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新規事業におけるマーケティングのキホン「リリースしたのに売れない」を抜け出す顧客検証の進め方

新規事業を立ち上げ、リリースしたものの、まったく売れない。
何度も審査を受け、社内調整を重ねたにもかかわらずサービスが市場で受け入れられないケースは、珍しいことではありません。原因の多くは、顧客に製品の価値が伝わっていないことにあります。
そこで本記事では、新規事業におけるマーケティングの本質を「顧客検証」の観点から解説します。

新規事業/既存事業のマーケティングは根本的に異なる

この章では、既存事業と新規事業のマーケティングの違いについて解説します。

既存事業マーケティングの4Pは、「顧客がすでにいる」前提で設計されている

新規事業のマーケティングは、既存事業とは根本的に出発点が異なります。既存事業では、すでに顧客が存在することを前提に、従来の4P(Product、Price、Place、Promotion)のフレームワークや競合分析といった手法が有効に機能します。しかし、新規事業においては、市場の存在自体が未確認であることが多く、従来の手法をそのまま適用しても成果につながりません。

そこで、AlphaDriveが提唱するのは、リリース直後の新規事業においては、本格的なマーケティング投資(Place・Promotion)を行う前に、まず「3P」(Product、Price、Primary Customer Success)に注力する手法です。

立上げ期の新規事業では、CAC(顧客獲得コスト)がLTV(顧客生涯価値)を上回っている、もしくはLTVの精緻な測定が出来ていないことがよくあります。この段階でPlaceやPromotionの考えを念頭にして多額の投資を行うことはリスクが高いため、まずは、ProductとPriceの試行錯誤を重ね、初期の顧客に成功体験を提供することに集中します。4P設計やファネル設計といった従来の手法を適用する前に、この「3P」による検証が、新規事業マーケティングにおける最優先事項となります。

新規事業のマーケティングは、「顧客と市場を発見する活動」から

新規事業マーケティングとは、未だ満たされていない顧客ニーズに応える製品・サービスを創出し、購入につなげるプロセスです。顧客の課題を深く理解し、それらを解決する価値を効果的に伝えるための訴求や施策を、検証を繰り返しながら最適化していきます。

新規事業では「誰に」「どんな課題があり」「どんな価値を求めているのか」といった前提が未確立なため、従来のマーケティング手法が通用しにくいのが特徴です。そのため、顧客との継続的な対話を通じて仮説を検証し、市場の反応を見ながら製品や戦略を柔軟に進化させることが不可欠となります。

新規事業で「リリースしたのに売れない」が起きる理由

さまざまな困難を経て、ようやく新規事業をリリースしたけれど、売れない……。
こうした事態はなぜ起きるのでしょうか。この章では「リリース後に売れない」が起きる理由を解説します。

開発中に顧客検証を止めてしまう

よくあるパターンとしては、MVP期のヒアリングで顧客課題を特定できたため、サービス開発に着手する。そうすると「課題はもう分かっている」という認識から、開発に集中してしまい、顧客への検証をストップしてしまうケースです。

しかし、MVP期のヒアリングと、実際に購入を検討するフェーズのヒアリングでは、聞くべき内容が異なります。MVP期では「どんな課題があるか」を探りますが、開発中は「その解決策に本当にお金を払うか」「どう使いたいか」を確かめる必要があります。

この違いを見落とすと、開発が進むにつれて顧客の実態から離れ、「誰の課題も解いていない製品」が完成してしまうのです。顧客検証は一度実施して終わりではありません。開発中も定期的に顧客と対話をし、「この機能は本当に使うか」「いくらなら払うか」といった仮説のズレを修正し続けることが不可欠です。

ターゲットの解像度が低い

「30代男性」「中小企業の経営者」といったセグメント単位でターゲットを設定しても、刺さるメッセージを設計できません。
同じ「30代男性」であっても、育児中か否か、共働きか専業主婦(夫)世帯か、住宅ローンを抱えているか賃貸か、親の介護が始まっているかどうかなど、置かれている状況によって抱える課題は違います。ターゲットが曖昧なまま「みんなに使ってもらえる製品」を目指すと、結果的に誰の課題も解決しない、中途半端な製品が出来上がってしまうのです。

こういったこちにくわえて新規事業においては、「Primary Customer」に焦点を当てることが大切です。
Primary Customerとは、以下の5つの定義に当てはまる顧客を指します。

  • 身内や関係者ではないこと
  • 営業されて「はじめてその商品を知った」状態から購入すること
  • 正規の価格を支払って買ってくれること
  • 購入しただけではなく、購入後にたしかに使ってくれること
  • 使った結果「支払ってよかった」と満足されること

これらの定義に合致するPrimary Customerを深く理解し、この定義を満たす顧客をまず見つけることが重要です。

意見と事実を混同している

顧客ヒアリングで「いいですね」「使ってみたい」という反応を得ても、それは意見であり、実際の購買行動とは別物です。ヒアリングの場では、相手は「否定することが失礼」と感じたり、「可能性を応援したい」という気持ちから肯定的な反応を示すことがあります。

例えば「業務効率化ツールが欲しい」と言いながら、実際には手作業のままで、代替ツールにお金を払っていない場合、その課題の優先度は低いと判断できます。もし本当に深刻な課題であれば、Excelマクロを自作している、競合ツールを試しているなど、何らかの対処をしているはずです。

こうした行動事実をヒアリングせず、顧客の「いいですね」という言葉を鵜呑みにして開発を進めると、リリース後に同じようなメッセージでマーケティング活動を行っていったとしても、「誰にも購入してもらえない」ということが起こってしまいます。

顧客に価値が伝わっていない

顧客検証を重ね、課題も特定し、解像度の高いターゲット設定もできた。それでも売れないケースがありますが、その原因は、価値の伝え方にあります。顧客が感じている課題と、推進者が解決できると感じる価値が一致していても、その価値が顧客に届く言葉で語られていなければ商品の魅力は伝わりません。一方で、当初想定していたセグメントとは異なる顧客層が、実際にお金を払う顧客となるケースもあります。良いと反応する顧客層の中で、成約となるセグメントを特定するためには、テストマーケティングを通じて検証していくことが不可欠です。

【関連記事】

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新規事業におけるマーケティングの進め方

AlphaDriveでは新規事業のマーケティングにおいて次の5つのステップを推奨しています。

STEP1:WHO・WHATを定める

新規事業マーケティングは、まず「誰に(WHO)」「どんな価値(WHAT)」を提供するのかを明確に定義することから始まります。これは、マーケティング戦略全体の基盤となる重要なプロセスです。この「WHO」と「WHAT」の組み合わせが定まることで、初めて「どのように(HOW)」顧客に価値を伝え、訴求していくかという具体的な施策へとつなげられます。

WHOとWHATを整理するためには、「ユースケースマップ」の活用が有効です。ユースケースとは、プロダクトやサービスが「誰の」「どのような問題を」解決できるのかを具体的に整理するものです。

項目 説明
解決する課題 プロダクトが解決する具体的な課題
ペルソナ その課題を抱える具体的な顧客像
代替手段 現在、顧客がその課題を解決するために利用している手段
提供価値 自社サービスを利用することで得られる便益
利用頻度 顧客がサービスをどのくらいの頻度で利用するか

ユースケースマップを活用する際は、複数のユースケースが存在することを前提に、それぞれの優先度を評価していくことが重要です。優先度付けの際には、顧客の課題が「ペイン(痛み)」なのか「ゲイン(利便性・楽しさ)」なのか、課題認識の度合い、課題のインパクトの大きさなどを考慮します。最終的には、優先度の高い5~7つのユースケースに絞り込み、戦略の基盤とします。

STEP2:短期・中長期の施策ポートフォリオを設計する

施策の効果を出すためには、その効果が出るまでの時間軸とスケールのしやすさを考慮し、定期的に効果を測定することが重要です。新規事業においては、迅速な顧客獲得と中長期的なコストパフォーマンスを両立させるポートフォリオ設計が不可欠です。例えば、SNS広告のように、即効性がありスケールしやすい施策と、コンテンツSEOなど時間はかかるものの、持続的な効果が期待できる施策を並行して進めることが効果的です。

PDCAサイクルを通じて効果が実証された施策は、再現性のある型として定着させ、継続的な運用を行います。同時に、新しい施策の検証も続けることが重要です。例えば、SNS広告で効果が出た場合は、そのノウハウを活かしてオーガニックなSNS運用にも挑戦するなど、施策の幅を広げていきます。

なお、施策ポートフォリオはCAC<LTVが成立してはじめて実行できます。リリース直後はほぼ確実にCAC>LTVの状態にあるため、まずPrimary Customer Successを通じてLTVを高めることが先決です。この関係が崩れている段階で、SNS広告のような即効性のある施策に多額の投資を行うことは、事業の継続性を損なう可能性があります。

施策を「定常的に運用するもの」と「仮説検証を繰り返すもの」に分け、それぞれに適切な予算と体制を割り当てることが、持続的な事業成長につながります。

STEP3:WHO×WHATの仮説を検証していく

STEP1で整理したユースケース別の提供価値の仮説検証を行います。具体的には、想定される顧客セグメントごとに仮説を立て、それぞれに響くメッセージ(訴求・コピー)を作成します。このメッセージをLPやバナーなどに反映させていきます。

検証では、FacebookやInstagramなどのSNS広告のような、短期間で効果測定がしやすいプッシュ型広告や、LP公開後の反応測定が有効です。

例えば、「オフィス向けのお弁当の宅配サービス」というサービスでも、人事部向けに「健康経営を実現する福利厚生サービス」として訴求するのか、総務部門向けに、「お弁当手配業務の効率化サービス」として訴求するのかで、コピーや提供する価値が変わります。

STEP4:HOWの仮説検証を行う

HOWの仮説検証では、まず「誰に(WHO)」「どのような価値を(WHAT)」届けるのかという軸が固まった段階で、具体的な施策の検証に進みます。

例えば、BtoB企業が資料ダウンロードを促す広告を打つ場合を考えてみましょう。ここで検証すべきは、ダウンロードされる資料の形式です。単なる営業資料として提示するのか、あるいはホワイトペーパーやレポートといった形式で提供するのか。また、ウェビナー形式で情報提供する方が顧客の関心を引きつけられるのか、といった点を検証します。

その後、Facebook広告、X、インフルエンサーへの依頼、あるいはリアルなイベント出展といった、どの「チャネル」で情報発信するのが効果的かという検証に移ります。

訴求の検証を先に行う理由は、チャネルの検証から始めると、検証すべき選択肢が無限にあるため、効果的な検証が難しくなるからです。まずは、自社の提供価値が顧客にどう伝わるか、という「訴求」の仮説を立て、それを検証することに集中します。その上で、効果的な訴求が見えてきたら、どのチャネルで展開するのが最適かを検証しましょう。

STEP5:小さく生んで大きく育てる

新規事業マーケティングにおいては、素早く成果を出す「Quick Win」と、それを長期的な成功につなげる「Big Victory」を目指す姿勢が重要です。

新規事業マーケティングでは、スピード感を持ってPDCAサイクルを回す開発手法である、アジャイル型で進めるのが良いでしょう。例えばWeb広告であれば、少額の予算で訴求違いのテキストパターンを多く検証して、効果的なものを見つけ出した後に、デザインや予算を拡大します。ウェビナーも同様に、小規模で複数回開催して参加者の反応を分析し、効果的な手法が確立されてから大規模なイベントへと展開していきます。

このように、初期段階で素早く成果を出し、その成功体験を再現性のある事業モデルへと育てていくことが、新規事業マーケティングの成功の鍵となります。

AIで新規事業のマーケティングはどう変容するか

最後に、AI技術の進歩により、「マーケティングの世界にどのような影響が出てきているか?」にも触れておきます。

AIを正しく活用していくことによって、例えば、従来の世界観から見ると「魔法」かのように、以下のようなことが可能になります。

・従来は人力で頭を捻って考えていた広告コピーが、瞬時に100件出すことが出来る
・従来は1本100万で制作会社に依頼していたLPが、ほぼゼロコストで複数パターン生成出来る
・従来はデザイナーに依頼していたバナークリエイティブが、瞬時に大量生成出来る
・従来は人力で運用していた広告出稿/レポート作成が自動化出来る

プロダクト開発の世界においても「CCC(Completion Cost Collapse:完成コストの崩壊)」が顕著ですが、上記の例のように、マーケティングのプロセスにおいても凄まじい威力が発揮されてきています。

「極力少額からリスクの少ない投資をすべき/一方で勝ち筋を見つけるための複数の仮説検証を走らせたい」という新規事業のマーケティングにおいては、まさに取り込むべきパワーであると言えるため、ぜひ部分的なプロセスからでも、AIを導入していくことを推奨します。

このような変化の中で、近年「AX(AI Transformation)」という概念が広がりつつあります。AXには、業務や制作を効率化する「効率化のためのAX」と、売上そのものを新しく生み出す「収益進化のためのAX」の2つの方向性があります。前述の広告コピー生成、LPやバナーのクリエイティブ作成、広告運用レポート作成は、CCCによって検証コストとリードタイムが大きく下がった、前者(効率化のためのAX)の代表例です。

しかしAIをどれだけ導入しても手が届かない領域があります。それは、PI(Primal Intelligence)です。商談で顧客が漏らした一言や失注・解約の際に語られた本音といった現場の生の情報(Field Intelligence)、既存の型にはまらない突飛な訴求アイデア(Crazy Intelligence)など、AIが過去のデータにもとづく予測だけでは拾いきれない情報がこれにあたります。

こうした現場の情報や発想をAIに組み合わせることで、通常のマーケティング施策の延長線上では生まれにくい打ち手、例えば新しい訴求軸の発見や、単価・LTV向上につながるアイデアを引き出せます。

AlphaDriveでは、「収益進化のためのAX」を、AIとPIを掛け合わせて実際の売上向上につなげるためのアプローチ「AX for Revenue(AXFR)」として体系化しています。マーケティング領域でAIをどのように活用できそうか、自社の状況に合わせて整理する際の入り口として、ぜひご活用ください。

AX for Revenueのサービス概要はこちら

まとめ:新規事業におけるマーケティングは、製品・サービスを創出し、購入につなげるプロセス

新規事業マーケティングは、仮説検証を繰り返しながら顧客に価値が伝わる製品をつくり、購入につなげるプロセスです。しかし、このプロセスを怠ると、「リリースしたのに売れない」という事態に陥る可能性があります。「誰が」「どのような課題を抱え」「どのような価値をどのような方法で提供できるのか」を正しく設計することが重要です。

AlphaDriveでは、新規事業におけるマーケティングについて、WHO・WHAT・HOWの勝ち筋を見つけるための仮説検証のノウハウや知見をご提供しています。また、新規事業マーケティングを最適に進めるための設計から伴走支援まで一気通貫で対応しています。新規事業のマーケティングの知見やナレッジがない、リソースがないといったお悩みのある企業様は、自社への活用イメージを深める参考としてぜひご活用ください。

AlphaDriveは、企業の新規事業創出を仕組みづくりから立ち上げまで、一気通貫で支援しています。
事業創出のインキュベーションから事業立ち上げ後のアクセラレーション、オープンイノベーション、R&D 組織での新規事業開発まで。これまでに 約300 社を支援し、23,800 件の事業アイデアを創出、250 件の事業化・会社化を実現してきました。事業開発に対する伴走だけでなく、プロダクト開発、マーケティング、セールスなど各領域での実務支援を通じて、事業化後のフェーズを成功に導くご支援を行っています。

よくある質問

  • ヒアリングの場では、相手も応援したい気持ちから前向きな反応を示してくれることが多いものです。

    ただ、「いいですね」は意見であって、購買行動とは別物です。確かめるべきは「今その課題に、実際にいくら払っているか」「代替手段を使って自力で解決しようとしているか」という行動事実です。本当に深刻な課題なら、顧客はすでに何かしら自分で手を打っているはずなので、そこを起点に確認してみてください。

  • 結論から言うと、狭くなりません。ターゲットを絞るのは「売れる範囲を狭めるため」ではなく、「広げるための起点を作るため」だからです。

    「30代男性」のような括りのままでいると、職種・役職・業種・会社規模・抱えている課題など、あらゆる軸で状況が異なるため、メッセージが誰にも刺さらない状態になってしまいます。

    まず解像度を上げて、最初に深く刺さる顧客を見つけることで、「どんな状況の人が、何に困っていて、どう響いたか」が見えてきます。それが、似たような状況にある次の顧客へと広げていくときの入口になります。

  • TAMは「理論上到達できる最高売上」、SOMは「最初に狙う顧客セグメント」として使います。大事なのは、マクロ統計の数字を貼るだけでなく、SOMから始めて「次にどのセグメントへ、どういう順番で広げるか」のシナリオとセットで描くことです。

    顧客×価格の「面積」をどう広げていくかを考えるためのツールとして使うと、成長戦略との連動感が出てきます。

  • まず取り組むべきは、「自分たちのサービスがどのセグメントに刺さるかを、とにかく早く確かめること」です。あれもこれもと施策を並べる前に、高速で検証することが先です。

    たとえば人材系SaaSであれば、「人事部 × 健康経営」「経営企画 × 採用効率化」のように、セグメントと訴求の組み合わせをいくつか仮説として立てて、どれに反応が出るかを小さく試します。「何をどこに出すか」より先に「誰に何が刺さるか」を掴む、この順番がマーケティング検証の肝です。

監修者について

加藤 隼

株式会社アルファドライブ グループ執行役員(アクセラレーション戦略推進) 株式会社GROWGRIT 取締役

2013年、ソフトバンク株式会社に新卒入社。法人営業を主務とする傍ら、新事業スキームを担当顧客へ提案し、同事業の責任者としてジョイントベンチャー(JV)での事業立ち上げを牽引。兼任プロジェクトとして、孫正義氏の次世代経営者育成機関「ソフトバンクアカデミア」にも所属。2016年、株式会社ディー・エヌ・エーに中途入社。メディア領域の事業開発に従事。DeNAと小学館のJVによる事業再建プロジェクトに携わり、Bizサイド広範の戦略策定・実行を推進し、ゼロからの事業再建を牽引。2019年3月、株式会社アルファドライブに入社。累計35社、4000件超の新規事業プロジェクトに対する伴走・審査に携わり、2021年4月にマネージング・ディレクターに就任。2023年1月、執行役員 イノベーション事業/アクセラレーション事業担当に就任。