝地帯」や「ハブ機能」を、ワイガヤという形で試すことができるのです。ここで生まれたつながりが、のちに新規事業のエコシステムを組織全体へ拡張していく土台になります。

ワイガヤの取り組みには、以下の4つのポイントがあります。

ポイント 内容
同期・非同期の両輪で設定する 同期の場(研修・飲み会・交流会)で高めた熱量を
非同期(チャットツール・メーリングリスト)などで広げる
有志で始める 未来志向・新しい価値の創造・意欲がある社員で構成する
アジェンダ設定する ニュースのような「ちょうどいい距離感」の話題を提示する「ラーニングコミュニティ」の形成など
コミュニティマネジメント機能の確立 部門を超えた社員同士のつながりを促進し、会話を活性化させるために、コミュニティマネージャーを配置する

同時に、この場に参加する社員の中から、意欲や特性を持つ「変革人材」を見つけ出すアセスメントを始めることで、人的資本インフラの構築にも着手します。

この活動を通じて、新規事業に関心を持つ社員一人ひとりが新規事業のアイデアを出しやすい土壌を耕し、提案が生まれる活気を高めます。

STEP2:新規事業の形を成立させる

土台が整ったら、次は社員からの提案を実際の事業として立ち上げるフェーズです。既存事業の現場では、新しい提案を受け止めて検討する余裕がないことも少なくありません。だからこそ、経営施策として新規事業の提案を受け付ける制度を、常時設ける必要があります。

この段階で、CIOとCoEを正式に機能させます。事業化の可否判断をCIOが議長を務めるCoEで意思決定できるよう設計します。

ゼロイチの段階を経て事業化の承認を得た新規事業は、本格的な立ち上げ期であるSEED期へと移行します。この時期は、MVP(Minimum Viable Product)によって検証された仮説を、実際の商用サービスとして開発・展開し、収益化を得て、事業として成立させていきます。

新規事業を創出することは、同時に、新規事業を創出できる人材を育成することでもあります。ゼロイチの段階では、社員が新規事業を創出するために必要な能力を習得できるよう、顧客課題発見、ヒアリング、顧客開発、事業計画策定といった能力開発できる研修をメニュー化するのが有効です。研修対象は、STEP1のアセスメントで特定された変革人材を優先的にアサインすることで、人的資本インフラを実運用の段階に進めます。

スタートアップ能力を育成できる制度と、新規事業開発制度を並行して進めることで、イノベーションの土壌(ゼロマエ)に、新しい事業の種(ゼロイチ)が芽生える環境を整えます。 

STEP3:グロースするための経営システムを構築する

イチジュウは、ゼロイチで立ち上がった新規事業を成長軌道に乗せるためのフェーズです。

SEED期を過ぎると、事業をさらに拡大・再生産していくフェーズに入ります。このフェーズでは、CIO直轄の「内部アクセラレーター」組織が稼働し、セールス、マーケティング、システム開発といった、事業の種類を問わず必要となる専門機能を整備・強化します。これらの専門機能の配分優先順位は、CoEでの経営会議によって決定されます。

こうした機能は、常に一定量の業務が発生するとは限らないため、社員の配置は必要最小限にとどめ、外部委託やパートナー企業との連携といった、柔軟な外部リソースの活用も視野に入れた組織設計が有効です。 

また、STEP1・2で整えてきた人的資本インフラが、この段階で必要となる専門人材を即座に特定し、アサインする役割を果たします。こうして、エコシステム・CIO/CoE・人的資本インフラの3つの要素は、ゼロマエからイチジュウまでの時間軸の中で、段階的に立ち上がり、本格稼働していきます。

まとめ:イノベーションは、仕組みで生み出せる

「再現性のあるイノベーション」を実現するには、エコシステムを設計し、それを動かすCIOとCoEを配置し、変革人材を発掘・育成する人的資本インフラを整えることが必要です。そのうえで、ゼロマエで土台をつくり、ゼロイチで事業を立ち上げ、イチジュウでグロースの経営システムを構築していきます。この一連のプロセスを実行することで、組織はイノベーションを「生み出す力」を自社で強化できます。

AlphaDriveの新規事業開発支援について

AlphaDriveは、企業の新規事業創出を仕組みづくりから立ち上げまで、一気通貫で支援しています。
事業創出のインキュベーションから事業立ち上げ後のアクセラレーション、オープンイノベーション、R&D 組織での新規事業開発まで。これまでに 約300 社を支援し、23,800 件の事業アイデアを創出、250 件の事業化・会社化を実現してきました。事業開発に対する伴走だけでなく、プロダクト開発、マーケティング、セールスなど各領域での実務支援を通じて、事業化後のフェーズを成功に導くご支援を行っています。

よくある質問

  • スタートアップの世界で機能している「エコシステム」を、企業の内部に設計・実装し、継続的に運用することです。

    スタートアップのエコシステムでは、資金を提供する投資家、場とノウハウを提供する支援機関、人材を輩出する大学、協業・再編を繰り返すスタートアップ同士が、それぞれ役割を持ちながら相互に連関しています。これと同じ構造を、一つの企業の中につくることがイノベーションマネジメントの本質です。目的の明確化と土壌づくりを土台としながら、「制度を作る」「研修を導入する」「人材を育成する」といった施策を互いに連動させることで、新規事業が生まれ続け、経営にインパクトをもたらす規模まで育つサイクルが機能します。

  • 各部門が縦割りのまま動いている状態では、社内調整に時間がかかり、事業がスムーズに進みません。解決策は、組織構造をつくり替えることではなく、部門間をつなぐ「ハブ機能」を設けることです。

    AlphaDriveが提唱するCIO(Chief Innovation Officer)は、各部門を横断的に束ねる権限を持つ役職で、各部門の内部に設けた「出島組織」を通じてCIOの方針を浸透させます。組織の形はそのままに、接続する接点をつくり出すことで、縦割り構造の中にイノベーションが生まれるサイクルを設計できます。

  • 投資判断を経営層個人の裁量に委ねたままにしていると、案件ごとに基準がブレたり、判断が属人的になりがちです。必要なのは、投資判断のルールをあらかじめ設計し、それを議論・決定する会議体を仕組みとして持つことです。

    AlphaDriveでは、CIOが議長を務めるCoE(Center of Excellence)がその役割を担うことを推奨しています。CoEは各部署の出島組織のメンバーが定期的に参画する「エコシステム文脈での経営会議」として機能し、最終意思決定をCEOが行う設計にすることで、判断のブレを構造的に解消します。

  • 多くの企業で「ノウハウが不足している」と語られますが、その本質は人材を見つけ出し育てる仕組みそのものが存在しないことにあります。AlphaDriveでは、変革に向いている特性を持っているかを測定するアセスメントを実施し、社内に隠れた変革人材を特定することを推奨しています。

    次に、ワイガヤ活動(社内イベントやコミュニティ)を通じてそうした人材同士のつながりを築き、戦略的なプロジェクトや社内公募に適材適所でアサインしていきます。人的資本インフラが整うと、新しいテーマに着手した際に適した人材を特定して声をかけられる状態が実現します。

  • 最初にやるべきことは、制度の整備より前に「土台づくり」です。具体的には、メガトレンドや技術革新の動向を継続的に把握する情報収集機能の構築と、部門を超えて社員が自由に対話できる場(ワイガヤ)の立ち上げから始めます。

    ワイガヤは、特定部門に限定せず複数部門から有志が集まる形で運営し、ここで生まれた部門を超えたつながりが、のちに全社的なエコシステムへと拡張する土台になります。同時に、この場に参加する社員の中から変革人材を発掘するアセスメントを始めることで、人的資本インフラの構築にも着手できます。

監修者について

土井 雄介

株式会社ユニッジ 共同創業者 代表取締役Co-CEO 株式会社アルファドライブ プリンシパル 企業変革事業統括 兼 東海拠点長 株式会社アルファドライブ静岡 代表取締役

静岡県富士市生まれ富士宮市育ち。2015年東京工業大学大学院卒業後、愛知の自動車メーカーに入社。物流改善支援業務を行ったのち、役員付きの特命担当に任命される。並行して、社内有志新規事業提案制度を共同立ち上げ・運営。プレーヤーとしてもこの制度に新規事業を起案し、2年連続で事業化採択案に選出される。その後、社内初のベンチャー出向を企画し、AlphaDriveの創業期に参画。多数の新規事業の制度設計/伴走支援を実施。帰任後、社内から事業を生み出すしくみ作りを担当すると共に、協業支援会社UNIDGEを共同創業。2023年より社内初の「若手社長出向」としてUNIDGE Co-CEOを経て、代表取締役に就任。同時に、株式会社アルファドライブのプリンシパルとして企業変革事業統括、東海拠点長を担う。その他、株式会社ユーザベース CEO室。寿司ベンチャー企業、株式会社SUMESHI 社外取締役。累計90社以上の企業支援に関わり、年間100本以上の講演、審査員としても活動。