イントレプレナーとは、社内で起業家のように新規事業を推進する人材のことです
※なお、AlphaDriveでは「イントラプレナー」と称していますが、本記事では「イントレプレナー」の表記で統一して解説していきます。
変化の激しい現代、企業には既存事業を磨き上げる「深化」と、新たな事業領域を開拓する「探索」の2つを同時に実現できる体制が求められています(「深化」と「探索」は、『コーポレート・エクスプローラー』(ビンズ、オライリー、タッシュマン著/英治出版)などで提唱される「両利きの経営」の概念です)。
しかし、既存事業で成功してきた組織ほど、探索的な取り組みが既存の評価軸では評価されにくい構造があります。既存事業で実績を積んできた人材は優れているケースが多いものの、社内新規事業には既存事業とは異なる特有の難しさがあり、その可能性を見極めるには、イントレプレナーや社内新規事業に精通した人材ならではの視点が生きる場面があるでしょう。
だからこそ、既存の評価軸に頼らず自ら道を切り拓く、起業家精神を持つイントレプレナーの存在が重要です。歴史ある企業が世界で特に多いとされる日本では、単純なスタートアップ投資と同じ物差しだけでなく、産業への影響や雇用創出といった観点も含めて新規事業と向き合い続けられる人材が、AlphaDriveでは重要だと考えています。
本記事では、イントレプレナーとは何か、なぜ必要とされるのか、どのような要素が求められるのかを整理したうえで、育成の具体的な方法と成功事例を紹介します。
イントレプレナーは「探す」ものではなく「育てる」ものです。そのために何ができるのかを、一緒に考えていきましょう。
イントレプレナーとは、社内で起業家的に事業を推進する人材
イントレプレナー(Intrapreneur)とは、社内で起業家的に事業を推進する人材のことです。既存の組織に所属しながら、新規事業のアイデア創出から事業化まで、推進者自身が主体となって推進していきます。
企業にとっての大きな強みのひとつは、会社のリソース・信用・顧客基盤を活かしながら新規事業を推し進められることです。自社のアセットや経営資源を活用できるため、事業拡大においても優位性があります。
何より、自社の信用力をそのまま使えることは、起業にはない強みです。
アントレプレナーは社外、イントレプレナーは社内で起業する
イントレプレナーとアントレプレナー(Entrepreneur)、どちらも起業家精神を持つ人材を指しますが、活動の場が異なります。
アントレプレナーは、自ら会社を興して事業を立ち上げる外部起業家です。ゼロから資金調達を行い、顧客を開拓し、信用を積み上げていく必要があります。事業の成否が直接、個人の生活基盤に影響し、融資を受けていた場合は個人に負債が残ることもあります。
一方、イントレプレナーは、既存の会社という後ろ盾を持ち、社内で新規事業を推進する人材です。自社の「ヒト」「モノ」「カネ」といった経営資源や、ノウハウ・販路・信用力を活用できる可能性がある一方、既存事業との兼ね合いや社内ルール、既存の働き方への配慮をしながら進める必要もあり、その両立が求められます。事業が撤退となっても雇用は保障されている点は、外部起業家にはない安心材料です。失敗のリスクが個人に帰属しない分、既存事業以上に自律的な当事者意識を意図的に持つことが求められます。
では、どうすれば事業に対する強い想いを育むことができるのでしょうか。顧客からの感謝の声、解決すべき課題の手応え、共に歩むメンバーとの信頼関係などの要素が、事業推進者の内発的な動機を強く育んでいきます。
大企業でイントレプレナーが求められる背景
大企業でイントレプレナーが求められる背景には、大きく「既存組織のまま新規事業に取り組むことの難しさ」と「組織全体の変化対応力を高める必要性」という2つの理由があります。
この構造は、新規事業開発部門だけでなく、DX推進部門やAI活用推進部門でも同様に見られます。既存事業を磨き上げる「深化」に最適化された組織では、新たな価値創出につながる「探索」が既存の業務評価の枠組みでは評価されにくく、変革を推進できる人材の育成が重要な経営課題です。
市場の変化により、既存事業の深化だけでなく新規事業の探索も求められる時代に
市場が変化し続ける現代では、深化と並行して探索にも取り組むことが必要です。特に商社や大手メーカーなど、既存ビジネスモデルが強固な企業では、深化による成果が大きく、これが競争力の源泉となってきました。
ただし、既存組織のまま探索に取り組むと、最適化されたKPIや評価制度との矛盾が生じ、実験的な取り組みが適切に評価されにくい状況が生まれます。だからこそ、既存組織とは異なる裁量と評価軸を持つイントレプレナーという存在が重要となります。
イントレプレナーの存在が、組織全体の変化対応力を高める
イントレプレナーとして新規事業を経験した人材は、既存事業の部署に戻った後も、その経験が大きな財産となります。顧客起点で仮説検証を繰り返す思考法や、事業オーナー視点で物事を捉える習慣は、既存事業の成長や変革にも応用できるためです。
実際に、事業開発の経験者が既存事業の部署に戻った後には、自ら課題を発見し改善提案を行うなど、自走性の高い働きをする傾向が見られるケースもあります。
こうした人材が組織内に点在していくと、既存事業の現場にもともとある「自ら考え動く」風土に、少しずつ良い刺激が加わっていきます。社内ベンチャーが活発になるほど、社員同士でアイデアを出し合ったり、アイデアの弱い部分を指摘し合ったりと、切磋琢磨できる環境がつくられていくでしょう。
このような「社員が自走できるカルチャー」は、変化の激しい時代において、企業が競争優位性を保つための重要な経営資源のひとつとなります。
イントレプレナーに求められる要素

AlphaDriveでは、イントレプレナーには、「WILL(意志)」を土台として、以下のような要素が求められると考えています。これらは、AlphaDriveが数多くの新規事業開発支援の実践を通じて体系化したものです。
【イントレプレナーに求められる3つの特徴】
- 熱狂:課題解決や事業に対する圧倒的な想い
- タフ:困難な状況でも粘り強く駆け抜ける強さ
- 愛社精神:会社をもっとよくしたいという強い気持ち
【イントレプレナーに求められる6つのスキル】
- モチベーションマネジメント力:WILLの強さ、リーダーシップ
- 行動力:フットワークの軽さ、突破力
- 情報収集力:リサーチ力、ヒアリング力
- 情報整理力:構造化力、言語化力
- 価値実装力:プロダクト力、柔軟性
- 構想力:要素分解力、ストーリー構築力
これらの特徴やスキルは後からでも身につけられるため、イントレプレナーは「探す」よりも「育てる」ものといえます。
向き・不向きより「WILL(意志)」が先にある
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AlphaDriveの考えでは、イントレプレナー候補の選定においては、性格や経歴、スキルよりも「WILL(意志)」を重視したほうがよいでしょう。ここでいうWILLとは、『新規事業の実践論』で示されている「誰の、どんな課題を、なぜあなたが解決するのか」という3つの問いに、自分の言葉で答えられる状態を指します。
新規事業開発は仮説検証の繰り返しであり、学びと改善の連続です。「この課題を自分が解決したい」という強い意志があれば、困難を乗り越える原動力となります。
逆に、強い意志さえあれば、必要な資質やスキルは実践を通じて身につけられます。人材選定では、まずWILLの有無を見極めることが重要です。
3つの特徴:熱狂・タフ・愛社精神

AlphaDriveが提唱しているイントレプレナーに求められる特徴が、「熱狂」「タフ」「愛社精神」の3つです。
| 特徴 | 内容 |
|---|---|
| 熱狂 | 課題解決や事業に対する圧倒的な想い(先天的/後天的) |
| タフ | 困難を乗り越え駆け抜ける精神力 |
| 愛社精神 | 会社の将来と事業を紐づける視座 |
AlphaDriveが新規事業開発で特に重要としているのが、課題解決や事業に対する圧倒的な想い(熱狂)です。新規事業は「千三つ(1000分の3の成功確率)」と通説でいわれるほど多くの検証と学びを重ねるプロセスです。既存業務と並行しながら検証を重ねるハードワークの中、強い気持ちが挑戦を続ける推進力となります。
なお、熱狂には先天的なもの(既にビジョンを持つ)と後天的なもの(現場体験を通じて目覚める)があります。
また、新規事業開発では顧客へのヒアリングや社内調整で泥臭く動く場面が多く、謙虚さと粘り強さを持って取り組むタフさも欠かせません。
さらに「愛社精神」も重要です。これは従順さではなく、会社を自分ごととして捉え「もっとよくしたい」と考える姿勢を指します。強い愛社精神を持つと、「この事業で会社をこう変えられる」と自社の将来と事業を紐づけて説明でき、経営視座が自然と育まれます。
必要なスキルのいずれかを備えている

イントレプレナーには、多様なスキルが求められます。新規事業開発に生きる具体的なスキルとして、以下の6つが挙げられます。
- モチベーションマネジメント力:WILLの強さ、リーダーシップ
- 行動力:フットワークの軽さ、突破力
- 情報収集力:リサーチ力、ヒアリング力
- 情報整理力:構造化力、言語化力
- 価値実装力:プロダクト力、柔軟性
- 構想力:要素分解力、ストーリー構築力
もちろん、これらをすべて1人でカバーすることは現実的ではありません。異なるスキルを持つ人材がチームになり、新規事業開発から事業化まで進めていくことが重要です。
初期チームは1〜3人が適当で、必要な機能が明らかになった時点で、そのスキルを持つ人材を適宜アサインしていくとよいでしょう。
新規事業に向く人の特徴については、以下の記事も参考にしてください。

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イントレプレナーの育成方法
イントレプレナーの育成には、複数のアプローチがあります。WILLを引き出す機会の設計と、育成を支える仕組みづくりの両輪で、社内起業家が育つ土壌を整えることが重要です。
具体的には、現場接点の設計やメンターの配置、社内ベンチャー制度などの方法が有効です。これらを組み合わせると、イントレプレナーが継続的に生まれる組織文化を醸成できます。
現場接点を設計し、WILLを育てる

WILLは、リアルな現場体験を通じて推進者本人の内面から育まれていきます。中でも「熱狂」は現場体験を通じて後天的に目覚めるケースが多く、新規事業プログラムに課題を抱える現場での体験を組み込むと、「自分がこの課題を解決したい」という想いを引き出せます。
現場体験の機会を意図的に設計することが、イントレプレナー育成の起点となるでしょう。
メンターをつけて、実践を通じた成長を支援する
新規事業開発を初めて経験するイントレプレナーには、伴走者としてのメンターが有効です。メンターは、助言・相談を通じて自発的な行動や成長を促す存在であり、以下のような役割を担います。
- 新規事業の進め方のガイド
- 有用なネットワークの提供
- 自発的な行動の促進
- 必要なスキルのサポート
- 推進者のメンタルケア
重要なのは、メンターがすべてを代わりに担うのではなく、イントレプレナー自身が実践しながら学ぶ環境をつくることです。近年は、助言だけでなく必要な範囲で実務のサポートも行うメンターへのニーズも高まっており、関わり方は状況に応じて柔軟に調整するとよいでしょう。
新規事業開発におけるメンターの役割については、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

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社内ベンチャー制度で、挑戦できる環境を整える
イントレプレナーが継続的に生まれる組織をつくるには、社内ベンチャー制度を育成の土台として活かすことが有効です。はじめから独立した子会社を設立する必要はなく、まずは既存の新規事業部門の中で、独立した組織であるかのような裁量権や評価軸を持たせるところから始める企業が多く見られます。
既存事業との競合を恐れず探索を優先すること、撤退基準をあらかじめ設定しておくことなども、イントレプレナーが動きやすい土壌づくりに繋がります。
こうした土壌が整うと、生産的な事業開発活動が可能になり、着実に成果が出るようになるでしょう。その積み重ねが「新規事業への挑戦がキャリアにプラスになる」という認識にも繋がり、自ら手を挙げる人材が自然と増えていきます。
社内ベンチャー制度の具体的な設計ポイントについては、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

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イントレプレナー育成の成功事例
イントレプレナーは、適切な制度と機会の設計によって育成できます。ここでは、社内起業家を育てる仕組みを構築し、実際に成果を上げた3社の事例を紹介します。
トヨタ自動車:社会課題の現場に飛び込み、参加者全員が脱落せずプログラムを走り切った
トヨタ自動車株式会社では2020年から、社内向けの課題解決型の新規事業創出プログラムに株式会社アルファドライブ(AlphaDrive)の新規事業開発制度設計支援と事業開発プロセス伴走支援を導入しています。
トヨタ自動車はなぜ社会課題の「現場」に着目したのでしょうか。その背景を、本事例でご紹介しております。
三菱マテリアル:スタートアップとの協創と伴走支援で、起案者の「覚醒」を引き出した
非鉄金属などの基礎素材から金属加工品、半導体関連・電子部品、エネルギー・環境ビジネスなど、幅広い分野で事業を展開している三菱マテリアル。2023年11月から、同社初となるアクセラレーションプログラム「MMC Acceleration Program “Wild Wind” 2023」(以下、Wild Wind)が開催され、2024年8月の成果報告会(以下、DEMO DAY)では2件のテーマが審査を通過、事業化の準備を始めました。
UNIDGEは「Wild Wind」の支援パートナーとして、同社の新規事業戦略に沿ったプログラムの制度設計や運営、協業候補先スタートアップの探索、新規事業テーマのハンズオンでの伴走支援、審査実務等をサポートしています。
どのような課題感から、Wild Windは立ち上げられたのか、その背景を、本事例でご紹介しております。
メタルワン:全参加者へのフィードバックを軸に、イントレプレナー精神を育む文化を根付かせた
株式会社メタルワンは、株式会社アルファドライブ(AlphaDrive)の新規事業開発人材育成プログラムの設計支援とプロセス伴走支援を受け、人材育成プログラム「事業創造チャレンジ」を2021年より立ち上げました。
参加者に向けたキックオフセミナーで好調なスタートダッシュを決めて以降、社内に数々の変化があったそうです。社員の当事者意識が引き出され、社内の文化が変わりつつあるというメタルワン。その背景を、本事例でご紹介しております。
AlphaDriveは、多様な業種・業態の企業様における新規事業開発を支援してきたノウハウを蓄積しています。貴社固有の課題や状況に応じた戦略を設計し、多角的な視点から伴走型の支援を提供いたします。
過去の支援実績をまとめた事例集をご用意しておりますので、ぜひダウンロードしてご覧ください。
まとめ:イントレプレナーは「探す」より「育てる」もの
イントレプレナーは、適切な支援があれば多くの人が担える役割です。以下3つの仕組みにより、「探す」ものから「育てる」ものへと変わります。
- 現場接点を設計し、WILLを育てる
- メンターをつけて、実践を通じた成長を支援する
- 社内ベンチャー制度で、挑戦できる環境を整える
重要なのは、挑戦を奨励し失敗を許容する文化を根付かせること、そして一人ひとりの「WILL(意志)」を引き出し、実践の中で磨き上げていくことです。
イントレプレナーの育成は、組織全体の変革力を高め、新規事業創出を加速させる取り組みです。変化の激しい時代を生き抜くために、イントレプレナーを「育てる」組織づくりに取り組んでいきましょう。
監修者について
古川 央士
株式会社アルファドライブ 取締役 兼 グループ執行役員COO 株式会社ユニッジ 取締役
青山学院大学卒。学生時代にベンチャーを創業経営。その後、株式会社リクルートに新卒入社。SUUMOでUI/UX組織の立ち上げや、開発プロジェクトを指揮。その後ヘッドクオーターで新規事業開発室のGMとして、複数の新規事業プロジェクトを統括。パラレルキャリアとして、2013年に株式会社ノックダイスを創業。飲食店やコミュニティースペースを複数店舗運営。一般社団法人の理事などを兼任。社内新規事業や社外での起業・経営経験を元に、2018年11月、株式会社アルファドライブ執行役員に就任。リクルート時代に1000件以上の新規事業プランに関わり、10件以上の新規事業プロジェクトの統括・育成を実施。株式会社アルファドライブ入社後も数十社の大企業の新規事業創出シーン、数千件の新規事業プランに関わる。2023年より株式会社アルファドライブ取締役兼COO。